17 雑感
ベッドでの和気さんは、何から何まで和気さんだった。
ガウンの下は私と同じくまっぱで、その体が結構しっかり筋肉質だったことだけが唯一意外と言えば意外だった。事が終わってから聞いたところによると、単身赴任ならぬ単身残留が決まってからは週二か週三でジムに通っているそうだ。
スキル的には決して器用ではないけれど、全てが優しいから多少のぎこちなさは十分カバーされる。そして予想通り、あまりバリエーションが豊富な方でもなかったが、実験台みたいにされるよりはずっといい。どこかで聞きかじった新しい技を次々と試したがる男というのが、私はあまり得意ではなかった。
和気さんはそういう冒険心には欠ける分、何か一つ気に入るとそれに関しては他の男たちの三倍ぐらいしつこかった。ただし、それで私を悦ばせているという勘違いが押し出されてこないので、むしろ好感が持てた。
快感の押し売りみたいな男が決して珍しくない中で、和気さんは自分がしたいことをマイペースで(それでいて気長かつ丁寧に)しているだけといった風だから、私もいつになくリラックスして心から身を委ねることができた。
「ここはどう?」とかも一切聞いてこない。それどころか最初から最後まで見事に無言で耽ってしまうタイプだ。それではつまらないとか一方的だと思う女性もいるだろうが、私にとっては、どうせ効かない言葉攻めを無駄に垂れ流されて反応を強制されるよりよっぽど快適だった。しかも、私は私で適当に体勢を調節すれば、ちゃんと達することもできた。
つまり、それだけでも相性の良さとしては十分すぎたのだが……。和気さんにはもう一つ強烈な磁力が備わっていた。
私はもともと、行為中の男の顔がどうも好きになれないのだが、和気さんのはたちまち大好物になった。最中の表情が圧倒的にセクシーなのだ。八人中どころか、私が見てきた種々雑多なAVと比べても。
お陰様で、快楽に没頭する和気さんのどこか解放的なしかめっ面をたっぷり堪能させてもらった。この人に夜の顔があるなんてことすら想像がつかなかったというのに……。これは最高のサプライズだった。
満足しすぎてすっかり帰る気をなくし、和気さんにゴロニャンしてお泊まりの合意を取り付け、二時間と言ってあったのを朝までに延長してもらった。私も和気さんも、六時台の電車で一旦帰れば、着替えて出直しても十分始業に間に合う。単身赴任バンザイだ。
和気さんが事後シャワーを浴びている間に、私は実家に電話をかけた。夕方の時点で夕飯がいらないことだけは伝えてあったが、外泊は新しい情報だ。
「大学のときの友達と有楽町辺りで晩ご飯を食べる」という話にしてあったのでそれを汲み、「彼女が失恋したばかりでヤケ酒してしまい、吐いたりしてだいぶヤバそうなので新橋付近のレンタルルームに一緒に泊まる」と告げた。
不倫も四人目ともなれば、これぐらいの嘘はスラスラと出てくる。「吐いたりしてだいぶヤバそう」だったのは忘年会のときの自分だろ、と心の中でツッコんでしまうが、もちろん母はそんなことを知る由もないし、「レンタルルーム」という当たり障りのないネーミングも早速役に立った。
和気さんが、何の遠慮もなくすっぽんぽんでシャワールームから出てきた。
「家には? 連絡した?」
「うん。今さっき電話で」
平気な顔をして親に嘘をつくところを、和気さんに再び聞かれるのが嫌だったからこそシャワー中にかけたわけだが、まさか「たった今上司と寝て気怠いから今日は帰らない」などと親に言うはずもないことは和気さんだってわかっているだろう。




