3 剣神の始動欲
「それでは、出発するぞ!」
アレンの声で、100人の騎士たちが3つに分かれて並んだ。
基本は3組に分かれて戦うらしい。
ハクはアレンの横に立ち訊いた。
「まずこんな大きな扉、開くんですか?」
「いや、まだ触ってもいないから分からない。だが開くと思うぞ」
「それはどうして?」
「勘だ」
アレンは扉を見上げた。目線を戻すとゆっくりと警戒するように扉に近づいていく。
アレンが扉の前に立つと、そこかしこから息を飲む音が聞こえた。
右手を扉のほうに向け、扉に手が触れたと思ったところで、ゴゴゴという音ともに両開きの扉がハクのいるほうに開いていく。
「いくぞ!」
「「おーーー!!」」
アレンの雄たけびに呼応するように騎士たちも野太い声を張り上げた。
ゆっくりと重みを伴って開いていく扉の先に最初にアレンが踏み込んだ。その後に続き、30人づつまだ少ししか開いていない扉に進んでいった。
ハクは最後尾につき、扉の中に向かっていく。
扉の先には大きな”部屋”があった。王座の間というのがふさわしく、純白の床に壁、天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっている。その中でも一際目を引くのが、赤いカーペットの先にある王座だ。王座には白銀の騎士が威風堂々と座っている。白銀の騎士がまとっているフルプレートアーマーは、白銀を基調に金で緻密な装飾がなされていた。
「騎士王……」
と騎士の誰かが漏らした声が聞こえた。
呆けていたハクが完全に扉の先へと踏み込むと、扉が今度はゆっくりと閉じた。
扉もそうだが、この場所にいると自分たちがちっぽけな虫になったようにハクには思えた。実際そうなんだろう。甲冑のせいで巨人ともいえる白銀の騎士の顔は見えないが、隙間から除く目のような赤い光が虫でも見ているかのようにハク達を見下ろしていた。
白銀の騎士とカオス種討伐隊騎士たちには、人間とハエ程の大きさの違いがある。そこにある種の神々しさを感じて、アレンが扉の前に立った時とは違った意味で息をのむ騎士もいた。
扉が完全に閉じると、白銀の騎士が王座に立てかけてあった巨大な剣を手に取りながら立ち上がった。
「来るぞ!!陣形を崩すな!!」
アレンの怒声に呆けていたハクたち騎士は戦闘陣形を作り直した。
白銀の騎士が足音とともに近づいてくる。
「足元を狙えーーー!!」
アレンの叫びで弾かれるように32人の騎士が剣を抜いて走り始めた。
白銀の騎士が剣を振り上げる。風がハクの白い髪を揺らした。
おぉぉぉおお!!と騎士たちから喊声を上げた刹那、24の命が散った。
助かった8人も白銀の騎士が振った剣の風圧に耐え切れず、吹き飛ばされて地面を転がった。そしてそこに欠かさず白銀の騎士の巨大な足が降ってくる。助かった8人の命も次の瞬間には肉片だけを残して消えた。
瞬く間に訓練された騎士たちを殺したカオス種にハクはめまいがした。
極大の白銀の騎士はまた剣を振り上げ、すさまじい速度で今度はハクたちがいる場所に振り下ろしてくる。
逃げ遅れた騎士たちの悲鳴が聞こえた。
ハクは吹き飛ばされないよう踏ん張りながらも、必死で逃げていた。次々と消える命。また一人、また一人と叫喚とひしゃげた肉塊をのこして死んでいった。
アレンが鯨波を上げる。
「敵の攻撃の回避にすべてを賭けろーー!!!ここでは疲れない!!体力の限界はないんだ!!!隙を伺えーー!!!」
赤いカーペットは白銀の騎士によって切り裂かれ、純白の床も破壊されたことによって影を作っていた。
ハクは逃げ回りながらも戦況を確認した。今生きているのは35人。段々と敵の大振りな攻撃に慣れてきてはいるが、足元の悪さに苦戦している。
ハクは目の端で扉を見た。
このままでは死ぬのを待つだけだ。一旦逃げるべきだろう。そう考えたハクは扉に向かって全速力で走った。敵の攻撃が当たらないところまできてハクは安堵した。
(騎士の方々、ごめんなさい)
いまだ命を散らしている騎士たちにハクは心の中で謝る。
抜いていた剣を鞘にしまい、扉を触った。
「開かない!?」
ハクが後ろを振り向くと、白銀の騎士が確かにハクのことを見ていた。
「開け!開けってば!!」
後ろから大きな足音が近づいてくる中、ハクは一心不乱に扉を押していた。
「ハクっ!!」
という声に横を見ると、剣を投げ捨てたアレンがハクに突進していた。
そしてそのすぐ後に膨大な風圧に投げ飛ばされた。
「ぐあっ!」
強い衝撃と痛みに身をよじる。
痛みをこらえながら急いで体を起こすと、横にアレンが血を流して倒れているのを見つけた。
「ベルに……ごめんと伝えてくれ……」
アレンがか細い声でそれをハクに伝えた瞬間、ハクは暴風に煽られて吹き飛ばされた。
「がっ……!」
身体を遠くにあったはずの壁に打ち付けえずいた。
お腹の中のものが出そうになり、ぐっと呑み込む。
倒れまま顔を上げ、アレンを探すと白銀の騎士に踏みつぶされたところだった。
ハクは体を小刻みに震えさせながらも、近くに転がっていた自分の剣を杖にして起き上がった。そして、白銀の騎士をみると、なぜか動きを止めていた。
アレンをつぶした右足を上げると、腰を曲げて何かを足の裏からとるそぶりを見せた。
「今だーーー!!!アレンが剣を刺したらしい!!俺たちではあの白銀の甲冑は斬れない!鎧の隙間を狙え!!」
と剣を構える大男、ロブが叫んだ。
その指示を聞いた生き残っている20人の騎士たちが一斉に白銀の騎士の左足元へかけていく。
何人かの鎧の隙間を狙った攻撃が当たった。
「よしっ!」
攻撃を当てた騎士たちが声を上げ、動きを止めている敵に追撃を加えていく。
遠くから見ていたハクは、敵の目が一瞬青く光ったことに気付いた。
「なにかくる!!」
ハクは夢中で叫んだ。
間髪いれずに剣から青い炎が騎士たちのもとに降り注いだ。
長い炎の濁流が止み、熱風に目を閉じていたハクが目を開けると、もうそこには誰もいなかった。
全滅したのだ。ハク以外は。
「うっ……」
ハクはえずいた。激しい吐き気に今度は身を任せ、腰をかがめ嘔吐した。
「ははっ、終わりだ。僕もここで終わるんだ」
乾いた笑い声が他人が出したかのように客観的に耳に入ってくる。
「あ……、はは……は。あはっ……ははは――――――」
死のう
白銀の騎士の目が青く光り、刀身が薄く光を発した。
晴れたような寒色の青い炎がハクに迫っていった。その青い炎がハクにはひどく綺麗に見えた。
「魔法か……。初めてみたなぁ……」
ハクは気づくと逃げていた。
死が怖くなったわけではない。ただ、そう――――
「魔法を使ってみたい」
ただそう思った。
2日か3日のペースで投稿していきたいと思ってます。