VS元凶
あれからそろそろグリルが言った一年が近づいてきた。
アダンは兵の対魔道訓練に明け暮れ、アロンは変わらず、ユリスの護衛…という名目の幸せな毎日を送っていた。もちろん、それだけではなく、対魔道訓練のメニュー作成、アドバイスや、来る日の作戦立案などをやっていた。
ユリスはといえば…
「姫様。お身体の調子はどうですか?」
「うん!大丈夫だよ。ありがとう。」
いつものように休憩室で心配そうに、しかし、微笑ましく聞いてくるメイドに対し、楽しそうに、幸せそうに答えるユリス。
「あ…あのー、ええ…っと…お…お腹、触ってもよろしいですか⁉︎」
「どうぞ〜。いいですよ〜。」
高揚して話しかけてくるメイド達に笑顔で応えるユリス。
そう。ユリスのお腹にはアロンとの子供ができていた。既に妊婦とわかりやすいお腹の大きさになっており、国中の皆はその話題でもちきりだった。
「わぁー。凄いです。ここには新しい命があるんですね…。」
「うん。女の子だっていわれたなぁ。もう、いつ産まれるかって楽しみで楽しみで〜。」
その様子を皆微笑ましくみる。
しばらくそうしているとアロンがきた。
「ユリス。終わったよ。身体、大丈夫か?」
「アロン。ふふっ。うん。大丈夫です。」
今日もまた来る日に向けて作戦会議に参加していたアロンは終わったらすぐにユリスのもとに向かう。ユリスもユリスでアロンの顔を見るなりいつも信じられないくらい嬉しそうに笑顔になる。それを見たアロンが反射的にかけだしユリスに抱きつく。お互い、ギューっとしたまま幸せそうに笑う二人。いつものことだ。
見るだけで胸焼けがおこるほど日々イチャイチャしているユリスとアロン。
それはもはや名物と呼ばれるレベルにまでなっていた。
「それじゃあ、図書館行くか。」
しばらく(15分くらい)そうしていた二人はアロンが名残惜しそうにそう言った後、離れる。
手を繋げたまま、
「そうだね。この子の名前…いいのつけてあげたいよね。候補はあるんだけどね。あ、皆、今日も話し相手になってくれてありがとう!」
そういって休憩室から出て行く二人。
相変わらずだな…と皆思いつつ、その背中を見送るのだった。
城内にある図書館に向かい、早速名前に関する資料や、本を探す。
探している途中、戦術に関する本を読んでいるアダンに会った。
それを見たアロンはアダンに話しかける。
「あれ?もう仕事終わったのか?」
「ん?おお。アロン、ユリス姫。こんにちは。いや、違うよ。戦術に関することを勉強するって仕事をしてる。お二人は?」
「アダンさん、こんにちは。私達はこの子の名前を決めるために資料や、本を見にきました。」
「ああー。なる。それじゃ自分も手伝いますよ。」
「え?大丈夫なんですか?今お仕事中なのでは?」
「姫様のお手伝いをすることを仕事じゃないなんていう人はいませんよ。だから大丈夫です。丁度一息つけたいところでしたし。」
「ふふっ…そうですか。あ、でも…その前に…」
ユリスはアダンの前に行き、櫛をだす。それでアダンの少し荒れていた髪を整える。
「女の子なんですから髪とかの身だしなみ、ちゃんとしないと…ですよ?」
「う…うぇーい…すいません…」
「ふふっ…謝ることでもないですよ。」
そう言い終わる頃には見事なまでに髪が整ったアダンがいた。
「おいおい。ちゃんとしよーぜ。わざわざユリス母さんの手、わずわらすんじゃないよ。」
ニヤニヤしながら言うアロンに、軽くふくめっつらをしたアダン。
「へーい。次は気をつけます。んじゃ、本探し手伝います。」
アダンが席を立ち、本や資料を探しに行ったところでアロンがユリスに話しかける。
「そういえば名前の候補、あるって言ってたよな。どんなの?」
「ん。そうだね。アロンにはまだいってなかったね。」
そう言ったユリスは歴史の部類の本棚に向かう。そこから一冊の本を取り出し、それを開く。
「私ね。好きな国があるの。ううん。正確には好きな国があった…かな。もうないの。滅んだ、今はもう失われた国。そこはね。唯一、争いの類のものが「一切」起きなかった国なの。」
「え⁉︎マジかよそれ…どういう…」
「ふふっ…とは言っても可愛い喧嘩というか、ちょっとしたものはあったらしいよ。痴話喧嘩とかね。でも犯罪の括りに入るようなことはなかったの。」
「いや、充分凄いよ。どういう政策してたんだ?」
「こういう結果に繋がるような政策はしてないよ。」
「へ?…え?…じゃ…じゃあどうして?」
「偶然だよ。たまたま優しい人が王になって、優しい人が集まって優しい人がいろいろして。それでできた国。だから凄いの。協力しあって魔法技術も、他国の追随を許さないレベルだった。けど、それが他の国からしたら脅威以外のなにものでもなかった。戦争しているときにできたことも含め、恐怖の対象として扱われ、やがては滅ぼされた。それが…幸福平和の二つ名で呼ばれてた国、「リィル」この指輪も、リィルの失われた魔法技術でできた指輪。持っている人に幸福が訪れると言われるもの。純粋な願いでできた、優しいもの。ふふっ…効果は私とお母様が確認ずみ。私は子供ができたし、こんな優しくてカッコいい旦那様がいて、お母様は病気にこそなったけど本当に毎日幸せそうだった。私にいっつもこのリィルって国を自分がつくったわけでもないのに自慢気に説明してくれてね。それで私も自然と…そしてだからこそ、この国が好きになったの。だから、リィルって名前をつけたいの。」
「…そっか。いいな…それ。でも…」
「滅んだってのがひっかかっちゃう?」
「う…!まあ、正直いいますと。」
「大丈夫だよ。だって………あなたの名前がつくんですもの。」
「へ?」
「リィル・ヴァスティオン。この名前はヴァスティオンっていうあなたが誇る、救済屋の名前で支えることで完成するの。ヴァスティオンという名前で…滅ぶとかいったマイナスは消えちゃうの。」
「………ははは。そうか。成る程。成る程。うん。いいな。あ、でもエウレスっていうのもつくのを忘れないでくれよ。リィル・エウレス・ヴァスティオン。ユリスのような、優しい人達がいるこの国の名前をつけることでより、リィルって国を越えて優しく…そうだな…世界!いや、果ては宇宙!もしかしたらそれ以上のものを!幸せにしてくれる、そんな優しい子になることを祈って。何よりユリスみたいな可愛くて美人に、そして幸せだと語れるなるようにって願いを込めて。」
「ふふっ…ハードル大きすぎない?」
「なるよ。そんな子に。絶対。なにせ俺とユリスの子だからな。」
「……うん!そうだね!」
と話が丁度終わったタイミングで大量の本を重ねて持ち運んでいるアダンがきた。
「お!名前決まったようだな。俺が持ってきたこの本、仕事はどうやら無駄だったようで。」
「あぁ!ごめんなさい!」
「いやいや!冗談ですよ。…っと。」
そういったアダンは本を机の上におき、アロンとユリスを見る。
「うん。二人の子にあう、いい名前だと俺も思うよ。」
「そうだろ?ってことで決定な。この子の名前はリィル・エウレス・ヴァスティオン。覚えとけよ!いずれは全部救う!最強の救済屋になる、誰よりも可愛くて美人で優しい!そんな女の子の名前だからな!」
翌日。王に呼び出されたユリス、アロン、アダンは王の間に来ていた。
エチャード王はその三人が来た後、ユリスが椅子に座るのを待ち、座ったのを確認すると重苦しそうに口を開いた。
「そろそろ…奴が言った一年が経とうとしている。そして…その時の事を考え、市民の避難も行い、それも終わろうとしている。時は近い。その時…私にもしもの可能性がないとは言えない。だから、ユリス、今まで秘密にしていたことを話そうと思う。」
「秘密?」
その言葉を聞いたユリスが首を傾げる。同時にアロンとアダンも疑問符を浮かべる。
「そうだ。アロン殿にはユリスの夫として、アダン殿を含めた救済屋として。今の問題が終わったら、無期限の依頼として改めて受け止めて欲しい。このことを…私の言葉で、依頼をしておきたかったのだ」
その言葉を聞いたユリス達は集中するように静かになる。
「これは、ユリス、妹のことだ。名前は…エリス。私はユリスに妹は事故で別の場所に預けざるを得なかったといったが。それくらいで具体的には言っていなかった。「その事だ。」この話をする前に…世界の大きさ、知っているな。それをまず確認しよう。」
それに対し、ユリスが応える。
「はい。えーっと、確か世界順序というのがありました。それは「国」、「大陸」、「星」、「銀河」、「宇宙」、その宇宙を無数に集め点として在する扱いとする「大全宇宙」、そしてそれすらも点となる「全」その「全」を集め、存在するのが「大全」また、「大全」の数だけ平行は存在することからさらに上があるとも言われていますね。そこから先は観測できていないとか…」
「そうだ。それでエリスの事だが…その何処かにいる。」
そこで真剣に聞いていたアロンが声をあげる。
「な⁉︎そ…それって…探すなんてほぼ無理…!というかどうしてそんな事に⁉︎」
「言いたいことはわかる。だから無期限の依頼としたのだ…。」
目を伏せ、あげる動作をした王は再び口を開いた。
「事が起こったのは、今から八年程前だ…。エリスが産まれ、その存在を確認した時、急に感覚が曖昧になった。いや、詳しくはどう言えばいいかわからんが、とにかくそんな感覚がしたのだ。」
そこでユリスが驚きつつ、反応する。
「あ!それ私もしたよ!妹が産まれるって聞いて…楽しみにしてたんだけど…その時、急に…なんというか、わからなくなった…かな。自分が、他人が、場所が、感覚が、とにかくなにもかも、わからなくなった。けどすぐに終わったよね…?だから気のせいだったのかもって今まで気にしてなかったんだけど…」
「そうか…。やはり。念のため、他の者に確認をとってみると同じ感覚に陥っていたといっていた。ユリスもそうなっていてもおかしくはない…な。この感覚が訪れた者はどうやら城内の者だくではないらしく、国内、果ては同盟国の者にすら訪れていたようだ…そこで聞いておきたいのだが…この感覚、訪れた記憶はないか?アダン殿…はその時産まれているかわからんからいいとしてもアロン殿は?」
「私…私は…そんな感覚は…してませんね…」
「ということはその感覚が訪れているものといないものがいたと…?だとしたらその法則性とは…?」
考えだした王と一緒に考えだすユリスとアロン。
と。そこで王が気を取り直すように首を振り、口を開く。
「すまぬ。話がそれたな。話を戻そう。」
王がそう言うと同時、ユリスとアロンは考えていたのをやめ、話に再び集中し始める。
「その感覚から解放された後。エリスはいなくなっていた。影も形もな。一瞬、存在すら忘れてしまっていたほどに。その後、魔法観測をした。しかし、この世界では観測できなかった。だから、大全を管理している機関、大全管理局に連絡をした。しかし、観測こそできたが、きた連絡は、「何処かにいるのは確か。亡くなっているなどといったことはない。」というものだった。」
「管理局も、判断できていない…ってこと?」
ユリスがそう言うと王は辛さに耐えるように応えた。
「そう…なるな…。改めて…すまない。ユリス。本当はもっと早く言うべきだったのだが…ユリスがあんなに妹に会いたいと語っているのをみると…言えなかった…。」
「ふふっ…。仕方ないよ。そんな雲を掴むような話しじゃ、生きてても会えるかわからないもん。私に…気をつかってくれて…そして…今…改めて話してくれてありがとう。父様。」
そこで黙って聞いていた…というより途中から再び考えこんでいたアロンが声をあげる。
「あ‼︎…まさか…八年前って………」
そう言いながらずっと黙って話を聞いているアダンにゆっくり顔を向ける。
しかし、アダンの反応は
「ん?どしたし?」
という疑問符を浮かべたものだった。
「…いや…なんでもない…。」
そう返したアロンだが、閃いた事に確信を持っていた。
そしてそれはユリスも同じ。ユリスは前にアロンから話しを聞いた事があるから。
アダンの特殊な出生を。
それからさらに日はすぎ、グリルが言った一年がちょうど経つ日。
「よ。どう?調子は。」
城の窓から遠くを見ていたアロンにアダンが話しかけてくる。
「上々。そっちは?」
「こっちも上々。余裕っすわ。余裕。緊張すらしてませんぜ。」
「はは。そいつは頼もしいな。」
「何?アロン、緊張しちゃってんの?」
「ったりめーだろ。国だけじゃなく、世界の命運かかってるかもしんねーんだからな。何せ大魔導士のグリル様がいくつもの手順、段階踏んで時間もおいて確実に…なにかわかんねーけど目的達しようとしてんだ。千年に及ぶ戦争起こした張本人って時点でいろいろ異常なことを考えるとその目的が達せられた時、何か起こる。そんな気がするんだ。」
「そうか。まあそれは置いとこう。」
「マイペースだなお前。」
苦笑いするアロンにアダンが心配そうに聞いてくる。
「ユリス姫は?」
「魔法シェルターかけて自室で安静にしてる。…そろそろ産まれてきてもおかしくないから、メイド連れてな。」
「大丈夫なのか?ユリス姫ももちろん、メイド達も…。国民避難場所にユリス姫が行かなかったのはユリス姫が狙われてるから、巻き込まないようにって事だろう?それじゃあ、メイド達、危ないんじゃ…」
「そうなんだけどな…メイドの皆が、姫様のためなら、それでもいいからって、必死になって言うもんだから…。あの気迫に負けてねー。着いてったのは当然、全員じゃなく数人だけど。それ決めるジャンケンの気迫もハンパなかったな…。」
「それゃまた。信頼されてんだな。やっぱ。…しかし、タイミング、悪いよな。なんでもない時だったら素直に喜べたんだが…」
「仕方ないさ。そういうもんだ。俺らも覚悟はしてたし。けど、これは案外悪くない。」
「?どしてだ?」
「元凶を倒すんだ。次世代が産まれてきた時には平和の一歩を踏んでるって状況を作れる。これはそういうチャンス。逃す手はねーな。」
「そうかい。…んじゃ、そのチャンス、ものにしねーとな。」
「ああ。ったりめーだな。」
と、そこでメイドが走ってきた。
「あ!アロン様!探しました!」
「ん?どうした?」
「はい!ユリス姫様が…完成したからこれを渡すようにと…!」
メイドがそう言って渡してきたものは二丁の拳銃だった。
「おお!完成したのか!やっぱ凄いな!ユリスは。」
「なんだ?」
アダンがそれを不思議そうに眺めながら質問してくる。
すると嬉しそうにアロンが話し出した。
「これはユリスが俺の為に造ってくれた魔法銃だ。対魔法戦に近距離じゃ、限度がある。けど、市販の魔法石や、鍛えた程度の魔法、裏使って魔法銃手に入れてもどれも使えない。状況によっちゃむしろそんな中途半端、使うことで危なくなるってことで、ユリスが自分の持てる魔法技術の総意を持って造ってくれたんだ。」
「ええ⁉︎スゲーな、それ。いや、でもどうやって…お姫様だし、そういうの造るの難しかったんじゃ…」
「そうだな。俺もそう思ってたんだが…いやはや、流石というべきか。王の娘としての教育のひとつとして魔法技術教えられていたらしくてな。それで造れたんだと。」
「いや、それでも造れたってのがスゲーよ。で、使いこなせるのか?」
「大丈夫だ。魔法銃を造ってくれるって言ってくれた時から魔法銃貸してもらって訓練してたんだ。もちろん、それとは性能は違うけど…ユリスが造ってくれんたんだ。それだけで扱いきれるって考え以外わかないな。」
「………そうかい。んじゃ、後は…」
「準備は完璧。大魔導士様待つだけだ。」
アロンとアダンは窓の外を見る。準備はした。訓練も重ねた。努力はした。後はそれをぶつけるだけだ。
「ユリス姫様。大丈夫ですか?」
ユリスの自室のベッドで上半身を起こしているユリスに心配そうにに近づいてくるメイド達。
こんな危ない状況にも関わらず、付いてきてくれた人達。いや、ここにいるメイド達以外にも付いてきてくれると言った人達も沢山いてくれた。それが嬉しくて、そして申し訳ない気持ちで一杯だけど…けどせめて自分にできること。今は子供の為に安静にして、心配してくれるメイド達を安心させてあげるくらいはできる。
そう考えたユリスは笑顔で
「大丈夫だよ!それより、兵達、皆の方が心配。父様も出るって言ってるし…。あ、でも!アロンもアダンさんもいるし、この心配、杞憂になっちゃいそう!」
と伝えた。
それにメイド達は笑顔で返してくれた。
「ふふっ…。そうですね。案外余裕なのかも。」
「どっちかというと………エチャード王様、お歳ですし…腰の方が心配…」
「確かに!…終わった時私達そっちの方で走り回ることになる可能性が…ああ!そしたら姫様の子供が産まれる瞬間に立ち会えない可能性がでてきてしまいます!」
「え⁉︎ちょ…それ凄く嫌なんですけど…エチャード王様…頑張ってくださいよ…ホント…」
楽しいやりとりをし始めるメイド達。ユリスも一緒に笑い、これから戦争が始まるとは思えないくらい楽しく話をした。
どれくらいの時間、話していたかわからないけど…もしかしたらこの楽しい時が最後かもしれないという思いが、いつも以上に楽しく話せた理由かもしれない。そんな皮肉を事実のものにせんとばかりに
ズンッと地面を揺らすほどの重たい音が連続で聞こえた。
その音の正体はあの日落ちてきた巨大なゴーレム。それが複数落ちてきた。それも数え切れないほどに。
「うはぁ。敵さん、本気だな。」
城門がゆっくり開き、武器や鎧をつけた大量の兵達、そして王が先頭に立ち、口々にそんな、余裕めいた一言を言いながら出てきて、ゴーレム達を迎え撃つ。
「さて、俺たちもいきますか。」
「ああ。救済屋の力ってやつ、見せてやろうぜ。」
そんな様子を見ていたアロン達も城の外に飛ぶ。
外は既に戦争の様相。あちらこちらで戦闘がおこり、街はほとんど崩壊し、見る影もなくなっていた。
こちらに気づいたゴーレムがズンッとした地響きと共にアロンとアダンに殴りかかってくる。
瞬時に避け、既に二本の剣を手に持ったアダンが足を斬り、倒れるゴーレムの身体をアロンが細身の大剣ヴァスティオンで真っ二つに斬った。
「は。どんなもんだ。あの時みたいに不意打ちじゃなけりゃ、余裕なんだよ。」
背中に剣を収めながら言うアロン。
「わーってるって。そんなん。さて、このペースで…」
「バンバン倒していきますか。じゃ…」
「「ご武運を」」
と言って二手に分かれようとした時だった。
突然、重力が急に増えたような感覚がした。
ゆっくり、後ろを振り向くと
「初めましてだな。救済屋。」
そこにはローブを纏った男が立っていた。
重力が増えたように感じるほどの濃密な魔力が相まってその若い見た目にゾッとした。
いつの間に…なんて思わない。こんな大量のゴーレムを一気に使っている時点でただものじゃないのだ。瞬間移動めいたものを使ってもおかしくない。大方、今回のゴーレムも、あの時のゴーレムも同じ方法で移動させているのだろう。だから、突然でてきたように思ってしまう。
「ああ。初めまして。もしかして、あなた様はかの大魔導士様、グリル・エクステインでございますか?」
アロンは内心を隠すように余裕を持ってそう言った。
「いかにも。そうだ。その大魔導士様がわざわざ来たんだ。ユリス姫様の元へ案内してくれないか?」
同じく余裕を持ってそう返してくるグリルに、
「断る!!!」
と斬りかかることで応えた。
が、その一撃は腕を使って防がれた。アロンと同じ。魔力による、身体強化で硬質化することで防いだ。
ヴァスティオンは耐魔法性がある鉱石で造られた剣。その斬撃をいとも容易くだ。この時点で、只者ではないことは分かっていてもさらに警戒心を大きくせざるをえなかった。
「アダン!こいつは俺がなんとかする!ゴーレム共を頼んだぞ!」
「わかった!!!」
と言って一瞬の逡巡もなくダッシュで去ろうとする。
「え⁉︎いや、おい!ちょい待て!!!迷いとかなしか⁉︎明らかに強いやん!「でも…!」みたいなやり取りはなしか⁉︎」
剣と腕がお互い力をいれることでつせばりあいのようになりながらそうつっこんでくるアロンに呆れ顔で返すアダン。
「行けっつったり待てっつったり…。どっちだよ…。」
「それゃ、そうだけども…お前…」
「どうせ勝つだろ。なら俺の手伝い、むしろ邪魔だろうと判断したからだよ。だから…そいつ、任せた。」
そう言って、その場から飛ぶことで離脱するアダン。
「…ったく…。」
剣をそのまま振るうことでグリルを飛ばすアロン。
「ったりめーだ。任せとけ。」
剣の切っ先をグリルが吹き飛んだ方向に向け、対峙する。
ゴーレム達の攻撃によって崩壊した家の瓦礫に吹き飛ばされた結果埋もれていたグリルはそれを魔力で飛ばすことで出てくる。
「はははは!いいね。そのやる気。買うぜ。俺は。」
「そうかい。大魔導士様に褒められるとは。光栄だな!」
グリルに剣を投擲し、2丁の銃をコートからだし、構える。
「頼むぜ。アーク、ブルグ!」
そう。それがこの2丁の銃の名前。ユリスの魔力と、技術が込められたこの銃は
グリルは投擲された剣を防ぐため魔法陣状の盾を張る。それによって剣が盾を突き刺すような状態になり、結果防がれる。
あらゆる魔法を凌駕する!
しかし、その盾はアロンが撃った、アークとブルグの雷状の魔力弾丸により破壊され、さらに撃った弾丸で、剣の底を押すことで、剣はそのまま、グリルに向かう。
間一髪で右に移動し、避ける。が、アロンはそれを読んでいたように既に剣の近くに移動していた。銃をグリルに向け、撃つ。
グリルはそれすらも避けたが撃った弾丸とさっき剣の底を押す役目の弾丸を放った時についでにもう一丁のほうで撃っていた弾がぶつかりあうことで跳弾。
一方はグリルに、もう一方は剣に向かい、グリルは先程のより強力な魔法陣の盾で弾丸を防ぎ、もうひとつの弾丸は剣の刀身部分に当たる。投擲した結果、地面に向かっていた剣が回転することで地面に刺さるのを止め、アロンに向かう。
その剣をとり、剣に当たることで跳弾した弾に刀身を当てることで、とばし、グリルの魔法陣に防がれ、止まっていた弾丸に当たり、加速。
盾が破れたため、飛んできた弾丸を避けるが近くに来ていたアロンが剣を振る。瞬時に身体を魔力で硬質化することで斬られることなく、吹き飛ばされる程度ですんだ。
「…やっぱきかねーか…。」
グリルが飛んだ方向を見ながらそう呟く。
「いやいや、効いてるってー。さすが救済屋ってところだな。身体強化してなきゃ、キツかったわー。」
無傷で歩いてきてそう言ってきたため、嘘つくなよ…と内心でそう思いつつ、次の策を探る。
グリルはやすやすと考える時間などやらんとばかりに腕をかざし、その手に魔力の火球が作られ、放ってくる。
「でかっ…!っ…!」
人一人丸々飲み込むほどの大きさの火球を避け、アロンは考えた。このままじゃ、策とか考えている間にじわじわ体力が減らされるだけ。なら…
「見せてやるよ。俺の最大、最強。」
アロンはそう言って、身体強化していた魔力の流れに集中する。
するとアロンの身体が輪郭だけえがいた半透明になり、一瞬で消える。
「自分自身を魔力の塊として扱うことで、魔法を放つ際のエネルギーを速度にまわしたのか⁉︎はは。見たことないぞ!それ!面白い!」
言い終わるか終わらないのかのタイミングでアロンが剣で斬る。
間一髪で避け、瞬間的に眼に調べる事に特化したライブラ魔法を使い、アロンの情報を探る。
わかったのは先程言った予想が当たっていたことと、予想を越えていたこと。
そのことを裏付けるようにアロンがその場から再び、瞬間移動したかと思うほどのスピードで残像をだしながら移動する。その瞬間、アロンがさっきまでいた場所に残像を描いている半透明の弾丸があり、グリルを狙う。
そう、これこそが予想を超えたもの。
身体だけでなく、武器までも魔力を通している。いや、それだけなら他の魔導士でもやっている人はいる。しかし、アロンのはそういうレベルではない。武器と身体魔力を繋げることで武器を身体の一部として扱っている。
スピードか相まって威力が上がっている弾をガードなんてできないと判断したグリルは、身体強化を足に集中し、右横に移動することで避ける。
が、その弾丸が右にカクンと綺麗な角を描きながら曲がった。
武器と身体魔力を繋げているから自分の意思で曲げたり、縦横無尽に移動したりとできるため避けることができない。
瞬時に左腕を身体強化による硬質化をし、防ぐ。
魔法陣でガードしても貫くほどの威力の弾がさらに強化されている以上、防ぎきるなど不可能。ならばと考え、その防いだ腕を身体の輪郭に入らないよう、動かすことでずらす。こうする事で身体に腕を貫いた弾丸が当たるのを防ぐのに成功する。
それをやった時にはアロンは目の前にいた。同じく半透明の剣で残像をだしながら斬ってくる。
グリルの左腕は先程の行動のせいで弾丸によって貫かれており、貫かれた箇所から血が出ていた。
その血がグリルの腕を覆うゴーレムになり、ゴーレムの腕がアロンの攻撃を白刃取りで止める。
「な⁉︎」
グリルの硬質化身体強化の恩恵を受けたゴーレムはそのまま身体からもう一本、人一人分の大きさはある腕をだし、アロンを移動させないよう身体を掴む。
確認したグリルは右手の指を動かし、アロンの身体の周りに瞬時に展開した、岩、氷、雷、炎の棘のような形状をした魔法を一斉にアロンに向かわせた。
アロンは身体から魔力の波動をだし、ゴーレムの腕を消し、その場から消える。結果グリルの放った魔法はそのままグリルに向かうことになり、グリルはそれを魔法陣と硬質化をして防ぐ。
ぶつかり会うことにより、煙が辺りにまう。
その時を狙って近くに一気に距離を詰めたアロンは剣で硬質化したグリルの身体を上に飛ばす。
その空中に飛んだグリルの身体に弾が追撃をかける。グリルはさっきやったのと同じ方法で避けようとしたが弾は目の前で消えグリルの身体を覆う魔法陣になり、グリルの身体を空中に固定する。
「グリル。あんたは凄いよ。見たことない魔法に複数の属性魔法、恐らく不老のその身体に、ゴーレムをあんな大量に一気に扱ったり。驚かれてばかりだ。だけど。どんなに狂っても。大量の人を戦争を起こすこで苦しめた以上、許されることじゃない。けど、俺の最大の身体強化魔法で勝てないってことはさっきまで戦っていてわかった。だから…俺と、ユリスの最強魔法であんたを倒すよ。」
これはユリスがアークとブルグの銃を造ってくれると言ったとき、アロンの戦いを見てきた、ユリスがもうひとつの贈り物として考え、二人で完成させた魔法。
ユリスの造ってくれた銃とアロンが培ってきた経験と技、ヴァスティオンの歴史がつくった、対魔法剣を持ってはじめてなされる。
アロンは手を空中にいるグリルに向けグッと握る。すると、グリルを固定していた魔法陣の形状が変わり、グリルを固定したまま、ヴァスティオンと同じ形の雷状の剣が6本でき、グリルを囲う。
そしてアダンは先程までやっていたのと同じく、瞬間移動に見えるほどのスピードで移動したため、消えたように見える。
身体は固定され、動けないため、そのスピードのまま、通り過ぎるように斬ってきたのを避けることができない。硬質化し、対処するがたかがしれている。
モロにその一撃をくらう。
斬った後、空中を蹴り、移動することで一本の剣をとり、通り抜くと同時に突き刺す。
それを残像をだしながら縦横無尽に移動し、繰り返し行い、魔法剣を6本全て突き刺す。
グリルの前、少し離れたところに移動する。その時魔法陣が再び展開され、6本突き刺さった状態のグリルに向かい、大剣ヴァスティオンを構える。
その魔法陣から6つの光がヴァスティオンに向かい、ヴァスティオンが人一人を覆うくらいの大きさになる。
その大剣を持ってグリルに再び高速で移動し、貫き、通り抜く。大剣はグリルに突き刺されたままに、グリルを覆うほどの大きさの魔法陣がさらにその5倍ほど大きくなり、魔法陣の向きが地面を向いたものに変わる。
そして…豪雷という言葉がふさわしい、雷の爆発が起こった。
耳をつんざくほどの音を辺りに響かせながら爆発する中周囲に空中にすら無数の雷が舞う。
それをゴーレムと戦いながら兵と一緒に見た、アダン。
「やっぱ…すげぇな…」
とただ純粋な尊敬と誇りを持って笑顔で思わず呟いた。




