隣の席の女の子
「隣いいですか?」
大学の講義が4限ぶっ通しで疲れていたが彼女を見てその疲れがどこか吹っ飛んでいった。艶のある肩まで伸びた黒い髪、まっすぐな瞳、頼りがいのある風格。そのため彼女を見たら第一印象は美人だと誰もが口を揃えて言うだろう。
「いいですよ。」
ぼくは彼女に見とれていたため少し答えが遅れた。彼女はしなやかにいすを引き座った。
「な、何ですか。」
彼女がぼくの視線に気づき不安そうに尋ねてきた。あなたに見惚れていたので、なんて言えるわけがなく無難に答えた。
「すみません、なんでもないです。」
それを聞くと彼女は自分の鞄からスマホと筆記具を取り出しスマホの操作を始めた。僕も講義の準備をしてスマホを取り出し操作を始めた。しばらくして先生が現れ、講義が始まった。
「じゃあ、教科書14ページ開いて。」
静かな教室に教科書を取り出し開く音があちらこちらからする。その音が止むと先生は説明を始めた。先生の講義は言っちゃ悪いが退屈でついついあくびがでてしまう。始まって5分も経っていないのに夢の中にいる人もちらほらいる。
「じゃあ、次のページ開いて。」
講義が進むにつれぼくのあくびの回数が増えていく。となりの女性はあくびを1回もせず黙々とノートに何かを書いている。黒板には何も書いてないし、先生の退屈な話のどこに書くべきところがあるのか疑問だった。そんなことを考えていたためか頭を使い、ぼくも夢の中に入ってしまったようだ。
目が覚め体を起こした時に肘が消しゴムを落とした。
「あ。」
彼女がそれに気づき、拾ってくれた。
「ありがとうございます。」
小さな声で礼を言い授業終了までぼんやりと過ごした。心地よい風が当たり気持ちよかった。あと数分で終わるというところで隣の女性のお腹が可愛く鳴った。ついぼくはその音の鳴ったほうを見てしまい彼女と目があった。彼女は頬を赤く染め下を向き照れていた。見た目と違った一面にぼくは微笑ましく感じクスリと笑ってしまった。彼女がすこし怒った表情を見せたがその表情もかわいかった。授業の終了を知らせるチャイムが響き渡るのと同時に先生の講義も終わった。彼女は恥ずかしかったのかすぐに支度をして帰ってしまった。
この時、ぼくは一言何か話しかければ何かが変わったのかもしれない。しかしぼくにはそんな勇気はなかった。