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現実

地面を滑るように着地したアロンは身体強化して半透明になっていた身体が、時間切れになったため、元に戻った。瞬間ヴァスティオンがまっすぐ戻ってきてそれをとる。

「ハァ…ハァ…ッ…!」

立っているのが難しくなり、その場に倒れた。キツイ。身体が悲鳴をあげ痛みが全身をかけめぐる。

しかし油断はしない。フラフラの足でも立ち上がり、爆発の勢いでグリルが落ちた場所に目を向ける。

煙があちこちにたちのぼり、視認は難しい。目に魔力を集中し、探す。

残り少ない魔力では探すのは厳しかったのだろう。見つけるのは結局難しいままで、確認できたのは煙が大分晴れたときだった。

「………はは。マジかよ…。」

そこには「無傷」でゆっくりこちらに近づくグリルがいた。

「素晴らしい魔法だった。芸術としては百点満点だが…技としては0点だな。」

そう言ったグリルは小さな箱のようなものを取り出した。

「これは、今まで救済屋が戦ってきた、いや、他にもいろんな場所で試した、魔法技術の集大成でね。魔法銃やらなんやらいろいろ無料で渡していたのはこれが理由さ。データを集めたかったんだ。さて…ではお試しといこうか。」

グリルがその箱を投げる瞬間、かすかな魔力で目を強化していたアロンは見た。

さっきの技でちぎれた服から、傷があったが…それが治っていくのを。

「まさか…お前…不老なだけじゃなく…」

呆然と呟くアロンをよそに、グリルが投げた箱が展開され魔法陣から大口径の兵器と呼ぶに相応しい砲台が出現し、それの狙いを定めるように手をアロンにかざす。

「じゃあな。救済屋。これで終わりだよ。そうだな。せっかくだから冥土の土産としてこの砲の名前を教えてやると共に幕としよう。」

魔力のエネルギーがその砲台に集中していく。

「デェィヴァイン・エクテクス」

その名と共に圧縮した魔力のエネルギーの放流がアロンに向かう。フラフラの足取り、ギリギリの魔力ではどうすることもできず…それに飲み込まれアロンは吹き飛んだ。そしてその魔力エネルギーは辺り一辺を吹き飛ばし、兵や、ゴーレムを巻き込みながら一直線に…


それは一瞬のことだった。緊張した面持ちのメイド達とただ静かにアロンに買ってもらってから毎日つけている宝物のペンダントを握り締めながら戦争が終わるのを待っていたユリスの部屋に光が入ってきた。

メイドはそれを反射的に異常と理解し、魔力による、盾を展開する。

しかし、魔法シェルターとメイド達複数による魔法盾でも防ぎきれず、部屋は光に包まれ、瞬間、メイドは盾を展開しながらユリスのところに向かい、そして…。

ハッっと目を覚ましたユリス。城はほぼ半壊した中ユリスは城の中にいた。

辺りを見回すと吹き飛んだメイドの手や足、頭といった部位が転がっていた。ユリスは全身に痛みが走るものの無事だったが、それで理解した。メイド達が動けないユリスを必死に守ってくれたことを。

涙が目に溜まりおちようとした時、

「やあやあ。やはりここに居ましたか。探しましたよ。ユリス姫。そしてお迎えにあがりました。」

という心から嫌悪が身体中に走るような男の声が聞こえた。

目を向けると自分の部屋があったと思われる場所にグリルが空中に立ち、近づいてきていた。

半壊した城内に入り空中移動をやめ、着地する。

「おっと。そう言えばプレゼントが…いやいや、別にあなたが嫌がるようなものではないです。間違いなく、大好きなものですよ。」

グリルの手に瞬時に何かが現れた大きいサイズをしたそれをユリスの目の前に投げる。

そう。それはアロンだった。かろうじてギリギリで残った魔力を集中し、身体強化をしたが…防ぎきれるものでは到底なく、服はボロボロ、身体は焼けただれ、かろうじて人間の原型を留めているにすぎなかった。

「………アロン…………」

呆然と…呟くことしかできなかった。

それに応じるように、か細い小さな声でアロンが口を開いた。

「スマ……ン…あい………つ…に勝つ…ことが……できなかった……。」

その声は小さくてもいろんな、優しい思いが詰まっているのがわかる。何より…涙声で、初めて…アロンが泣いているのを見た。

それを見たユリスも泣きながらアロンを優しく抱く。

「うん…。うん…。ありがとう…。本当に……ありがとう…」

「いや、そういうのいいからさぁ。」

言いながらアロンの身体を踏むグリル。

しかし、アロンは反応すらできなかった。それほどまでにダメージを受けている。

それを確認したグリルは面白い玩具を見つけたように楽しそうになる。

「お!これはいいサンドバッグを……っ」

言いかけて、雷状の槍がとんできたため、避ける。

「危ないなぁ。つっても、避ける必要なかったかな?子がある身体じゃ、それほど魔力だせないだろうし、第一、あんたらの考えた最強であの程度じゃねぇ。まさに、雑魚が考えた最強って感じだったなぁ。…クク…今思いだしただけでも笑ってしまう。あんな低レベル魔法で誰が倒せるって話だよ。ハハハハハ!」

愉快そうに笑うグリルをしかし、目を逸らさず、強く睨むユリス。

「正直がっかりだったな。「創始者」ってのの力がこんなものだとは…まぁ、いいか。俺の力のたしと、これからの研究に使わせてもらえれば…と、言う事でユリス姫様。本題です。あなた様のその「創始者」の力。お譲りくださいませんでしょうか?」

ニヤニヤと楽しそうにやっと目的を達せられると言わんばかりに高揚して喋るグリル。

しかし、ユリスの反応はグリルの予想外の事だった。

「?「創始者」?それは…一体…?」

その反応に驚き目を見開いたグリルはやや、オーバーに見えるほどの反応を返す。

「は⁉︎ちょ…おいおいおいおい。とぼけんなよ。「創始者」…だぞ?…まさか…いや…まさか…お前…!」

そう言って目にライブラ魔法をかけ、ユリスを見る。

それはとぼけているかどうかの確認どころではなく、「創始者」というのを知っていないことがわかった。そしてなにより、「創始者」は次代に近づく時、つまり子を産む近くの時期、普段隠している力が軽く流出する。それがでていなかった。

「な⁉︎」

グリルの人生は全てそこに注いだ。元々圧倒的才があったグリルは研究を重ね、圧倒的魔力、超魔法技術と力を得ていった。だからこそ「創始者」のことを研究の過程で知った時、新たな力を欲したグリルの矛先はそこにむかった。その「創始者」という特異魔法を持った人間を越えた人間。その力を手に入れることに。「創始者」の研究をする過程で不老不死の力をてにいれたが「創始者」はいくら探してもでてこなかった。そこでらちがあかないと考えたグリルは戦争を起こすことでその存在を明るみにだし、それで力を得ようと計画をたて、各地で戦争を起こした。

しかしでてこなかった。グリルはそれでもなお探し、そこでアークという秘伝魔法がある国があることがわかった。それがエウレスセレス。それがユリス。

もちろん何度か魔法機械をとばしライブラ魔法で調べたが普段力を隠しているという前提がある中、確認できるわけがなく、そこで直接出向くという方向に思考が動いた。

グリルは確信していた。その秘伝魔法こそ、「創始者」の証だと。

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!違うだと⁉︎違うとでもいうのか⁉︎そんなわけがない!!!あるか!!!私の…私の千年は…!!!戦争を起こしたのは…!!!研究は…!!!こんなことのためじゃないぃぃぃぃぃ!!!」

「え⁉︎」

突然狼狽するグリルに驚くユリス。

「ハハハハハ!!!もういい!!!こんなクソなもん、全部ぶっ壊して!!!また探せばいいだけだ!!!」

そう言って再び空中浮遊をし、驚くほどのスピードで空高くあがっていく。

「憂さ晴らしだぁぁ。全部消えろぉぉぉぉ!!!」

左腕がゴーレムの形をしていたがそれが右腕も同じ、いや両足もそうなる。そしてそこから無数のゴーレムの腕が伸び、魔力の光が集って拡散的に放出された。

国全体にまるで雨のように降り注ぐ破壊の魔力は、当たったものを粉々に壊す。

ゴーレムも、兵も、街も、城も、なにもかも。

「ハハハハハハハハハハ!!!!!」

笑いと共にその魔力の光がユリスに向かう。

子がある身体でしかもダメージが身体に残り、動けない。

そんな時、ボロボロの身体のアロンが前に塞がった。

光は容赦なく降り、魔法陣や、ましてや身体強化すらできてない身体では到底守りきれず、爆発とともに城の地下に二人とも落下していった。


二人は城の下で魔力の光が地上を攻撃するなか、倒れたまま、抱き合いながらただ泣いていた。

無力。到底敵わない相手を前にこの言葉だけが頭に響く。

ユリスが泣きながら言う。

「せめて…この子の……顔を…見たかった……な…」

アロンもそれに賛同するように頷く。

「でも……こんな中で…産みたく……ないな……」

涙が溢れどうしようもなさにさらに泣く。

そんな時だった。

靴の音が響いた。地上には悲鳴と破壊の音が鳴り響いているのに。それでもしっかりと。

だんだんその音が近づいてくる。

その音が止まり、アロンとユリスは正体を確かめようと首を向けた。

そこにはアダンがいた。

ただ静かにジッとこちらを見て、そして近づいてくる。

「おいおい。お二人さん、手酷くやられちゃったな。これゃやっぱ俺が付いてたほうがよかったかね?任せるんじゃなかっなぁ。」

おどけるようにそういうアダンに「アロン」が返す。

「馬鹿言え。油断しただけだ。アダンの力なんてなくても余裕だったさ。」

「嘘。さっき悔しそうにしてたじゃない。」

「ユリスさん!アダンの前で悔しがってたとか言わんといて!」

それはいつものやりとり。平和…とはいかないまでも楽しんでいたあの時の。

いつのまにか身体の傷は癒え、二人とも笑っていた。

「はは。そうかい。なら失礼を言ったな。………さて、一応言っておく。「事実は変える気はない」よってあなた達が死ぬという結果は変わらない。」

アダンの言葉を聞いて、改めてをアロン達は自分の身体を見る。

傷は癒え、痛みはなく、綺麗な身体。けど、わかる。長くはない。後少ししたら、眠るように…死んでしまうのだろうと。

ついで、空間も特殊なものになっていることがわかった。音が聞こえない静かな、それでいて落ち着く、何か優しいものに包まれているような。そんな空間。

「そうか…わかっちゃいたが…やっぱアダン、お前は…」

つぐようにユリスが言う。

「人間じゃない。かと言って…さっきあいつが、グリルが言ってたような、「創始者」……でもない」

「おかしいとは思ってたけどさ。産まれた時から、なにもかもが。なら…アダン…………お前は一体、なんなんだ?」

その質問を聞いたアダンは小さく笑い、

「さあ?」

と答えた。

ポカンとアダンを見る、ユリスとアロンに心底楽しそうに笑って、

「けど、俺も自分がアロンやユリス姫様と違う存在なことがわかる。わかってしまう。存在からして違うなにか。けどなにかの答えは理解してるし、その質問に答えることは「できる」…けど答えない。俺は…アダンとユリス姫様の前では、せめて「人間」として、見てもらいたいんだ。あなた達を見て何度も思った、凄い、って思った、そんな存在として、扱われたい。ごめん。こんな時に我儘を言ってしまって。」

頭を下げるアダンに思わず笑うアロンとユリス。

「いいよ。気にすんな。それならそれでいいんだ。頭下げるとか、らしくないぞ。」

「そうだね。うん。わかった。…あ、それで話しを戻すけど。」

「事実は変えなくていい。俺達はここで死ぬ。いいさ。人生ってのはそんなものだ。アダンは人が簡単に生き返ったりするのがいいことだと思わなかったんだろ?」

アロンの発言を聞いて理解する。

「ああ。なにもかも限られてるなか、努力している姿が凄いんだ。それを生き返えらせたりしたらそいつの命に価値はないって言ってんのと同じだと。思ったから。」

「ふふっ…。ありがと。アダンさん。ううん、アダン。そう考えてくれて。……そうだ。こっちに来てくれない?」

言って手招きするユリス。そしてアロンとの間を空け、パンパンと地面をたたく。

「?……うん。」

どうしてかわからなかったが言う通りにし、間に入る。二人とも倒れたままのため、自然アダンも身体を地面に横たわらせることになる。

すると二人で、アダンを間に挟み、ギュッと抱いた。

大事に。大事に。我が子を愛するように。

その状態でユリスが口を開いた。

「死ぬ前には、子供の顔見たいなぁ。って思ってたんだ。もちろん、今も思ってる。けど、アダンも…私達にとって大事な…子供みたいなそんな存在だったんだって。今、気付いたんだ。」

「そう言うこった。俺が育てたんだから、ユリスが俺の嫁な以上、俺とユリスの子って扱いになるのは当たり前だな。」

ただジッと二人に抱かれながら聞くアダン。けどその顔はとても幸せそうで、外のことが信じられないくらいの幸せがその場にあった。

「お。って事はアダンは姉妹の姉ってことになるな。」

「そうなるねー。おねえちゃんとしていろいろとお願いね。アダン。さて。それで、いくつかアダンに、我が子に言っときたいことがあります。まず、その女の子らしくない一人称やめなさい。せっかくそんな可愛いんだから。女の子ってのアピールするくらいで。」

「そうだな。妹視点だとおねえちゃんが俺俺言ってんのなんか複雑になるだろうしな。俺の影響だろうけど。そこらへんスマン。それと、女の子なんだから髪整えたりするの忘れんなよ。」

「身だしなみもね。それと…」

「ああ!もう!わかった!わかりました!ったく…。口うるさいなぁ。」

「さっそく反抗期か!悪い子に育ててしまったのか⁉︎俺は⁉︎」

「だぁぁー!!違うっての!」

しばらくそんなやりとりをして幸せな一時をすごす。アダンにとってもアロンとユリスにとっても、とても大事な、大切な、最後の時間。

どれくらいたった頃だろうか。ユリスが言った。

「そろそろ、だよね。感覚的にわかる。」

「だな。ってことで最後に言うことが。」

「え?な……なに?」

「アダンの…誕生日だよ。私達ドタバタしてて、いろいろあってなんにもできなかったからね。」

「悪い。だから、祝ってやれなかった。プレゼントも用意できてない。けど、今、それゃあ、祝える状況じゃないっちゃないけど、けど。」

「今しかないから。だから、はい。プレゼント。」

ユリスは首にいつもかけていた、ペンダントをアダンに渡す。

「え⁉︎それ、いつも大事にしてた…!」

アダンは勢いよく起き上がり、驚きのまま、声を出す。

「そうだよ。けど…アダンに持ってて欲しいんだ。子供ができてから、我が子に幸せが、訪れますように。っていつも願って握ってたら。アダンも私達の子なんだから、ちょっとでもその恩恵があると思うから。だから…」

ユリスの目に抑えていた涙が溢れてくる。

「うん……ありがとう。大事にする。」

ペンダントをもらい、ギュッと軽く握ることでその決意を表す。

「じゃ、俺からはこれだな。」

アロンの手には細身の大剣、ヴァスティオンが握られていた。

「それは……」

「そう。ヴァスティオン家の救済屋を引き継いだ証だ。これから、頼んだ。世界のこと、みんなの事、そして…俺達の大切な……子を。」

「おう…」

その剣に手を伸ばし、柄を握る。

「任せとけ。」

力強くそう言うとともに、その剣をうけとった。

満足そうにその様子を見たアロンが言う。

「さてと…次はアダンの番だな。」

涙を拭いながらユリスも言葉を続ける。

「そうだね。…ふふっ。楽しみ。」

「えぇ⁉︎別にいいけど…なんで?」

「それゃお前…俺ら子供できたのに、祝いとか、ないじゃん。」

「それは、忙しかったからで…!第一…!」

言葉の途中で強く切実な瞳でアロンとユリスが見ていることがわかり、言いかけた言葉を飲み込む。そして別の言葉を紡いだ。

「…わかった。でも何も用意できてないから…」

「わかってるよ。俺達が求めるのは…………アダンの…存在を。そのなにかを。見せてくれ。」

「片鱗っていうのかな?そういうの。その力の欠片だけでもいいから。知りたいの。そして、受けとめたい。私達の子がどういう存在なのか。知っとくのは親なら当たり前だからね。」

そういうアロンとユリスに、はあ。とため息をつくのと

「どちらにせよ、後でやるつもりだったし。いいよ。…元々は俺は手出しする気はなかったんだ。さっき言った通り、アロン達、人間は弱い存在なりに努力して、凄いと思ったから。俺みたいな存在が手を出すことでそれを汚すことになるんじゃないかって。つまりはこの状況になった時にプレゼントは用意してたってことかな。ないと思わせての、サプライズがてらね。即席で申し訳ないが。」

というので返事をする。

アダンは手の平を上に向ける。すると周りから小さな光が集まってくる。その光はかつてアダンが産まれる前のあの球体と色が同じで。でも不気味じゃなくどこか落ち着く、綺麗な色合いだった。

それを見たアロンとユリスの目に涙がたまって…おちた。

「そうか。そういう…存在だったのか。はは…にわかには信じられないけど…」

「うん。けど、実際に目の前にあって…嬉しくて…ふふっ…アダンは…人間だよ。立派な。そんな人が私達のところに来てくれて…ありがとう。」

その言葉にアダンが返す。

「それは俺もだよ。ありがとう。俺を、人間として見てくれて。そしてなにより、家族として子として扱ってくれて。だから……これは母さんと父さんに渡すお礼と最後のプレゼントだ。」

アダンは目を一旦閉じた後開く。

すると空間が変わる。見た目は変わっていないが、空気が質が、落ち着くものに。優しいものに。より一層アダンが来た時に感じたあの感覚が濃くなる。

目に涙をため、優しく微笑みながらその様子を見るアロンとユリス。

死ぬ時にこんなに優しく落ち着くそんな気分になれるなんて。なんて…幸せなんだろうと思いながら。




グリルは未だに魔力を拡散さて、あらゆる場所を破壊し、国を「エウレスセレス」を滅亡においやる…いやすでに滅んでいるにもかかわらず破壊の雨を怒りの思うがまま、振るっていた。

「アハハハハハハハハハハハ!!!!!……は?」

狂ったように笑うグリルだがしかし、その笑いはふととまる。破壊された城の…あった場所のそのはるか頭上。

そこに巨大な紋様があった。6つの菱形状の紋が中心にある円を囲うように均等に並び、それを円形が囲うことでまるで眼のような紋様が。

その紋様が目の前にある景色全てを埋めるほどの大きさで在った。

もし別の星が近くにあったとしたらこんなんだろうな。と思ってしまうほどの巨大さ。

それを見たグリルは一瞬で身体が老化した。髪は白く、身体は骨が丸出しに近いレベルにまで細くなる。まるで今まで溜まっていた歳が解放されたかのように。

魔法どころではなくなり、そうなる瞬間まで放っていた魔力の拡散は弾け飛び、かろうじて残っていたゴーレムもまた同様に消える。空中歩遊の魔法がとけ、落ちていく。

それだけではなかった。世界中で相次いでいた戦争をしていた者達にもその紋様は見えていた。それを見て武器を落とし、魔法をとめ、指示していた者達も戦争の思考が完全に消え、民間の者達。難民キャンプの人。旅している者。全ての動植物。果ては風や、山、海、自然すら、全ての存在がただ茫然と見いり、静かになる。

この時、この瞬間。呆気なく戦争は終わったのだった。

それを証明するように、静まった世界に赤ん坊の声が響いた。

それはアロンとユリスの子。その子がアロンとユリスの間に布で包まれていた。どうやって産まれたのかはわからないが、きっと…

そう考えたアロンとユリスは大量の涙を流しながら力強く、アダンにやった時のようにその赤ん坊を抱く。

「強い子に…きっとなる。」

「うん。そうだよ。間違いなく。だって私達の子だもの。なにより、アダンが、平和にしてくれた。平和な世界でこそ、強い子はできる。優しさを戦争している世界よりも知ることができるのだから。」

涙声で、強く、願いを込めるように、それ以上に優しく、言うアロンとユリス。

「そうだな………楽しみだ…な……。」

「うん…綺麗で…強…くて…優し…い子に……ふふっ…幸せ…だなぁ。」

「ああ…幸せ…だ…。俺達は…」

「「だって死ぬこの瞬間に、心からそう思えるのだから」」

その言葉はでなかった。二人の心の中で強くそう思った。それは平和みたいだと周りの者から思われたその証明。

そうして眠るように幸せそうに笑って動かなる。けれどその腕は赤ん坊を「リィル」の身体を強く強く掴んでいたのだった。





戦争が終わって約半年。戦争が終わってからのドタバタでしばらく動けなかったがアダンは救済屋としての復帰のため、ヴァスティオンの家、依頼受付の仕事場に帰ってきていた。

アダンは、受付の椅子に腰掛け、忙しかった分、落ち着くように息を吐き、リラックスする。そうすると改めて二人のことを思い出し、寂しいという気持ちが身体を満たしていく。

戦争が終わり、まず、仕事としての責務を果たすため、王を探した。しかし、王は亡くなっていた。城も、兵も、メイドも。ほぼ全滅。両手で数えきれるほどの人数しか生存していない。

アロンとユリスの元に向かうと、二人とも既に最期を迎えていた。お互いの間にいるリィルを抱きあって幸せそうに笑って。

しかし、わかってはいたがリィルは存在が長くここにはいられない。いや、すぐにでも何処かに飛んでしまってもおかしくはなかった。

産まれた瞬間に発生する、存在誤差。本来なら問題はなかったがアダンの正体不明の異質な存在、それがあまりにも大きいからに産まれた場所が違うと存在が確認してしまい、別の場所に転移する現象。そう、アダンが産まれた時、力が大きすぎたがために、数々のことが起こり、そして王の、ユリスの妹がいなくなり、何処かに飛んでしまったのと同じ現象。

どうすることもできないと判断したアダンはユリスから貰ったペンダントに力を込めた。

そしてそのペンダントをリィルにかけてあげた。その瞬間、リィルは何処かに飛んだ。

一番願われていたのはリィルなのだ。リィルが持つべきものであると同時に、自分にはアロンから貰った剣がある。さすがに剣を渡すと転移した後のことを考えると危険なため渡せなかった。何より、自分だけ、両親の形見を持つというのも…姉妹なのだから。という考えが大きかった。

その後、本来はアロンがやる仕事だったがその仕事をアダンが引き継ぎ、書類関係や、死んだ人達の身元確認、避難した民間の人達、生存した人達の新しく過ごす場所を探したり、亡くなった皆の墓をつくったりなどいろんなことを勤め、つい先日、その仕事が終わり、帰ってきたのだった。

忙しかったから、寂しいという感情をだすどころではなく、やっと落ち着いた今、その分の感情が押し寄せる。

そんな感傷に浸りながら家内を見回すと、ふと、ある物が目に入った。

アロンが作っていた黒コートである。

いつの間にか完成しており、後は渡すだけと言わんばかりに、ミシン台の上においてある。

懐かしい記憶が蘇えってくると共にクスッと思わず笑ってしまう。

椅子から立ち上がり、ミシン台に近づき、コートをとる。そして、自分が着ていた青コートを脱いで、黒コートを着る。

服装を整え、鏡の前に立ち、身体を回したりすることで確認する。

「はは。…ああ。……確かに。カッコいいな。これ。」

そう言って涙を流しながら笑うのだった。


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