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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
キツネの檻
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踊る弓使い

「本当に大丈夫なんでしょうね」

「大丈夫だよ。俺FoWじゃ結構強かったんだぜ」

「ステータスは初期ですよ。本当に大丈夫ですか?」

「でも俺はこれがベストだと思ってるし、もうやる以外ないだろ?」


 ゴブリンの集団を前に、作戦の確認をしている。アカネとシアンは懐疑的な目で俺を見てくるが、作戦内容を聞けば仕方がないことだと思う。


「……じゃあ、任せたわよ」

「任された」


 準備は整った。


「俺が行ってもすぐ動くなよ」

「分かってるわよ」

「了解です」

「じゃ、行ってくる」


 俺は弓を構えてゴブリンの集団へと駆け出した。矢を放ちゴブリンを射る。続けざまに二匹、三匹と射当てる。そしてゴブリンたちは俺をターゲットとして認識する。群れが俺のもとへとたどり着く前にもう一匹のゴブリンを撃つ。これで準備は完了だ。


「アカネ!もういいぞ」

「待ってました!!」


 アカネがゴブリンの集団へ突撃し、大剣を振るう。その大剣はゴブリンリーダーと俺の矢を受けていないゴブリンを切り裂く。そして俺は通常種のゴブリンを四匹、アカネはゴブリンリーダーと通常種のゴブリンを一匹ずつ相手にする戦況になった。

 俺の作戦は単純で、アカネが攻撃を受けきれないなら分散させればいいというものだ。まず、俺がターゲットを取り、さらに相手するゴブリンを絞りこむ。そして、俺が戦っている間にアカネとシアンでゴブリンリーダーを倒して、他のゴブリンのバフを解除。残りを一気に叩くというものだ。

 しかし、この作戦の前提には“俺がゴブリンの攻撃を耐えきる”ことが必須になる。初期ステータスで遠距離武器持ちがこの役をやるのは確か難しい。だけど、俺には秘策という程ではないが策がある。


「正直、また使うことになるとは思ってなかったけど……、狂人化(バーサク)!!」


 スキル名を唱えると、視界の(はし)が赤くなる。だがこれは決してレッドゾーンを意味しているわけではない。

 狂人化(バーサク)。一時的に攻撃力と反応速度を上げるアクティブスキル。一見すると強力なスキルに思えるが、効果中は防御力の減少や魔法の使用不可、体力回復不可というデメリットもあり、その極端な性能のせいで戦闘で使う者はほとんどいないマイナースキルなのだ。ただ、使用時に目が赤く光ることから、見た目スキルとして取得するプレイヤーは多い。

 そんな狂人化を使った俺は弓を構えたまま、四方から向けられるゴブリンの攻撃を回避する。思考はクリアに、避けることに集中して、矢をつがえて、狙いをつけて。横なぎに振られる剣はバックステップで、突き放たれる槍は横に動いて躱す。

 懐かしい感覚だ。これはFoWで使っていた戦法で、昔は避けながら近接武器で攻撃をしていた。横目でアカネの方を見ると、ゴブリンリーダーの胴を切り上げていた。心配はいらないようだ。


「こっちに集中だな」


 俺を囲んでいるゴブリンの攻撃が止まることはなく、不慣れな武器で反撃もままならない。しかし、避けるだけなら問題無くこなせている。


「こりゃ撃てないな」


 正直に、そう思った。避けるだけで精一杯というわけではないが、矢を撃てるほどの隙を相手が見せてくれない。早く弓に慣れようと、また思わせる戦闘だ。

 諦めて弓をベルトの後ろに引っかける。


「けど攻撃は諦めたわけじゃないぞっ、と」


 槍を持ったゴブリンの突きを、前に踏み込みながら体を少しそらして躱し、右手に持ったままの矢をゴブリンの鼻っ面に刺す。グギィと短くうめき声を出して少しのけぞるゴブリンに、ローキックを一発いれて距離を取る。いくら狂人化をか使っていても、こんな攻撃ではダメージはあまり通らない。

 矢の無駄遣いになるな、と判断して回避に専念することにする。その時、俺を囲っているうちの一匹のゴブリンが頭を勢いよく横に傾け吹っ飛んだ。


「お待たせしました」


 シアンの狙撃だ。その一匹のHPバーは赤くなり、ヘイトがシアンに移動する。その一匹は起き上がりシアンに向かって走り出すが、割り込んだアカネの一閃に飲まれ弾けて消えた。それから、アカネはさらに一歩強く踏み込んで残りのゴブリンをなぎ払う。だが攻撃は浅く、一匹残った。


「せやぁあ!!」


 アカネは身体をぐるりと一回させて、勢いの乗った攻撃をゴブリンの胴に叩き込む。そしてゴブリンが散り、戦闘は終わった。ウィンドウが出てクエストの達成を告げる。


「いやー、終わった終わった」


 久しぶりに狂人化を使ったせいか、疲れがどっと来るような感覚に襲われ、それを二人に見せないように伸びをしてごまかす。が、二人はまた懐疑的な目で俺を見る。聞きたいことがあるって感じだ。二人はその目のまま、俺に詰め寄る。


「な、なんですか?」


 思わず気圧される。けど、二人はそんなことはお構い無しと、さらに距離を詰めてくる。


「あの~……」

「「狂い兎(バーサクホッパー)」」

「やっぱりか……」


 俺はFoWで狂人化と白い髪の色から、こんな恥ずかしいあだ名をつけられていたのだ。


「なんで隠してたのよ」

「べつに隠してたわけじゃ……」

「でも聞いてませんよ」

「言う必要もないかと思って……」

「言いなさいよ」「言ってください」

「あは、息ピッタリ」


 狂い兎なんて恥ずかしいあだ名、バレたくなかったんだがな。勝つことに夢中になってしまって、その辺の配慮がどっかに行ってしまっていた。


「はあ……、まあいいわ。クエストもクリアしたし、モノブラムに戻って報告済ませちゃいましょ」

「そうですね」


 アカネが額に手を当て、ため息をつき呆れたように言う。これでもう追及されることはないだろう。


「話はモノブラムに帰ってから聞けばいいし」


 デスヨネー




 ▽


 モノブラムに帰った俺たちは、ギルドでクエスト達成報告を済まし、そのままギルドホールのテーブルを囲んでいる。話題は……、


「どうして隠してたのよ」


 変わらずこれだ。


「だから隠してたわけじゃないって。言わなくてもいいって思ってたんだよ」


 あと恥ずかしいし。


「でも、内緒にされるのはあまり気持ちのいい話ではありませんよ」

「そうよ。隠し事されるのは気分が悪いわ」

「そ、そんな大事なことか?」

「PvP大会5連覇して運営に殿堂入りされたのが大事じゃない、と?」

「それは……」


 そういやそんなこともあった。後の方は仲間に無理矢理出場させられて、5回優勝したら殿堂入りという扱いを受けて、もう大会に出なくていいことになった話だ。そうだ、あの大会出てから、あんな恥ずかしいあだ名をつけられたんだ。

 アカネはまた、ため息を一つ吐く。


「もういいわ。ちょっと驚いたけど、それだけだし」

「そ、そうか……」

「でも、バレたくないならもっと上手く隠しなさい。後で面倒なことになっても知らないからね」


 ツンケンした言い方だが、要は俺を心配してくれているのだろう。シアンも小声で「素直じゃないですね」と俺に言ってくる。アカネはそんな態度がバレてないと思っているのか、もう一つクエストを受けようとクエストボードへ向かう。そんな背中をシアンと二人で追いかける。


「……なによ、ニヤニヤして」

「嬉しいから、かな」

「ですね」

「なに、今度は二人で内緒事?」

「べつに~」

「なんかムカツク」


 ムスっとするアカネを見て、また笑う。イイヤツと巡り会えたもんだと、そう思った。




 ▽


「報告完·了」

「お疲れさん」

「お疲れ様です」


 また一つクエストを達成してギルドに戻ってきた。今度は特に問題もなく、三人でウサギを蹂躙していくだけだった。ただ、俺の弓の練習も兼ねたせいで時間がかかり、日は大きく傾いている。


「今日はもう終わりね」

「そうですね」

「そういや、シアンは宿どうすんの?」

「私はこれから探しますよ」

「ならアタシたちのとこ来る?」

「……お二人がよいのなら」


 シアンが遠慮がちに言うと、アカネがシアンの手を引っ張って歩き出す。


「よーし、決まりよー」

「おー」


 そして俺たちは安宿へと向かう。シアンは初めは驚いたような顔をしていたが、すぐに嬉しそうな笑顔に変わった。


 夕日で赤く色づく街を横目にのんびり歩いていると、どこかからか怒鳴り声が聞こえてきた。アカネとシアンにも聞こえているようで、三人でキョロキョロとそれがどこなのかを探す。


「イヤや言うとるやろ!!ウチかてやっと見つけたんや!!」

「こっちは五人もいるんだぞ!!」

「数の問題とちゃうやろ!!」


 どうやら喧嘩のようだ。今いる通りの宿屋から、男女が言い合う声が聞こえる。


「こっちは疲れてんだ。どこも空いてないんだよ」

「そんなんミンナ一緒や。ウチかて疲れとんねん。はよ休みたいんや」

「一人のくせに宿取りやがって。ボッチなら外でもいいだろ!!」

「はあ!?どんな了見や、こんなん早いモン勝ちやろ。恨むんなら鈍臭い自分を恨むんやな」

「コノヤロウ……」


 スゴい険悪な空気が漂っている。状況を見るに、宿の部屋取りに負けた男たちが、関西弁の女の子に絡んでいるようだ。それにしても、あの男たち相当余裕が無い。どうにかしてやりたい気持ちが芽生えるが、今の俺は一人ではないので、俺の一存だけでは動けない。

 どしたものかと思案していると、


「一人じゃなかったらええねんな?」


 関西弁の女の子が挑発的に男たちに言った。そして、つかつかと歩いてこちらへ向かってくる。俺の前で止まって、目が合うと、


「ウチと一緒に来てくれへん?お連れさんも一緒に」


 と、俺の手を掴んで頼んできた。


「でも、」


 俺は「男だ」と言おうとしたら


「女同士やし、ええやろ」


 心にクリーンヒット一撃。アカネは必死に笑うのをこらえているが、肩が大きく揺れている。


「ちゅーわけで、もうええやろ?おっさん」


 そう言って女の子は俺の手を引っ張って宿屋の奥へと入っていく。チラッと後ろを振り返ると恨めしげな目を向けてくる男たちがいた。

アキは現実では高校生で制服だから間違われない。

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