第一章 大人
先生、宿題やっていないので欠席してもいいですか。
電話越しに先生の怒鳴り声が聞こえる。僕はそれを耳から遠ざけ、止んだと思ったらまた受話器に耳を当てた。一つ覚えの様になんでお前はできるのにやらないんだ、と言われる。
もう、聞き飽きたフレーズだ。
「やればできる」
この言葉が僕は大嫌いだ。やればできるのは、自分のほうが知っている。けれど、めんどくさいからやらないだけ。多分、大人のほうが子供より頭が悪いのだろうな。
今、僕の目の前で山積みになっている課題も、三日(金曜日・土曜日・日曜日)でできる課題ではないと思う。先生は口をそろえて「お前たちの為だ」なんて言うけれど、先に自分たちがやれという話である。
こんな僕だけれど、クラスの代表委員をやっている。勝手に先生が決めたものだ。中学時代の書類も送られているはずだ。なのに、何故僕は代表委員をやっているのだろう。
そんなことを考えているといつの間にか、あっちが勝手に話を進めていたみたいで「じゃあ、来いよ」とチン、と電話が切られた。
「はあ……」
ため息を吐きながらも、渋々制服に着替える。緑のチェック柄のズボンに白い半袖シャツ。それから、紺色の鞄を持ち、携帯を確認し、地獄(家の外)に飛び出した。
外は蒸し暑く、何もしなくても汗が垂れる。蝉がジージーと鳴いているのを横目に見ながら右足、左足を交互に突き出す。一歩一歩、学校に近づいて行くと思うと気が重くなり、突き出す足もゆっくりになっていく。
学校が見え始めた時には、泣きそうなくらい嫌だった。