プロローグ
「我が覇道もこれにて終、か」
煙を吸い咳き込みながら皮肉気げに笑う。
少々傷が痛むが大したことではない。
炎に包まれたこの空間にくらべれば。
チロチロと着物の裾を火が舐める。
煙が目と肺に侵入し、チクチクと針に刺されているように痛む。おかげで視界はぼやけるわ、咳き込みわ、声は掠れるわ。
意識が落ちそうになるのを、痛みで捩じ伏せる。
眼前の虚空を睨み付けるその男は諦めを知らないのだろうか。苦笑を獰猛な笑みに変え、爛々と瞳を輝かせる。
しかし唐突に体が傾き、畳に倒れる。
「な、ん・・・」
「ちょっくら、眠ってて欲しいっす。悪くおもわないでくださいっす。」
背後から声が掛けられたのを最後に、視界は暗転した。
炎に包まれた建物を離れた場所から眺める怪しい人物がいた。黒装束に口布をあて、頭巾を被ったthe忍者である。
忍者は大きな荷物を抱え、コッソリと大火事で慌てている町民を観察していた。
「大火事って巨大なキャンプファイアーっすよねぇ。
恐怖する者、魅了される者、無関心な者。
・・・それにしてもよく燃えるっすね。めっちゃみえるっす。やっぱり木は燃えやすいって事っすかねぇ。」
ぶつぶつと独り言を繰り広げながらその場を後にする忍者。ヌルリと影に溶け込み音もなく姿を消す。
立ち向かい逃げ戦い裏切られ抗い殺し殺され
ただ一言で表すならば、それは下克上。
誰しもが上へと向かう野望と血に満ちた世界。
時は戦国。
時代は乱世の波に呑まれ木の葉のようにクルクルと舞う。