屋根裏暮らしのたぬきつね
続・あほな狸とやさしい狐のぐだぐだな話。
前作>シークレットマンション
別に読んでなくても読めますたぶん。
「ぷっはーーーー!」
んまい。んまいね。
やっぱりジュースは麦に限るよ。
ん? 一才のくせに、だって?
甘いね、狸は一才ともなれば成体さ!
この秋冬限定とやらの芋煮も最高だよ。
バター風味がまた、めちゃうままだね。
お芋って、なんでこんなに麦ジュースとの相性最高なんだろうねえ。
食べ過ぎて、おなかがぷーっとふくらんじゃいそうだよ。
おっと、挨拶が遅れたね。
初めましてかい。それともお久しぶり?
僕は翠狸さ、一才で、一人前の狸だよ!
「それ、いったい何杯目かな」
そんでもって、こう言いながら、訝しげな目をむけているのは、
僕の大好きな紅狐さん。一人前の狐さんだよ!
「んん、ジュースのこと? お芋のこと?」
「どちらも」
やばい。
何杯だっけ。
確実にじゅ……げふん、いや五杯はどっちもいってるか。
また呆れられてしまふ。
ここはアレだ、ごまかすんだ。
「数えてなかったなー、とってもおいしくってさ。紅狐さんも一緒にのもうよ!」
「……それじゃあ、ご相伴に預かろうかな」
ふう。
のりきったぜ。
「それで、何杯目かな」
のりきってなかった。
「あー! あいつ、テレビなんか出てやんの」
でも、こんなことでへこたれる僕じゃあないぜ。
ごまかし続行さ。
咄嗟につけたテレビで、見覚えのあるオレンジ色の背広の男が、得意げに喋っている。
「うへぇ、あんな心が一畳にも満たないやつがトップなの?
この国、終わるのかねえ」
比べるまでもなく、あの赤ら顔の巌みたいなおじさんの方が、
ぼかぁよっぽど好きだけどな。
ぜひともあの頭によじよじ登って、その景色を拝んでみたいもんだね。
「で、何杯目かな?」
にげきれない! 回り込まれてしまった!
それでも、も一度、コマンドにげるをせんたくだ!
何かないかと目をきょろり。
屋根裏部屋の三角窓から、晴れ渡る秋の空が見えた。
「あー、今日はいい天気だねえ」
あ、これ駄目なやつ。
続かないやつ。
「そうだね、この間まで荒れた天気が続いていたから」
続いた!
ほうら、紅狐さんはやっぱりやさしんだ。んだ。
「最近、ここらのかみさま激おこぷんぷん丸だったからねえ」
みんな、可愛い僕にめろめろだからな。えっへん。
僕が家から追い出されちゃったからって、僕より先に怒るんだもの。
僕なんか面食らって、ただあわあわしちゃったぜ。
ついでに、ヤンデレな夜のかみさまが、
『不当に扱われてるのなら、うちにおいで(はぁと)』
なんて言い出したもんだから。
冷や汗だらだらなんてもんじゃなかったぜ。
ていちょうにお断りしたけどさ。
『また誘うね(はぁと)』
とか言ってたし。ガクブルだぜまじで。
「で?」
ハイ。
観念しまふ。
「ご……いえ、じゅっぱいくらいです」
「その辺にしとこうね」
「あい」
落ち込んだふりをしつつ、もそもそと紅狐さんのお着物の胸元に潜り込む。
こうすると、背中越しに、彼女の気持ちがわかるんだ。
僕の特等席さ。ぬっくぬくだぜ?
うん、うん。べつに呆れてないらしい。くすくす笑ってら。
この屋根裏部屋で暮らし始めてから、かれこれ四ヶ月くらい。
紅狐さんもすっかり元気になった。
今じゃお互い、少しの遠慮もなくなって、毎日いちゃこら暮らしてる。
ところがだ。なんと、今朝になって……僕のしっぽの毛が逆立ちっぱなしに!
だから何だって?
これはつまりだねえ、よいかわるいかはともかくとして、何かが起こるってことなのさ。
しかし、あんな腐った家には今更帰りたいとも思わないけど、
友だちと連絡とれなくされちゃったのはまいったねえ。
厳しく制限されてるようで、お返事ひとつ返って来やしない。
みんなだいじょうぶかな。元気にしてるかな?
ふん。
舐めるなよ、クソども。今にみてろ。
僕くらいになったらな、返事なんかなくたってぽんぽん木の葉を送り付けるし、
夢枕にだって立っちゃうぜ。
おっと。
話が逸れたね、すぐに戻すよ。
そんなわけで、何が起こるかわからないから、
荷造りしとこうというわけなのさ!
お気に入りのもの、リュックにいっぱい詰め込んどこう。
主食の玄米でしょ、それから飴細工、お歌の本、とりにく、日向ぼっこ用の枕。
「そんなに入れるの? 入るの?」
あとはぬいぐるみのライオンにうさぎにゲス野郎にアンデッドにスライム……
「……ひょ!?」
荷造りに夢中になっていたら、紅狐さんがその鼻先を僕の背中に突っ込んできた!
そのままもふもふ、くすぐられる。
実はこれ、最近ちょいちょいやられるんだよな。
彼女の癖なのかなあ、こそばい!
……でもちょっとたのしい。
もう今日は、荷造りなんてほっぽって、いちゃいちゃしよう。そうしよう。
そう思った矢先に。
バキベキゴキバリゴキン。
まさにそんな音がした。
「ひょー!?!?!? 僕らの愛の巣があああ」
お口をあんぐりさせている間に、見事に屋根が剥ぎとられてしまいましたとさ。
屋根裏部屋の屋根がとれたら、何になるんだろ。裏部屋?
なんかやらしい響き。
なんて妄想、もとい現実逃避。
「こら。いつまでのんびりしているんだ。
いい加減出て来なさい」
現実を直視するなら、目の前には龍がいますよー。わはー。
その緑の巨体をぷかぷかお空に浮かべながら、
屋根のなくなった部屋の真ん中に、どーんとお顔を突き出してお説教。
相変わらず頭の固そうな、僕のお師匠さんのお出ましだ。
勝手にいなくなっていたくせに、僕よりずーっとえらそうでやんの。
まあ仕方ないか。僕が一人前なら、お師匠さんは百人前くらいだし。
えらそうってかえらいんだよな、ぷー。
お師匠さんの頭の上では、僕の兄弟子の白兎がぴょんぴょんと、
元気そうに跳ねている。
あいつ昔、かちかち山の真似して、僕の背中に火ぃつけた挙句、
唐辛子ぬったくってきやがったんだよな。
僕何にもわるいことしてなかったのに。
りふじん!
まあ、僕は一人前だからね。
それくらい、水に流してやらんでもないけどね……くそう。
そんなわけで、まったり屋根裏暮らしは、これにておしまい。
これからは、どんどん外に出て、思いっきり遊ぼうか!
僕は紅狐さんの手を取って、ひょいっとふたりで師匠の背に飛び乗り。
さわやかに晴れた秋の空の上、ぷかぷか旅立っていきましたとさ。
つづく! かもしれない!
これ自体は短編なもので。
続くとしたら、シリーズで関連付けた別話になります。
それでは、またいつか。