20 タブー
オフィスは今日も平和だった。週一のチームミーティングでは、休みを取って旅行に行っていた姉様からのお土産のお菓子が配られた。
和気さんと姉様方が小難しい話をするのを聞くともなしに聞きながら、私はほとんどその間、和気さんしか見ていない。茶系でまとめたコーディネートをチェックしながら、今日の下着は何色かな、なんて想像してしまう。
和気さんの下着は基本的に無地のボクサー。奥さんのチョイスだろうか。お腹が全然出ていないし、全身に程よく筋肉が付いているからパンツ一丁姿がとても様になって、広告のモデルにでも使いたくなる。ただし、あのニコニコ顔でポーズを取られたら台無しだから、顔の部分はトリミングしないといけないが。
このマネージャーがいかにひたむきで愛くるしいセックスをするかを知っているのは、チーム最底辺の私だけ。しかし、こういう無意味な優越感は、人間の価値観をどんどん狂わせる。それを私は、数年前に学んだ……はずだったのに。
有楽町、新橋界隈のレンタルルームもめぼしいところはあらかた制覇してしまい、私たちは気に入った一軒の常連になりつつあった。
私のおっぱいにしゃぶりついているときの和気さんは、アイスクリームを食べている子供と何ら変わりなく見える。そんなおよそカッコよくないはずの姿にすら胸をときめかせてしまう自分が、不思議でならなかった。どこをどんな風に弄んでくれるかとか、どんな体位で攻めてくれるか、みたいなことに対する興味を、私はとっくに失っていた。あと少しというときの和気さんの苦しげな恍惚の表情を慈しむだけで、この人を丸ごと愛せる、と思ってしまう。
している最中に「和気さん」と名前を呼んでしまうと、それに続けてあやうく「好き」と言ってしまいそうになる。そんなニアミス事例がすでに何度も起きていた。しかし、「好き」だの「愛」だのは禁句。どんなに酔っても言ってはいけない、和気さんを何よりも困らせる禁断のセリフであり、不倫においてはキスマークに次ぐ重大なタブーだ。
その日は、久々に親に嘘をつき、朝から外泊を宣言して家を出た。
レンタルルームの簡素なベッドの軋みを聞き、愛しい皺が寄る和気さんの眉間を見つめながら、私の脳内には警告灯が点滅しっぱなしだった。言ってはいけない。絶対に。
和気さんは、私が嬌声を上げるときよりも、それを押し殺しているときに漏れてしまう呼吸音の方に顕著に反応する。和気さんの首筋に頬を押し当てて荒く息づく私に、和気さんの中のオスの部分が燃え上がるのを感じた。
和気さんは延々と動くだけで満足してしまって結局イかなかったり、ゴムごと抜いてから出したりとその時々でいろいろだったが、今日は私の中のゴムの中にたっぷりと精を吐き出してくれた。




