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繋げる野心と繋がる絆

テルクスは広いフロアにでていた。

キマイラ以降の大型はそこまでおらず、小型…とはいっても虎くらいのサイズをしたいろいろな魔物を合体させたような見た目をした合成魔獣が主体に数多くおり、それらを倒していくなか、このフロアにでた。

最初はなにもなく、警戒しながら移動していると突然目の前に鳥型の合成魔獣が出現し、爪で貫かんとばかりに攻撃してきた。

恐らく迷彩能力を持ち、隠れていたのだろう。

間一髪でそれを避け、構えたテルクスだが、しかし、後に見た光景は異様そのもの。

天井が急に崩れ、驚きつつも、なんとか瓦礫を避け、安全な位置にいき、改めて天井が落ちてきた場所を見るとそこには人型をした狼…手足は人間そのもの。しかし、それ以外は狼という風貌をした魔獣が鳥型の魔獣を食べていた。

天井が落ちてきて瓦礫がモロに当たり、ボロボロになった鳥型魔獣にのしかかり、何度も何度も殴った後、腸をさきつつ食べる。

この狼型魔獣が天井を崩してでてきたことは容易にわかる。が、この光景を理解するのには時間を要した。

しばらくしてこれはチャンスだと思った。やはり余計な体力の消費は避けたいテルクスは狼型魔獣が鳥型魔獣を食べてる間に移動しようと一歩動いた時、狼型魔獣が食べていた動作をピタリとやめ、こちらを振り向いた。

そこで顔を見ることになる。後ろから見たら狼にしか思えなかったが顔が…違っていた。まるで狼の顔に当たる部分をくり抜き、男の人間の顔を当てはめたような…。

呆然とそれをみることしかできなくなり気づいたら耳をつんざくような咆哮をあげながら狼型魔獣が殴りかかってきていた。

スローモーションのように感じる瞬間もその異様な顔を見ていてしまう。

殴られた衝撃によって身体から嫌な音がなりつつ、吹き飛ばされた。

最初に戦ったキマイラほど大きくはないが人間二人分を優に超える大きさの魔獣に殴られ、立つことなどままならない。そんな状態のテルクスに容赦なく飛びかかり殴ってくる。

何度も何度も。先程の鳥型魔獣のように。

殴られた衝撃で地面が割れ、粉々になった地面によって霧が舞っているような光景のなか、それを利用してテルクスは逃げた。

身体強化を使い、無理矢理身体を動かすことで避ける。

こんな状態ではとてもではないが戦えない。この日の為に鍛えたテルクスにとってはあの程度の敵なんでもない。勝てはするだろう。

しかし、先手を撃たれただけでなく、勝てはしても、体力の大幅消費は避けることができない。

そしてあの凶暴性は…目的の場所が近いことを示すには十分だった。

あそこまで凶暴なのはここにきて初めてであり、ここまできた侵入者にトドメを刺すにはうってつけだ。

あいつは…最期の門番。ここでもたついてる場合じゃない。

何より感じる。ミレルの…あの優しい魔力を…近くに!

そう確信したテルクスは頂上へ急ぐ。彼女の…ミレルの元へ…。


もはや魔力水でできた海。と言わんばかりの場所からやっと、足をつける場所についたアダンはそこに足を降ろす。

「…うん。まあ、あるよね。そんなこと。」

2度目のそんなことを口にしたアダンは自分の身体を確認する。

傷一つなく、綺麗な身体。服すらも傷がない。

「この程度で倒れるわけないだろうに。やっぱ、やっと会えた同胞を消したくなかった…というより、時間がなかったからかね。」

バッと上を向き、身体を低くし右手を地面につけ、足に身体強化の魔力を込める。

時間がない。だからこの程度で済ました。アダンを倒すのは難しいと判断した結果落とすことで時間を稼ぐつもりだろう。あいつは…ディラルは言っていた。塔の管理…今までのことから理解できる。その中枢は創始者と呼ばれる存在のミレルだろう。つまりその管理における中枢に今現在近づいている存在がいる。管理を今一番邪魔しているのは…テルクス。自然優先対象になるだろう。

正直、ニヤリと笑ってしまった。わかってはいたし、確信はしていたがやはりテルクスはミレルのために鍛えただけあり、そこまで行けていたのだ。しかし、ディラルはレベルが違う。鍛えたとはいえ、限度がある。急がなくては…。

足に力を込め、跳ぼうとした瞬間、天井が崩れたため、中断せざるをえなくなる。

瞬時に瓦礫と落下したきた物体を避け、見るとそこには顔、手足は人間、身体は狼の魔獣がいた。

天井を見ると幾つもの穴があり、高いところから落ちてきたことがわかる。

「え⁉︎何⁉︎どっからきたの⁉︎何故にわざわざ遠いところからお越しくださったの⁉︎」

そう言うアダンに応えることはなく、咆哮をあげ、いきなり殴りかかってくる。

その時アダンは思い出した。ディラルは番人の管理をしていることを。

先程理解したディラルのアダンを落とした理由と目的。

その程度で倒せるわけがないことはわかっていただけあり、この番人にアダンを追撃するよう指示をだしたのだろう。

狼型魔獣の拳を片手で止めたアダンはこの状況に少しだがメリットを感じた。

この狼型魔獣。相当の体力と凶暴性があることは一目でわかる。テルクスなら問題なく勝てるだろうが体力の消費は避けられない。

ならそいつがテルクスではなくアダンを目標に来てくれたのはありがたい話だろう。

その分、テルクスがミレルを助けやすくなる。

そのまま片手で魔獣を持ち上げ、投げるアダン。

魔獣はすぐに咆哮をあげつつ起き上がる。

「対魔獣リベンジといきますか!」

ステップを踏みつつシャドウボクシングをし、ヴィルネンスに入って魔獣と相対した時と同じように人差し指をクイクイと動かし、来なと言わんばかりのジェスチャーをする。

再び咆哮をあげつつ殴りかかってくる狼型魔獣。

瞬間、剣を投げ、跳ぶアダン。

剣は回転しながら、魔獣の右目を斬る。

殴りかかってきた腕に着地したアダンは再度跳び、魔獣の背後で剣をとる形になる。

すぐさま後ろを向き両腕を合わせ振り下ろしてくるが、魔法陣で空中に足場を作ってジャンプしそれを避け、もう一度魔法陣の足場を作り、魔獣の上へ。

剣を突き刺すように落下するアダンだがその攻撃は腕を盾にすることで防がれる。

結果腕に剣が突き刺され、それを確認したアダンは身体をひねり腕の下に行く。剣の先が突き刺されたことで、でており、腕を身体強化で硬化し、剣の先を掴み、引き抜いた。

痛みで咆哮をあげ腕を振って攻撃するがアダンには当たらない。

アダンは一度地面に降り、足に力を込め、跳び、その勢いのままお腹を殴る。

追撃するように足で魔獣を吹き飛ばした。

着地し、魔獣が吹き飛んだほうを油断なくみるとすぐに起き上がった魔獣が咆哮をあげながらアダンを見た。

しかし、足はガクガクと揺れ立っているのもやっと。アダンによって貫かれた腕はプランと力なくだれていた。

「そんなになっても立ちあがるとは…タフだねぇ。」

と言ったアダンだがタフな理由はすぐにわかった。

貫かれたことによって穴が開いた腕の傷が塞がっていく。

「成る程。再生か…これゃ、トドメさすしかないかな。…大方人間と魔物を合成した魔獣でも作られて…こんなのができたんだろうな。魔物の生命力と細胞が人間の再生能力に影響を与えてそんな再生能力でも得られたからタフっぷりを発揮できるってことね。」

剣の切っ先を魔獣に向けたまま、剣を持った右腕を引き、左手を伸ばし、手の平を魔獣に向ける。

魔力が剣に収束されていき、剣が魔力によって大きくなる。

「じゃあな。せめて…安らかに眠ってくれ。」

そして突いたと同時に収束された魔力がその突きを描くようにして放たれ、魔力の奔流が魔獣を飲み込み、消し飛ばした。


ズンっと塔が揺れた。

「っ!…なんだ⁉︎」

魔力を身体に集中して流すことで先程のダメージをなるべく回復させていたテルクスだが回復が終わったと同時に塔が揺れたため驚きつつも警戒する。

しかし、揺れはすぐに収まった。

疑問が生じたがすぐに振り払い、目の前に集中する。

頂上の扉…目的の場所の前にテルクスはやっとついていた。

ここが何故、そうだと理解したか。それは単純。この扉からミレルの。あの暖かい魔力を感じたから。そして、あの男の忘れようがないドス黒い魔力も。

息をゆっくり吸って吐くことで心を落ち着かせ、再度前を向く。

手を扉につけ、ゆっくりと開けるとそこはまさに王が椅子に座って構えているような部屋が広がっていた。

赤い絨毯に、奥には巨大なパイプオルガンのようなものがあり、そこの椅子に、ミレルが座っていた。

さっき王が椅子に座っているような…という感想を抱いた理由でもある。

まんまそんな部屋。今までの無機質さが嘘のようだった。

「⁉︎…どうして…?」

ミレルがテルクスに気づき、驚きを口にする。

今までと全く違う豪勢なその広い部屋に驚いていたテルクスだがその声にハッとなり、すぐミレルを見る。

あれから時がたっただけあり、大人びたその姿に思わず見惚れてしまった。

髪はあれから伸びており、腰にまであの美しいプラチナの髪があり、より一層見惚れてしまうほどの美しさがあった。

ずっと見ていたいけどいつまでも見惚れているわけにはいかない。テルクスは口を開いた。

「どうして…って。あの時約束したじゃないか。あれを果たしにきただけだよ。」

「そんな…そんなことのために?そんな姿になってまで?」

テルクスは改めて自分の身体をみると、今までの魔物達との戦いや、長年、生命力を奪われただけあり、ボロボロなのは一目でわかるような姿だった。

「そんなこと…じゃないよ。それに別にこの程度なんてことない。だって君は俺にとって…!」

と、そんな時あのドス黒い魔力とともに声が聞こえた。

「感動の再会もいいが、それだけじゃあ、私の脚本ではないな。」

カツン。カツンと靴の音がなり、やがて靴の音が消えた。無機質な場所からこの絨毯にしかれた部屋にでたのだろう。

つまり、いる。この部屋に…奴が…!

首を声がした方に向けるとそこにはあの無精髭の男が立っていた。

ガクガクと見ていられないほどにミレルは怯えている。

「悲劇がないと…。やっと感動の再会をしたのに、片方が死ぬとかのね。」

「…三流だな…。」

テルクスが言うと男は小さく笑った。

「言うようになったな。あのガキがここまで来るようになるとは…。しかし、警戒しすぎではないかい?あの時は君がガキだったのもあって魔力を使った攻撃なんて一切してないのに。さっきから怖いよ。その闘気。」

「…あんたは会っただけで気分悪くなるような魔力垂れ流しだからな。いやでも警戒するよ。」

「はは。そうかい。その隙のない雰囲気からもわかる。本当に強くなった。が…まだ」

一瞬でテルクスの近くに移動し、テルクスがそれに対応しようとするもあっけなく吹っ飛ばされてしまう。

「ガキだ…。」

衝撃で形が歪んだ壁にもたれながらなんとか立ち上がるテルクス。

「何故だ…何故こんなことを…。村の皆を苦しめたり、ミレルを怯えさせたりしているんだ⁉︎」

力一杯に叫んだテルクスにまたもや、一瞬で近づき

「決まっているだろう。来るべき時のためだ!!!」

テルクスの後頭部を掴み地面にたたきつけた。

「貴様に…この私の…苦しみがわかるか⁉︎」

後頭部を掴んだまま持ち上げ再びたたきつける。

「かつて…この塔は国だったのだ。二十年程…前のことだ。戦争という火の粉が当たりを舞い、当然我々も参加していた。当時幼かった私ですらな。魔法技術も平均的な我々国家は勝つということが難しく敗戦続き…。そんななか、国家のため、すべての国民に対し対策はないかどうかの案を募った…。そして、私が提案した…魔法塔計画が採用された。それはな。国を「丸ごと」塔という形に収束させることで国全体の魔力を一点にし、同時に自衛力、殲滅力を持つ兵器を作り出すものだった。」

テルクスの後頭部を掴みたたきつける。これをずっと飽きなく威力が落ちることなく続けながら喋り続ける。

「当然、実現化は難しいものだったが、私のたてた理論はそれを可能にするものだった。それは…創始者によってなされる、人間を越えた領域の魔法によってなされるというもの…。「変換」の創始者。ミレルの…母にして我が妻…レイミィ・ヴィルネンスだ。」

「……っ!」

ミレルが辛そうに顔を歪める。母親のことがでたのもあるだろうがテルクスが今、痛めつけられているのを黙って見ていることしかできなからというのもあった。

「この時は充実していた。国民が私の名を繰り返し言ってくれるのだ。ガレル・ヴィルネンス。この名を。私の名を。だからこの塔の名前は新たな国として前の国の名前を消し我が名となったのだ。しかし結果は…失敗だった。塔こそ、その「変換」の力をもってして造ることができ、塔の中に国民の住居を作ることで国として造り上げることができた。が、魔力が足りなかったのだ。自衛力と殲滅力たる魔力が。国一つを丸々塔という、一点への形になすことができたというのにだ。そこで次の策は…国民の魔力を吸うことで力としていくことだった。」

身体強化をすることで防御力をあげつつ、掴まれている現状から逃れようとするが圧倒的な力で掴まれているからか、逃げられない。そんな時、国民の魔力を吸うという話…自分の村が受けている現状と同じ事が話されそうとしたため、防御力をあげ、チャンスを待つと同時に話を聞く事に集中する。

「もちろん、そのまま言えば反感を招きかねない。だからこそ、極秘に。そして脱出できないようにすることでその魔力を徐々に奪っていった。国民の住居ごとな。この際、どうしても時間がかかるから迷彩魔法をすることでこの塔を隠した。徐々に。としたのは気づかれにくくするためだ。常に勢いよく魔力が上昇している塔など、隠すことなど不可能だからな。しかも、準備が整う前に潰されかねん。そうしてそんなことをしつつ、時がたち、私とレイミィは塔の維持とこれからの、引き継ぎのため、子を産んだ。わかるだろう?ミレルさ。レイミィは武力による威圧によってでも平和になることを望んでいた。彼女自身、戦争孤児であり、平和というのが訪れることはないとわかったからこその協力であり、願いだった。だからこの塔を…造ってくれたのだ。」

ミレルも辛そうにしながらも黙って聞いている。諦めという感情が顔から伺いしれることからこの事実を…彼女は知っているのだろう。

「子を産むと同時に彼女は塔の最終管理を私に。塔の魔力循環やら、性質やらの管理のために、ミレルに力を引き継ぎ、病気で死んだ。最後まで彼女は平和を願っていたが…国民が魔力を吸われているという事実を彼女は知らなかった。だからこそ協力してくれたのだがな…事実を知れば反対していただろう。…こうして準備は着々と整っていった。数多くの国民を…いや全ての国民の魔力を吸うことに成功した。そうして戦争にこの塔を用いての参戦した時のため、魔力水という形にして魔力を貯蓄することで、戦争に勝つつもりだったのだ。しかし…知っているだろう?いざという時に…!戦争は終わったのだ………!!!あの…紋様の光によって…!」

力強くテルクスをたたきつける。ミレルは涙を浮かべ顔を逸らした。

「これまでのは全て無駄だった…。わかるか⁉︎私の…私の輝かしい…新たな未来は!!!こうして消えたのだ!!!戦争で勝ち、世界の王となるという野望は…しかし、消えていない。そうだ…新たな計画が今!私にはある!戦争を…再び起こすのだ…!!この塔を持ってして!!!魔力を吸うという現象を外にをもだし、範囲を着実にゆっくりと広げ、やがて溜めた魔力を持ってして戦争を起こし…王となる。」

狂っている…。そんな感情がテルクスを覆う中、理解したことがあった。自分の村は恐らくその「変換」のさい、国の近くにあったが国の範囲に入っていなかったから逃れられたのだろう。塔になることこそなかったが塔の外に魔力を吸う…恐らくあの霧のようなものをだし、それに巻き込まれた。昔はあんな塔がなかったから、太陽が当たる、暗さがない、村だった。

まだ疑問は残っている。国民全て…とは言ってもこの男…ガレドだけではこんなことはできまい。創始者の協力があるとしても。ならそのガレド以外の人間は何処に?そして、ミレルのあの怯えよう…それの答えがまだわからない。

「はは…長々ペラペラとよく話すな。さすが三流脚本家だ。」

力を入れ、震える声ではあるがそう口にするテルクス。

「それゃそうだ…君に協力してもらうからね。事情を話しておくのは当然だ。」

ガレドはテルクスの後頭部を持ちあげる。自然上体が上がる格好になる。

「協力?それはどういう…」

「わかるだろうに。事情を知ったんだ。協力したい気持ちが湧いてきているだろう?」

「…は?」

何を言っているのか理解できない。言っている言葉をわかるが。内容が…

「私がどれだけ辛かったかこれで理解できたはずだ。こんな壮大で素晴らしい計画を立てたにも関わらず頓挫せざるを得なかったという事実…。真に優秀な者に限って表に出れない。それはなんと悲しいことか。それはいけないだろう。許容してはならぬことだ。だから協力をしたくなってくるだろう。誰かが苦しんでいるのだから助ける、協力するという感情。人間として当然の感情だ。」

狂っている。

「今までの仲間達。私と共にこの計画を立てた仲間達もそうだった。「協力」してくれたよ。魔力となり、また、「門番となる」ことで、この施設を守ってくれたりとね。」

この発言を聞いた時ミレルの震えが大きくなった。

「我が娘…ミレルにも見せてあげたさ。あの素晴らしい姿になっていく様を。君も見ただろう。あの魔力で合成した魔獣さ。ミレルがこの塔の管理のため、流してくれている創始者の魔力を応用して魔術と合わせてね。そしたら人間があのような姿に…!はははは!ミレル!今思い出してもあの素晴らしさに震えが止まらないよなぁ!あの苦しみ…呻き…!今でも耳に残っている!そして「門番」が完成した!君はどう、「協力」したい⁉︎魔獣化か⁉︎魔力になるか⁉︎ど…!」

喋っている途中にテルクスがガレドの顔を殴った。油断仕切ってていたのもあり、モロにくらい、ミシミシと音をあげながら吹き飛んだ。

…ミレルがおとなしくこの状況を受け入れているのがわかった。

「お前…ミレルを脅したな。そのクズな行動を。人間を魔獣化させる様でもみして。」

クレーターのように壁が凹んでそこにうずくまったガレドがテルクスを睨みながら口を開く。

「違うな。「協力」してくれたのだよ。ミレルは良い子だからね。見せたというのはね。直接見せるなど。我が娘にそんな。先程言っただろう。ミレルの創始者の魔力を魔術と合わせて魔獣を造ったと。その苦しみ、呻き、様子が自然、ミレルの脳内に、身体に流れたにすぎんさ。「直接」その苦しみが伝わったのだ。故に分かったのだろう。その崇拝さを。だから私の言うことを聞いて…」

再びガレドの顔面を瞬時に近づいて殴るテルクス。

「お前…もう喋んな。長いわ。ウザいわでうんざりだ。」

殴られた衝撃で地面を転がったガレドはしばらく倒れたままだったがゆっくりと立ち上がった。

「彼女が外に出てたのを知り、連れ戻したあの日は…ミレルの誕生日でね…。わかるだろう。それはミレルへの誕生日プレゼントなのだ。私の親心だ…!!貴様にはわからんだろう!!!」

「そんなものをプレゼントなんて思ってる時点で…お前はクソ親だ!!!」

瞬時に近づいたガレドの顔面を再び的確に狙い、拳で叩きつけた。

すぐさま立ち上がったガレド。

「おかしなことを言う奴だ!私はな!ミレルがその後塔から出ようとするたび、その人間が魔獣化する様を見せてきた!何故か!それは愛ゆえにだ!初めて見せた時もミレルは外にいたから外に出ようとするのはそれが見たい合図だと理解したからだ!魔力を塔に流すという仕事をしていない時も!魔力に限界がきて倒れた時も!わざわざ見せてやったのだぞ!!!この愛がわからぬかぁ!!!」

「わかりたくもない‼︎」

魔力で筋力を強化し、ガレドの身体を殴り飛ばすテルクス。

「ミレルがあんなに怯えてた理由がわかったよ。それと…ミレルにやりやがったことはそれだけじゃないこともな。」

ガレドが吹き飛んだ方向を見ると、ガレドが壁にぶつかった衝撃で、壁が凹み、砂塵が舞う。

「お前に初めて会った時、ミレルは怯えていた。もうあの時点でだ。そしてお前は言った。誕生日で見せたと。なら以前になにかしてたんだろう。ミレルが怯えるようなことをな。」

ガレドは砂塵が舞っている中ゆっくり立ち上がり、テルクスに向かって歩いてくる。

「怯える?さっきからなにを言ってるんだ?あれは喜んでいる姿さ。わからないか。君には。私がしてあげたのは「教育」だよ。やるべきことをやらないのはいけない事だと。教えた結果あんなに喜んでくれたのだ。私も教育のしがいがあった。塔の管理をしていない時は相応に教育してあげた。誕生日以降は人間の魔獣化の苦しみを贈ってあげていたが以前は違っていたということだ。どんなものを贈ってあげたと思う?共通点はあるぞ。苦しみだ。」

そこまで聞いてもう十分だった。テルクスはありったけの魔力を身体にこめ、動いた。

がさっきまでのように拳でガレドを殴る事はできず、テルクスが殴られていた。

早い。ガレドの動きが全く見えないほどに。

殴り飛ばされたテルクスは吹き飛んでいる途中に体勢を整え地面に片手と両足をつけ、勢いを殺すことで壁にぶつかってダメージが大きくなるのを防いだ。

バッと顔をあげるとガレドの腕が最初にあったキマイラの腕のようになっていた。

「それは…」

テルクスは呆然と呟く。自分の身体すら…こいつは…。そんな驚きがいや、ある種の納得がテルクスを覆う。

「魔力水に放り、しばらく放っていたこともあるし、魔獣の檻にいれて生活もさせたことがある。他にもいろいろね。塔の管理は常にやらなければならないが何も毎日しっかりとやってなければ塔自体が終わるというわけでもない。塔自体の中枢がやられなければその存在は永遠なのだから。しかし、ミレルは塔のエネルギー循環者なのだ。この娘がいなくなれば来るべき時は遅くなる。それはいけまい。とはいえ、無理矢理やらすのも私の本意ではないからね。ちゃんと自分でやると言うようにならなければ。」

テルクスが驚いているのも構わずガレドは喋りる。

ここまで少ししか話してないが、ガレドは狂っていることが十分に理解できた。

ならば…なおさらなんとかしなければならない。

どう取り繕っても目の前にいるのは人間だ。魔獣が元人間というのはわかってもあんな姿でかつ、人間としての意識もあまりないような…手遅れで、もう治しようがない。そんな奴らだったからこそ、もし、また立ち塞がっても躊躇なく、倒すことを考えられるだろう。

しかし、目の前にいるのは…人間だ。怒っても無意識にでも拳は弱くなってしまっていたのは否めない

けどもう理解した。こいつは人間じゃない。魔獣だ。ならなおさら躊躇などしない…この男を倒す。

改めてその覚悟を強め、立ち上がる。

魔力を身体に纏う。さきほどのようにめちゃくちゃに取り入れるのではなく、研ぎ澄ますように。

一瞬でそれを行い、ガレドを見る。

「あんたはクソだ。もう人間なんて言えない。ミレルの親なんて名乗る資格もない。ただの魔獣だよ。今日があんたの野望の最後の日だ。あんたを…倒す。」

テルクスは構える。話し合いはもう終わり。後は…

「ははは…そうか………。ほざくなよ!!クソガキがぁ!」

こいつを倒すだけだ。

いつの間にかガレドの脚は魔物のそれになっていた。

その脚を持ってテルクスに一気に接近する。

さっきまで魔力を怒りでデタラメに使っていたのもあり、瞬間移動でもしたのかと勘違いしてしまうような長スピードを見切れなかった。

実態は脚を瞬時に魔獣化することあのスピードを出していた。ということが魔力を研ぎ澄ますことで集中力、観察力にもバランス的に魔力分配したテルクスには見切ることができた。

拳をガレドに向け振るう。それにガレドも拳で答えぶつかりあい、お互いが吹き飛んだ。

飛んだ衝撃で地面に亀裂が走り、結果細かな破片が煙のように辺りに舞う。相手を視認するのが難しくなる中、テルクスの方に腕が伸びてきた。

「え?」

その腕は魔獣の毛で覆われたもので身体くらいの大きさがあり、テルクスの身体を握る。

それだけではなく、その腕は文字通り伸びていたことが煙が晴れることで理解できた。

あの視界の中、テルクスを捉えたガレドの目は獣のように獰猛なものになっていた。

そのまま握り潰すようにグッとガレドは力を込める。

バキバキと嫌な音がするがテルクスは魔力で身体をうまく矯正し、両腕を広げることでその中から逃れようとする。

すると急にパッと手を開かれたことで空中に放りだされたテルクス。

腕が戻るなか、もう片方の腕をテルクスに向けるガレド。

その手の平から蛇が出てきた。その蛇の口に魔力エネルギーがたまっていき、放射。

炎がテルクスを襲う。

空中に放りだされていたテルクスはモロにくらうことになり、爆発音と共に爆風で勢いよく地面に落ちた。

「ハァ………ハァ………っ!」

なんとか身体強化で耐えたがダメージは大きい。

フラフラと両腕を使いつつ、立ち上がろうとするがその身体をガレドは蹴り飛ばす。

魔獣化した脚で蹴られ壁にぶつかり巨大なクレーターができる。

高い所に蹴り飛ばされたため、身体が壁から離れ、落ちようとする。

その身体の頭を掴むことで壁に叩きつけるガレド。

ガレドの背には禍々しい翼が生えていた。

「倒す?…ははは。誰が?誰を?この程度の力でなにを言ってるんだ。一端に強くなったと勘違いしたガキが私を倒せるわけないだろう。」

そう言って掴んでいない方の腕の形状が変わり、魔物の爪のようになる。

サイズも相まって鎌のように見える。

それでテルクスの身体を貫こうとする。

「やめて!!!」

そんな時ミレルの声が聞こえた。綺麗な声だ。叫んでも色あせない綺麗な。

そんな感情がボロボロの身体のテルクスの心に広がっていく。

「…ふぅ。何を言うか。こいつが悪いんだろう。お前に悪影響を与える、こいつが。」

動きを止めたガレドはテルクスの顔を掴んだまま、ミレルに応じる。

ミレルは泣いていた。それでも強い瞳でガレドを見て、怯えていても強く訴える。

「やめて!テルクスにこれ以上手を出さないで!お願いだから。」

「…口答えこすとは…まだ教育が足りないか。この塔にある記憶を…ミレル。また叩き込まれたいのか?」

「構わない!だからテルクスを…」

パチンと指の音が鳴ると共にミレルは悲鳴をあげる。頭を抑え苦しそうに。

「馬鹿な娘だ。こんなゴミの味方をするなど。しかし、それほどまでに教育を受けたかったか。その喜びよう…ふむ。もう少し上の教育を考えなければな。」

言った瞬間、ガレドは殴られた。

地面に叩きつけれ、しかし、空中で体勢を整え、着地する。

辺りにガレドの羽が舞うなか、テルクスは地面に降りる。

「わかっちゃいたがやっぱとんでもないクズだな。あんた。」

「…貴様にはわからんさ。この…」

テルクスは魔力を纏いつつ、ガレドに一瞬で近づき、お腹を殴る。

「愛なんてもう言わせない。さっきから言ってるだろう。黙れ。」

身体がくの字に曲がるガレド。

そして両腕を使い、殴る。連続で休む暇なく、ただただ。

「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

気合いをいれ、叫びながらガレドを殴り、そして両腕でガレドを吹き飛ばした。

ガレドは壁にぶつかった衝撃で巨大な穴があき、貫きそして吹き飛んでいった。

「ハァ……ハァ…ハァ…。」

腕が棒になり、動かない。その場で膝をついて倒れた。

「テルクス!」

声が聞こえる。ミレルの声だ。優しい、落ち着く声。

なんとか片腕をツッパリ、仰向けになる。

ミレルがかけつけ、テルクスの顔を覗き込む。

綺麗な顔だ。肌がツヤツヤでいいにおいもする。

そんな感想を抱いているとギュッと抱きかかえられた。

「馬鹿…」

「…そうだな。」

久しぶりに落ち着いてする会話。

「どうして?」

不意にミレルが質問してきた。

「どうしてって…約束したし。辛いことがあったら助けるって。」

軽く笑いながら答えると涙をながしながらミレルはさらに強くギュッとテルクスを抱く。

「そんなの…わかんないじゃない。辛いかどうかなんてちょっと会っただけだよ?私が怯えていたって言ってたけど…それだけだよ?それだけで来るの?」

「当たり前だろ。だって…俺は…」

そこまでして助ける理由は

「ミレルが好きだから。笑顔が…全部が大好きだ。だから…俺は…」

そこまで言って口が塞がれた。

ミレルの口で。柔らかくて気持ちよくていいにおいがして。

「おいしい」

テルクスは思わずそう言ってしまった。

ミレルは顔を真っ赤にして言う。

「な……え…えっと…その…魔力を……口移しで…あげたのと…それと軽くでも治療しといたからしばらくしたら動けるようになるよ。」

「ありがとう。」

可愛いなぁ。そう思いつつミレルを見る。

ミレルは顔をさらに真っ赤にして。

「私も…」

と小さく言った。

「え?」

「だ…だから…。あの…こ…ここまで来てくれて、私を助けてくれて本当に…本当にありがとう。それと……うん。私も好き。テルクスのこと大好きだよ。」

照れ隠しなのか、でも心から。

こっちまでつられて笑顔になってしまいそうになるほどの。

綺麗な笑顔を向けられ、ここまできて良かったと心から思う。

しばらく抱きしめられたまま心地よくゆっくりとした時間を二人は過ごすのだった。


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