ユリス・エウレス
転移した先は豪華絢爛と言わんばかりの城の中の広い一室だった。そこでは兵達が数人ほどいて転移したアロンの方に近づいてくる。その内の一人。恐らくこの部屋を守る隊の隊長が声をかけてくる。
「すみません。歓迎するには相応しくない部屋で。転移石は座標先固定されてますから。そこにこういうふうに待ち構えてたり、この部屋にある罠や、設置されたもので対処するためのものですから。本来なら自己紹介もしておきたいところなのですがその時間も惜しいとのこと。すぐさまご案内します。」
そうして案内された先はさっきの部屋よりも豪華で広い空間だった。
そこに威厳を感じる髭を生やした50くらいの男性と白のドレスを着た金の髪を背の半分は伸ばした美しい女性がいた。
アロンはすぐさま依頼主である、王と護衛対象である姫だとわかり右足の膝を曲げ右手を下ろす、騎士が仕えるようなポーズで挨拶をする。
「お初にお目にかかります。私は救済屋、現代表、アロン・ヴァスティオンと申します。」
すると王がそれに応える。
「いやいや、顔をあげてくれ。今からこの子に仕えるんだ。むしろ堂々としてもらいたい。」
アロンが「はっ!」と応えつつ顔を上げたところで王が再び口を開く。
「では改めて。知ってるだろうが私の名前はエチャード・エウレス。この国、エウレスセレスの王をさせてもらっている。そして…」
「私はユリス・エウレス。ユリスって気安く呼んでくれると嬉しいな。」
そう言って王の隣にいた姫…ユリスが自己紹介してくれる。
「えっと…」
少し迷いつつ、チラッとエチャード王を見やる。
「ははは。気にしないでいいですよ。こんな子ですから。」
「もう…。こんな子ってなに〜?」
そんなやりとりをみて親子仲がいいことがわかる。
中心国…その王と姫ということでかなり緊張してしまっていたがやりとりから適度に緊張をとることができた。
「…わかりました。エチャード王…そしてユリス。よろしくお願いします。」
「フフッ…それはこちらのセリフですよ。」
そう返して微笑むユリス。心から和み、癒されるそんな笑みに、思わず見惚れてしまっていた。
「それでは依頼内容を説明させていただきます。」
エチャード王がそう言って具体的な依頼内容を話しはじめる…の前に疑問が生じ思わず聞いてしまった。
「あの…王自らが話されるのですか?こういうのは兵の方々から説明があるものだと…。」
するとエチャード王が応ずる。
「ああ。王とはいえこのくらいはします。確かに忙しいですが、できることはなるべく自分の力で。です。ましてや自分から説明する程度のこと。兵だって忙しいのですから。このくらいなんでもありませんよ。」
「…そうですか。わかりました。話しを止めるようなことをして申し訳ありませんでした。改めてお願いします。」
「はい。……実は…この国に魔力通信が送られてきまして…それが、近いうちユリスの命を奪う。というものでした。そして言ったのです。それと同時にこの国も終わりだと…我々は戦争というものに干渉しないよう注意してきましたが…当然避けられないということもあり争うしかないということもありました…。今回もそういうことなのでしょう。つまり…」
「戦争で国と一緒にユリスも…ということですね。」
「はい。しかし、もしもの可能性は十分にある。戦争をしている時に狙う…とみせかけ、暗殺者を送り日常の油断している時に狙ってくる可能性もあります。そのための護衛です。兵達をできるならつけておきたいのですが…近々はじまる戦争に備え、訓練をしなければなりませんので。外に逃がす手も考えましたが…戦争をしているこの世の中で、外にだすことがどれだけ危険か…。」
「成る程。わかりました。私は、ユリスにつきまとう危険から守る。それが依頼内容ですね?」
「はじめに話した通り、そうでございます。原因、理由は話しました。これらの可能性に注意してください。いつまでになるかはわかりませんが…娘をよろしくお願いします。」
「はっ!お任せください!」
こうしてユリス姫護衛の依頼による生活がはじまった。
「はい。ここが私の部屋。今日からしばらくの間アロンさんも一緒に生活することになる場所ですよ。」
「成る程〜。ここが〜…ってええ⁉︎一緒⁉︎」
「そうですよ。寝てる時とか危ないですから。危険な時に転移石の応用の短距離ワープする道具で呼ぶって方法もありますが、それじゃ間に合わないってことのほうが多いでしょうし…。はい。一応、その短距離ワープの魔法石を渡しときます。これは私とアロンさんが持っていてればどちらかが念じるだけで念じた人のほうにワープするってものですから魔法石にアロンさんの魔力、いれといてください。私はもういれてあります。二人分しかいれられませんし、仮に落として誰かに拾われても…安心とは言いませんが、まあ効力的には大丈夫です。ですが当然、ちゃんと持っておいてくださいね。」
と、アロンが混乱している間に次々と説明してくる。
…明るい人なんだな。ということがありありと伝わってきた。
「まあ、そうですよね。一人でいる時に狙われるのは当然ですし…。了解です。これからよろしくお願いします。」
「ふふふ…。だからそれは私のほうですよ。それと…敬語やめにしません?見たところ、私より年上っぽいですし…。」
「え?でも年上でユリスに敬語で話す人なんて結構いると思うんですが…。」
「確かにそうですが…あの…やっぱりああいう堅苦しいのは距離感じちゃって。一緒にしばらく同じ部屋で暮らすんですし、そういうのなしにしませんか?私も苦手ですし。」
「………はは。わかった。んじゃ、気楽にいかせてもらうな。」
「…ええ。ありがと。私もそうするから。」
その様子を見てクスッとアロンは笑ってしまった。
「むっ…。なんで笑うかな?」
「ゴメン。なんだか噂以上に明るくて接しやすい人だなって思って。姫なんていうと接しにくいイメージがどうしてもつくからな。より一層。なるほど。国民に大人気。って言われちゃうわけだ。」
「あ。知ってたんだね…。そう言われてるの。なんか恥ずかしい…。」
「それゃね。ここに来る途中も散々声かけられてたじゃん。城のメイドに、兵。その他にもほんといろんな人に。」
「えっと…。その…。」
そう言いながら顔を赤くするユリス。その可愛らしさに今まで抱いていた思いがより一層強くなる。
(慕われるのも当たり前かな…これは。)
そこで誤魔化すようにユリスが提案してくる。
「あ…あの!この城にきたばかりだから、あまり内部に詳しくないよね!だ…だから案内してあげるね!うん!それがいい!」
まくし立てながら喋るものだからその勢いに押される形で部屋を出る。
内心これからの生活が楽しみと護衛をするには似つかわしくない考えを持ってしまったアロンだった。
「えーっと…これであらかたまわったかな?」
それからしばらくの間、城の中を案内してもらい、昼くらいになった頃にユリスが足をとめ、人差し指をくちびるにあてそういいだした。
「じゃないかな。結構長時間動いてたし…ってかものすごく広いな。やっぱ。」
と感想をアロンが述べるとユリスがキョトンとした顔になり
「え?そうなの?他の家ってこんな感じのばっかじゃ…」
と言った。
「え?」
アロンはそれに驚きをあらわにしていると、その様子に気付いているのかいないのか、「あ!」と声をあげ
「そういえばまだとっておき、私のお気に入りの場所を紹介してなかった!それじゃあ、最後に…そこにご案内するね!」
そういってアロンの手をとり走りだした。
そのまま走っていくと扉が見えてきた。そこで勢いを止め、ユリスがゆっくりと扉を開ける。
すると目の前に壮大という言葉があう絶景が広がった。
「どう?この城の中での私一番の自慢にしてお気に入り。庭園よ!」
そう、そこは色とりどりの花がある、綺麗な場所だった。
「………」
しばし言葉を忘れ惚けてしまった。
「あれ?反応ない?…おーい」
手をアロンの前で振られたことでアロンは、はっとしてやっと反応を返せた。
「あ…ああ。悪い悪い。すっげー綺麗だったからつい…いい場所だな。間違いない。俺も好きな場所って言えるな。これは。」
するとパァっと顔を明るくしたユリスが嬉しそうに走る時からずっと握ってあった手をブンブン振り始める。
「でしょ‼︎でしょ‼︎この場所にいると凄く落ち着くんだ〜。この庭園を管理してるメイドさん達にきいたら落ち着かせるような効果がある花はないって言われたんだけど…ってことはつまりは私にとってすっごく落ち着く好きな場所ってことだよね!」
少し面食らったがより一層明るく笑顔で話す彼女の言葉を聞いてるとこっちまでも楽しくなってしまう。
この庭園が好きになった理由に、この場所を好いている彼女と一緒に見たからってのも含まれていてもおかしくはない…そう思いながらアロンはだんだん楽しくなっていることに気づいた。その感情にアロンはつい浸ってしまった。
「だな!ちょい、一周走らせてくれ!これは走ると気持ちよさそうだ!」
「ふふふ…。わかりますなぁ。その気持ち!よし!走りますか!」
と、走ろうとしたところでユリスがドレス姿のため、走りにくいということに気づく。
「と…。その前に。姫様を走らせるわけには参りません。私めが足となりますので姫様はどうかこれからの一時をお楽しみください。」
「え!きゃっ…!」
そういいながら有無を言わさずユリスをお姫様抱っこして走りだした。
救済屋として日々鍛えているアロンにとってこの程度はなんてことはない。そもそも、状況によってこんな状態でより激しく動きまわることになる事態も多い。
それにユリスは女の子相応の軽さと柔らかさでむしろこのままで過ごしたい気持ちにすらなる。
護衛という任務を忘れそうになる気持ちを抑え、走りだす。こんな気持ちになったのは初めてだった。
庭園を一周した後(予想通りといえば予想通りだがあまりにも広く、少し時間がかかった。)昼を少しすぎていたが昼食を庭園のあいている休憩スペースらしき場所でとることになった。
メイドさんが走り終わったのをみて弁当を持ってきてくれたのだ。微笑ましそうにメイドさんがこちらを見ていたのでやや恥ずかしかったが気にしないことにした。
「うへぇ…!豪華だなぁ。」
弁当の中を開けると色とりどりの食材が並びそれを見るやもともとお腹がへってはいたがさらにへるのを感じた。
「どうぞどうぞ。美味しいよ〜。」
そういいながら口に運び、片方の手で口元を隠しながらも美味しそうに食べる。
そのあまりにもおいしそうに食べるのを見て反射的に手が動き自分も一口。
「うま!なんじゃこれゃ…!」
と、思わず言ってしまった。
その様子をみてふふふと笑うユリス。アロンもそれで楽しくなって笑う。
楽しい昼食の時間が過ぎていく。
昼食を食べ終わった頃、ユリスがふと口にした。
「私ね…夢があるんだ。いずれは…」
そして庭園から見える、城の塀を見て
「ここからでること。ずーっと、城の中で生きてきたからね。勉強も…運動も。遊ぶのだって。城の窓から見たことはあるし、展望台があるし一望したことだってある。だけど外が気になるんだ。やっぱり。直接近くで見てみたい。どんな世界が…広がってるんだろう…。」
静かに聞いていたアロンの方を向き、小さく笑う。
「ってなんでこんな話いきなりしたゃったんだろうね。なんかつい…。城の人達にはこういうの話難いし、アロンは外からきた人だもの。聞きたくなっちゃたからかな。外がどんななのか。」
と、まっすぐアロンの目を見るユリス。その目から本当に気になっていることが容易に知れた。
「そうだな…。すまん。難しい。どう言えばいいか…。」
「そっか…。それだけ凄いってことだよね…」
なんて落ち込み気味に言うユリス。
「はあ。私も何度か抜け出そうとしたことはあるんだけど城に張られた結界ででれなくてね…。それにお父様がダメーって意固地にいうし。って暗くなってちゃダメだよね。せっかくアロンに案内してあげてるんだし楽しく…だね!」
そう言った後のユリスは本当に楽しそうにいろんな話をしてくれた。小さい頃にあったことや、兵たちのエピソードなど。そして…妹の話。
「外に出たいってさっき言ったけど実はもうひとつ、理由があるの。それは…生き別れた妹と会うこと。なんか産まれた時、いろいろあったらしくてどこかに引きとられたって話なの。だから外にでて会いたいなぁって思うんだ」
アロンはそんな風にいろいろ話すユリスに時に真剣に、時に相槌をうち、時には笑ったり。本当に楽しい時間だと感じ入りながら過ごすのだった。
あの後は残りの案内。兵達の訓練場や、その他まだまだある場所をまわった。あらかたまわったと昼頃にいっていたのは主にアロンが通ることになってもおかしくはない場所の案内のことだったらしい。
今日一日ではとてもまわりきれず疲れはててユリスの部屋に戻り休憩をした後夕食を食べさせてもらった。いきなり王達が食べる場所で食べては気を使うということでユリスの部屋でユリスと一緒に食べさせてもらった。いろいろと気がまわるいい子だな。と度々思うアロンだった。
その後も巨大なお風呂や、王への1日の経過報告。兵たちともいざという時…急に襲われた時、より効率的に対処するための作戦をたて、眠る前にユリスの部屋でユリスと他愛もない、だけど楽しい気持ちになれるような話しをした。
そして夜になった。さすがに一緒のベッドでは…ということで近くにベッドを置いてもらい、そこで寝ることに。
部屋を狭くしてしまう…という思いは広い部屋の前では湧きにくかったがユリスのベッドよりやや小さいベッドを持ってこられて驚いた。ユリスのベット自体がまさに姫が眠る場所と言わんばかりの大きさがあったがそれよりやや小さい程度では部屋が…と一気に遠慮の気持ちがわき、人一人分の普通サイズのベッドを用意してもらった。…まあ、それでもそのデザインは普通のそれとは違い、豪華!という言葉を向けてもいいようなものだったが。
「じゃあ、電気消すね。おやすみ。」
そう言って指をパチンと鳴らすことで光が消える。魔力光はなんらかの合図で消せるよう調整できるためこれがそうなのだろう。
いくら鍛えているとはいえ、ずっと歩きっぱなしは精神的にもくる。一応、不審な反応があったりした時などに音がでる魔法石があるらしくそれですぐ異常には気づけるらしいがそれに頼っていてはいざ、もしもの可能性があった時の対処が難しくなる可能性がある。そのためアロンは寝たふりをしてしばらくすごす。
本当は立っていたりした方が対処はしやすいが部屋内に立っている人がいたらユリスがなかなか寝れないだろうし、それになによりこの優しい子は寝ていなかったらいくら自分のためとは気を使い、「じゃあ私も起きてる!」といいだしそうなため、そうすることにした。
しばらくしたら規則正しい寝息がきこえた。それを確認してから立ち上がる。
そこから部屋全体を見渡せる位置に行き集中して見渡す。
こういう警護したりする仕事はよくやっていたため大して苦労はしない。体力的にはなんら問題はなかった。というより体内にある魔力回路を使い魔力を体力に変換して使用していた。
男はどういうわけか、魔力というのをあまりうまく使えない。使えるものもいるが女性より圧倒的に少なくまた女性より弱い。ごく稀にうまく扱いきり女性に勝つことができるものもいるらしいが…その数は少ないだけでなく男が扱いきっても限度というものがあり、よくても魔力のランクは低い。つまり平均的に男は女性に魔力で勝てない。
そのためヴァスティオン家は身体能力をあげることに魔力を特化させることで扱うハードルを低くすること、かつ効率的に仕事をこなすことに成功したのである。
こうして眠らなくても無理なく警護という仕事に集中できた。
朝。目を覚ましたユリスは近くのベッドの上にアロンがいないことに気づいた。何処にいるのだろうと見渡している時入り口のドアが開き、そこからアロンが二人分の食事を持って入ってきた。
「おはよう。そろそろ起きてくるかなって思ってたんだよ。護衛系の依頼とかよくしてたからね。その人の傾向とか…まあ、ようするに経験による勘ってやつだな。」
するとユリスはむう…と反応し、
「私が早く起きてアロンの寝顔を見ようと思ってたんだけど…先こされちゃったな〜。」
「救済屋は早起きなのさ。と、一応朝食持ってきたけどどうする?なんなら戻してエチャード王と一緒に食べるか?」
「救済屋ってのは傾向とかで判断して行動するんでしょ?私がここで食べるって言うのわかってて持ってきててそれなのに聞くんだね。」
「それゃ、わかってても聞くのが仕事ですから。」
なんて軽口をたたきあいながら朝食を食べれるよう食べ物をのせた皿をおいたりユリスは顔を洗ったり着替えたりして準備する。
「それじゃあいただきます。」
それを合図に二人でまた他愛もない話をしながら朝食をとるのだった。
食べ終えた頃ユリスが今日どう過ごすかを提案する。
「ごちそうさま。今日はこれからどうする?まだ残ってる場所案内しようか?それとも兵の訓練でも見て…」
「いや、今日はちょっと付いてきて欲しい場所があってな。それを頼みたい。」
「え?何処?あ、もしかして上等兵達の訓練場所?あそこは魔法も込みで…」
「違う。魔法石の調達がしたくてね。もしもの時とか使えるものあるかもしれないし、場所とか知ってて損はないからね。」
「そっか。あ、でも…城の中に魔法石がある場所は…謀反の時に使われたりする可能性あるから置いてないよ。」
「知ってる。だから外に行こう。城下都市なら結構賑わってて、魔法石あるって聞いたしな。」
「成る程。外…ってええ!?昨日駄目だって…」
「大丈夫。許可とってきた。」
「え?あの頑固なお父様から?…嘘…じゃなく?…」
「ああ。なにせ俺がそう動く以上、依頼内容的にユリスも同じ場所にいてもらったほうがいいし…それに約束したからね。」
そういいながらユリスの手をとり、
「娘さんは命にかえても必ず守り通します。って」
そのまま歩き出した。
「…それは…嬉しいんだけどひとついいたいことが…って早いよ〜。もう少しゆっくり歩いてー!」
ユリスの方を向くとそういいながらも笑顔だった。つられてアロンもまた笑う。
まだ会って一日しかたってないけど…今日も楽しい日になることは確信できた。
「わぁ〜‼︎凄い‼︎」
本当に外に出れたことに驚きを隠せなかったユリスだが外を一望した瞬間、そんな考えは吹き飛んでいった。
「人いっぱい!歩き難いって思ったのはじめて!わ!これがお店ってやつだね…!あ、あれ美味しそう!」
城下都市と言われるだけの賑わいと活気に溢れた店や、人々などを見ながら目を輝かせるユリス。
あっちこっちに動き回り、楽しそうにするユリスを微笑ましく、そして注意深くみながら歩くアロン。懐から兵からもらった地図をだし、チラっと一瞬見た後片付けユリスの方を再び見る。
「こっちの方みたいだな。魔法石売ってるの。懐事情が事情だし、もって帰れるだけ、ってよりちょっと買うだけかな。さっきも言ったけど場所を知るのが目的だし時間も余るだろうからあとは、もしもの時のために外に出て逃げる時のルート確認でもするか?」
実質、ここを見て回るかというセリフに近いものを理解したのだろう。ユリスはパァっと目を輝かせ、
「うん!!!」
元気よく心から楽しそうに、嬉しそうに返事をするのだった。
「さすが…とでも言うべきか、生活必需品の光石とか、料理に使えるくらいの火力しかない、火石しかなかったな…かろうじて攻撃に使えそうなこれも魔力による状況反応感知ですぐ火消えるし…転移石くらいだな。使えそうなの…」
「それゃそうだよね…。戦闘用がこんな場所にあったらいけないし…。」
ユリスはお面を頭の側面に被り、片手に水風船や、リンゴ飴、フランクフルト、もう片方にはクレープと服装を除くと完全にお祭りルックだった。ちなみに服は事情も事情なうえ堂々と姫が外を歩きまわるというのも前代未聞、騒ぎになるのは間違いないのでアロンのコートをはおってもらい、フードをかぶり顔を隠してもらっている。
「…そういうのはあるのにな。お祭りみたいに賑やかって話しはきいてたけどマジでお祭りみたいだな…」
「だねー!あ、次はあそこ!あそこがいい!」
ユリスが指さした場所には雑貨屋があった。
「OK。んじゃ行くか。金あんま持ってきてないし、ちょっとは遠慮してくれよ?」
「わかってるよー!ふふふ…」
楽しそうなユリスと一緒に雑貨屋に入る。するとすぐにユリスは「あ!」と言って早足でペンダントがあるコーナーの場所に行く。
「わあ!見てみて!凄く綺麗!いろんな装飾もされてて可愛いー!」
その様子に苦笑しながら応じる。
「そうだな。………うん。こんくらいの値段なら余裕かな。一個だけ選んでいいよ。今日の…初外出記念ってことで。」
「ホント⁉︎わぁ!ありがとう!えへへ〜どれにしようかなー。」
しばらく迷っている様子だったがしばらくしてシンプルなデザインをしたペンダントを選んだ。
「それでいいのか?やけにシンプルだぜ?ザ・ペンダントって感じの…」
「いいんだ。こういうほうが記憶に濃く残るもんなんだよ!」
「そんなもんかねぇ」
「ふふふ…そんなもんです!」
そんなやりとりをかわして結局そのシンプルなデザインのペンダントを買った。
もうちょっと可愛いものを選ぶと思っていたアロンだったが嬉しそうにペンダントが入った袋を持つユリスをみると「まあいいか。」なんて思ってしまうのだった。
その後もブラブラ店を見てまわったりしたのだったが
「?」
ある場所の前で足をとめた。
銀行だ。そこに人が一定の距離離れて集まっており、騒がしく話しをしていた。
それを見てアロンが話しだす。
「いやな予感がするなぁ…こう…厄介ごとの…」
「これは…多分…いやほぼ間違いなく銀行強盗だね。」
「…ですよねー。はあ。なんで大国の…ってか警備とかどうなって…」
と、考えたところであの大魔導師の名前を思い出した。
「まさか…これも…グリルが…?」
「?どうしたの?」
「いや…なんでもない…とりあえずほってはおけないよなぁ。」
「だね。むむう…でもどうする?」
「それゃあ…正面突破あるのみかなぁ。一瞬で終わらすにかぎる。」
「でも、人数とか相手がどんな人か…とかもあるし…」
「この国の銀行襲えるってことは警備を突破したとまず考えていい。倒したか、魔法で通り抜けたか…どちらにしろ、魔法を使えるやつと考えるのが妥当。なら時間をかけて慎重に倒すほうが詠唱時間与えたり、構えたりして後々厄介になることのほうが多いから。だから正面突破で驚いてる間に一気にってやつだよ。人数多くても魔法使用者なら詠唱、構えでの前に倒せるし、使用者じゃないなら相手にならん。いけるさ。」
「…さすがだね。救済屋ってのは伊達じゃないというわけですなぁ。」
「そうですっと。んじゃ行ってくるわ。」
と言うが早いは、身体全体に魔力を流すことで身体強化をする。そしてその場から消えたと思うと人混みをジャンプして飛び越え、飛び越えている途中空中で剣を投げ、銀行の窓にぶつける。同時、窓から人数、状況を把握する。銀行に貼られてあった魔法結界は対魔法仕様の剣ヴァスティオンの前にはないも当然であり、窓と一緒に壊す。
着地したアロンはそのまま玄関から堂々と入りその勢いのまま走る。
銀行内では人数が人質を除き、12人ほど。魔法銃を持った人がいた。いきなり剣が飛び込んできた後アロンが走ってきていたので驚き、反応ができないでいた。
それを理解すると同時に1人に近づき腕を振り下ろし、手から銃を離し足払いで体勢を崩し、かかとおとしをして気絶させる。そして手から離れた銃をとり他の1人に向け放つ、それに反応しようとするも遅く銃はアロンによって放たれた銃弾で破壊され、その隙に近づいたアロンにみぞおちを殴られ気絶。
そこでやっと反応できた他の魔法銃をもった強盗がアロンに銃を向け、放つが落ちてきたヴァスティオンを手で拾い一発一発を跳弾、威力を計算して振り払うことで銃弾を跳ね返す。
跳ね返された弾は跳弾し、強盗の首筋に当たったりすることで気絶。残りは3人ほどになった。
と、そこでその内の一人が氷の塊を飛ばしてくる。人の背の半分はある、尖ったつららのような形をしたものが猛スピードでアロンに迫る。
やっぱりな…と思いながらそれを横に飛ぶことで避ける。
しかし、別の一人が手のひらをこちらにもけ、炎を放ってきた。
「っ!?」
驚きつつも冷静にそれを剣を振り払うことで対処する。
そこでもうまだ何もしていなかった一人が手のひらをアロンに向ける構えをし、岩の塊をとばしてきた。
「おいおい…」
さすがにこの状況は予想外だった。その岩を剣を振るうことで割り、避けることには成功するものの、まさか三人も…そこでチラと強盗の手を見ると指輪がはめられていた。…魔法石の入った指輪を持っているとは…いや、多分他の強盗もそうだったのだろう。
気絶している強盗をみると指には魔法石の入った指輪がある。使われる前に気絶させることができたため何事もなかったにすぎない。
「さすがにこの状況はイメージしてなかったなぁ…なるほど。警備とか意味ないわけだよ…」
それに…と、相手を注視しながら考える。
いくら魔法石によって魔法が使えるとはいえ、魔法はそう簡単には使えない。それ相応に扱い方を学ぶ必要がある。そしてその教えるというのはこと魔法においては勉学を教えるより難しい…というよりできているのは感覚的にという人達が多く、実際教えるとなるとよほど実力があり、かつそれを完全にコントロールできるほどの力がなければならない。つまり…この状況、近況、そして大とつくほどの魔導師と考察すればおのずと出る答えが…やはりというべきか…
「グリル…か…」
小さい声でボソッと言うアロン。
と、そこで三人が一斉に構えアロンに魔法を放ってきた。
はっと反応してジャンプすることでまっすぐに飛んできたそれぞれの魔法、氷、炎、岩を避ける。
「よっと…!」
着地をしてもう少し様子を見る。なにせ相手は魔法を使う。一人ならまだしも3人。しかも魔法銃なんてものじゃなく、高火力の魔法。奇襲でなんとか他の強盗は倒せたとはいえこれは慎重にならざるをえない状況だった。
アロンのほうに再度手を向ける強盗達。一人が岩を飛ばしてくる。
横っ飛びで回避、するがその瞬間、氷の追撃がとんできた。
咄嗟に剣で斬るがまっぷたつに斬られた氷の間から炎が目の前までせまってきていることがわかった。
「やっば…」
そういいつつ、頭の中では冷静な部分があり、魔法を使っての連携もうまい。やっぱグリル絡んでんの間違いないな…なんてことを考えてていた。
もう避けるのは無理。迫る衝撃に耐え、そのあと燃えている部分をちぎったりすることでダメージ、火傷になる部分を減らすことをイメージする。
が、その炎は驚くべきスピードで通りすぎた雷に消された。
「え?」
何が起こったか一瞬理解できなかった。
雷が向かってきた方向にむくと銀行の入り口に黒コートのフードを目深までかぶった人がいることがわかった。
「よかった…間に合った。」
…この声には聞き覚えがあった。さっきまで一緒にいた、護衛対象にして、優しいお姫様。
顔はフードでキチンと隠していたので見えないが間違いない…。ユリスだ。
「ちょ…なにしに来たんだ!危ないぞ!」
それを理解するやいなや、声を荒げ、注意する。もう遅いとわかっていてもこうすることしか考えられなかった。
強盗達が驚きつつもユリスに対し、手を向け、魔法を放つ構えをとり、放つ。
「しまっ…!」
ユリスが来たことに焦ってしまい、反応が遅れてしまった。
放たれた魔法が一直線にユリスに向かい、この先に待つ、無惨な光景を…
ユリスは手を目の前に出したと思ったら手に雷でできた槍が出現し、それを横薙ぎに振るう。
見ることはなく、強盗の手によって放たれた魔法は粉々に砕けちった。
「え?」
何度目になるかわからない驚きが口から漏れる。
驚いたのは当然アロンだけではなく、強盗達もだった。
その隙にと言わんばかりに、ユリスはブツブツと聞こえないくらいの音量で詠唱を唱え始めた。
すると雷でできた槍が銀行の半分ほどのサイズになり、銀行内外に雷の轟音が轟きはじめた。
「アークテット・エクスブルグ」
そう言ってその槍を構え、前方に投げるようにして放つ。すると、轟いていた、音がさらに大きくなり、辺り一帯が光に包まれる。
光が抑まった後、その場には倒れて気絶している、強盗達がいた。
その光景を見て、アロンは思った…いや、思わず口にしてしまった。
「俺、いらなくね?」
「ごめんね〜。なんかお仕事の邪魔しちゃったみたいで…見てたらつい、危ない!って思って反射的に…反省してます…」
その強盗達は兵に捕まり、事件自体は収まりを見せた。
しかし、ショボンとするユリスを見ながらアロンは驚きが渦巻く脳内を落ち着かせつつ、いくつか質問することにした。
「…ま、まあ、あれっす。助けられたの間違いないんで、ありがたかったっす。はい。今頃助けていただけなければ我が身体は、まさにハンバーグの如しだったでしょう。」
「ど…どうしたの?喋り方おかしいよ?」
目をそらしながらいうアロンに、首を傾げながら疑問符を浮かべるユリス。
「………とりあえず今一番思ってること、言っていい?」
「え?…はい、どうぞ?」
「…護衛ってなに?俺の存在ってなんなの?盾?シールド?それともプリトウェン?」
「あー…えっと…最初は私も護衛っていらないんじゃ…って思ったけど、常に気をはるってできないし、そういう時に危ないって話になってね。」
「それゃ…それゃそうだけど!まさか、非殺傷できるほどの魔力コントロールレベルって…!魔法の扱いうますぎだろ!しかもあの火力…!魔法かじった程度じゃ、まず無理だ!女性は魔法を扱うのがうまいとは聞いててもここまでとは思わんぞ!間違いなく大魔導師レベルだ!」
「小さい頃から魔法の勉強させられてねー、それで気づいたらこんなことできるくらいにまでなっちゃってて…」
「マジか…魔法って努力しだいであんなレベルの放てるようになるのか…」
「うーん…父様曰く、家系らしいけどねー。ああいう魔法を家系が代々研究に研究重ねてできるようになって引き継いで…みたいな。」
「あー、俺んとこと同じだな。成る程ねぇ。ってことは王もあんなんできるのか?」
「ううん。母様はできてたけど父様は。でも武器に私たちの家系魔法…「アーク」って言うんだけどそれを流して強化するってのがうまいよ。」
「ほう。それゃまた。」
「さてと…お話しがひと段落したところでここでお説教があります!」
「な…なんでしょう?」
「命にかえてもなんて言わない、しない!っということです。気持ちは嬉しいんだけどね。死んだらもう…そこまでなんだよ?冗談にしろ、本気にしろ、言わないの。…この時代じゃ、知り合った人が次の日には死んでいたって言うのが当たり前。日常茶飯事。今日も、死んでたっておかしくなかった。そんなのは駄目。」
「…けど、依頼だしそんぐらいの気持ちじゃないと…ユリスは確かに俺より強いけど万が一ってのが…」
「けどもでもありません!約束…いや、命令だよ。これは。死なない範囲で助けるのが救済屋の仕事でしょ?死んだらその後の私や、皆だって困るんだから。」
「まあ確かに。その後誰が守るんだって話に…」
「はい、違います。…親しい人が死ぬのは嫌。そういう単純なことです。これを忘れないでくださいっていいたいの。」
「………ははは。そうだな。こういう時代じゃ命投げんの当たり前になっちまってて…忘れがちだもんな。そういうの。」
「そうです。私の周りの兵も、それに付き合って行ったメイドも…近くの戦争に駆り出されて、死んだ人もいっぱいいたんだ。そして…私の…お母様だって…戦争じゃないけど、病気で…。だからね。せめて生きることだけは忘れないで欲しいなって。だから…」
「………はい。わかりました。今後、その事を肝に銘じ行動することを…誓います。」
「よろしい。改めてよろしくね。救済屋、アロン・ヴァスティオン。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。ユリス・エウレス姫」
「さて、堅い話はここでおしまい!まだ見てない場所があるんだ!案内お願いね!」
「いえ、俺もあまり知ってるわけじゃ…」
ユリスはすでに目を爛々と輝かせ楽しみにしていた。
なんというか…切り替えの早い子である。
地図はもらってるわけだし…と考え
「…まあいいか。よし!それでは続き…ご案内させていただきます」
それからは他愛もなく話をして1日を過ごした。帰った頃にはクタクタで、ユリスは興奮冷めやらぬ様子で楽しそうに終始していた。
帰ってからもずっと楽しそうに今日みたいろいろな不思議に思ったり、楽しいと思ったことを笑顔で話してくれた。
それはこの仕事の…いや、ユリスと接するということの充実感、幸せを感じいるに充分すぎるものだった。




