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全力による異形

 「もちろんだとも!アハハハハ!!!」

 辺りに波動を撒き散らしながらタールは笑う。

 「わかっちゃいたが…油断ならん奴なのは間違いないようだな…。」

 膨大な魔力を辺りに散らしながら、相手が一人増えるという不利な状況においても焦燥を全く感じさせず笑うタールを見て、そう確信するエクス。

 「エクス!アーミーは!?」

秋葉とティードがエクスとヴェルクのもとに向かい、エクスに気になったことを聞いた。

 「………。まぁ、あれだ…。私…必要ないなって思って…ね…。アーミー一人で十分だなって…思ってね…。」

「あ…ああ…。なるほど…。さすが我等がナンバーワンだな…。」

「じゃあ、状況しだいじゃ、助っ人として、こっちに向かってきてくれる可能性もあるわね…。とはいっても頼りにしてちゃもしもの時やられるわ。だから…。」

「アーミー達が助けに来るまでには倒す…くらいの精神で。」

「ええ。倒しましょう。あいつを。タールを。」

秋葉達四人は一斉に構え、タールを迎え撃つ準備をする。

 ニタニタと未だに楽しそうな笑みを浮かべながら、近付いてくるタール。

 ゆっくりと近付いてきていたタールだが、ピタッと秋葉達と距離がある地点で止まった。秋葉達との距離が十メートルはあろうその場所で両腕に魔力波動を纏わせたと思うと地面に向かいそれを振るった。

 すると地面が膨れ上がり、タールと秋葉達がその地面ごと、宙に浮かんだ。やがてその地面も割れ、その破片になった地面が空中に点在することで足場になった。

 その足場を体勢を崩さないようバランスよく踏みながら、近付いてくるタール。その狙いは…。

 「よろしく。エクスとやら。お前の力。見せてくれや!」

「ああ。よろしく。タールとやら。そう言うからには私が力出さないうちに負けるなんて萎えること…ないようにしてくれよ!」

 タールは右腕に魔力波動を纏い、エクスに向かって振るう。

 対し、エクスも右腕に力を込める。すると、黒色の霧のようなものが腕に纏われた。

 「な…!?」

タールは反射的に驚いてしまった。その黒い霧が異質なものだと直感でわかったからだ。

 同時、この異質さは、あの風のようなものを様々な形にして戦ってくるティードと似ている…と気付いた。

 タールはそこまで考え、すぐに思考の渦を頭の中で払いのけた。

 思考にはまっていると、そこを戦闘では当然のように突かれる。それは避けなければならない。 冷静な部分がそう判断したから…というのも事実だがそれ以上に…『これ以上その異質さに触れるのは危ない』と本能的に理解したからというのが大きいだろう。

 タールはその思考を振り払うように拳を放ち、エクスの黒い霧が纏った拳とぶつかった。

 強力な一撃がぶつかり合い、辺りに魔力波動と、黒霧が広がっていく。魔力波動は辺りを切り裂きながら。黒霧は飲み込みながらそれらは広がり、やがて弾けた。

 反動でお互い飛ばされ、体勢を整えて、空中の足場に着地する。

 タールは先程の拳がぶつかりあった時のことを思い出し、ゾッとした。

 魔力波動が広がったことから維持できたのは確かだが…あの黒い霧が魔力波動に当たったとき、魔力が塵となって消えていくのがわかった。

 いや…。正しく言うならば『死んでいった』というほうが正しい。なんとか魔力を底上げし、維持することで同質をぶつけあい、相殺することには成功したが、もし、本気で放たれていたら…。

 エクスの方を見たら、エクスの周りの足場は抉れ、不自然な形になっていた。それを見て、タールは思う。あの道具を使わざるを得ないかもしれない…。と。

 タールがそう思うと同時に足場が落下し、音をたてて次々足場だったものが落ちるなか、秋葉達とタールも降り、着地する。

 「…いいねぇ。そいつも面白いじゃないか…。秋葉。一人一人潰しがいあって最高だ…。」

「そりゃどうも…。…………タール…。あなたに聞きたいことがあるわ…。」

 相も変わらず楽しそうに…語っているように見えるが、少し顔が青ざめているタールを不思議に思い、見ながら秋葉は改めて聞きたいことを聞くため、口を開いた。

「なんだ?昔馴染みなんだ。遠慮せず言ってくれよ。」

「…。あなたは…。本当に…。世界を…。」

「ああ。潰すつもりだぜ。」

わかりきっている答え。しかし

 「貴方…できると思っているの?いくら管理局がバックにいても…!」

「できるさ…。『世界』なんて『全』から見たら、ないも当然のちっぽけなものだ…。世界を潰す…なんて案外簡易にできるって…わかったんだ。」

 「なんで…。なんでそんなことを…。」

「面白そうだからだ。」

タールらしい答え…だがそこではたと気付いた。頭に浮いたその疑問をすぐに言葉にして吐き出す。

 「案外簡易に世界を潰すってことができる…って…わかった理由は…何?何があったら…誰に聞いたら、そんなことがわかるの?」

 「…考えて生きてりゃ、誰だって気付くことだ…。」

「………。」

わかってはいたが…答えるてくれる気はないようだ。これ以上の門答は不要だと判断し、構えをとる。

 「ま、いいわ…。今は答えなくてもね…。取っ捕まえて、吐き出させれいいだけの話だもの。」

 「できねぇよ…。そんなこと。お前達じゃな!」

タールが言った瞬間、足元が光り、結界がタールを包んだ。質がある結界に覆われてしまったため、視界が悪く、周りが見えなくなる。

 「…さっきの話はこれのための時間稼ぎ…か。抜かりない。流石は秋葉ってとこか…。」

 口元を歪ませ、笑い、身体の内に魔力を込めていく。やがて内側に溜まった魔力を外に解放することで、魔力による波動の奔流が爆発を起こし、結界を破壊した。

 が、破壊した後、見えた景色は見渡さす限りの岩々がある平地ではなく、周りに風が渦巻いて、自分を囲んでいる状況だった。

 少し考えた後すぐにタールはこの状況を理解した。ティード…という奴によってこの風のようなものが形成されている。そしてこれは恐らく、風で渦のようなものを起こし、タールはその台風の目の位置にいるのだろう。 

 やがて風の渦から風の鎖とでも言うべきものが一直線にタールを狙い、タールはそれによって両腕を絡めとられ、身体が固定される。

 それが終わると風が止み、タールの両腕を捕らえている風の鎖のみが残った。

 タールは身体を守るように魔力波動による膜をつくり、防御しながら、やっと明けた景色に目を細め、何が起こっているのかを確認する。

 すると、目の前に右腕が黒い霧で覆われている、エクスが現れた。

 「…ッチ!」

 流石にこれはヤバイ…!そう、瞬時に判断したタールは波動で自分を捕らえている風を裂こうとするが、もう遅い。

 エクスが拳を突くと、拳の形をした黒い霧がタールを覆った。黒い霧がタールに当たることで、魔力波動によってできた膜が『死んで』いきながらタールは地面に叩きつけられた。

 「ぐ…は…!」

防御なく、モロに攻撃をくらい、立ち上がろうとしても、うまく立ち上がることができない。

 焦燥の中、地響きにも似た声が耳に、身体に響く。

 タールは首を動かし、その声の原因を確認し、それを見た。

 そこには魔力鎖によってできた龍が 空を覆い尽くすように顕在し、咆哮をあげていた。それは、歴史上に存在する龍が実際に顕現し、形になって現れたように錯覚するほどの存在感を放っており、タールは身体を動かし、なんとか立ち上がる事に成功しても、そこから逃げたり、立ち向かったりといった発想が頭に浮かばないほどだった。

 「マジ…かよ…。」

茫然とタールが呟いたのを合図に龍がタールの身体を噛み千切らんと言わんばかりに喰らい、空高く昇っていく

 「グ…ガァァアァァァァーーーー!!!」

 なすすべもなく空にあげられ、やがて地に向かい龍は落ち始めた。その勢いは強烈な重力で喋ることができないほどで、タールはそのスピードを保ったまま、轟音と共に地面に落ち、同時、龍をつくるほどの質量を持った魔力鎖が質量を保てなくなり、破裂し内部にある膨大な魔力が溢れ、爆発を起こした。

 爆発による光は徐々に大きくなり、辺り一帯の岩を全て塵にしながらもなお、範囲を広げ、あらゆるものを飲み込んでいく。

 やがて光はゆっくりと収まっていき、景色が見えるくらいに光が収まった時には、辺り一面の景色は全く違うものに変わっていた。

 地面は抉れ、巨大なクレーターができており、空気は円状に裂け、まるで空に大穴が空いたように見える。

 「はぁ…はぁ…はぁ…。」

先程の巨大な龍を顕現し、ぶつけるといった大技を放った秋葉は、膨大な魔力を使っただけあり、疲労困憊といった様子だった。

 秋葉は規則正しく呼吸をすることで、息を、体調を整える。

 「大丈夫?」

ティード達が近くに来て、心配げに声をかける。

 秋葉はええ。と笑顔で答え姿勢を整えた。

 「アハハハハハハハ!!!」

同時、辺りをつんざくようなあの笑い声が響く。

 驚く秋葉達を文字通り嘲笑いながら、クレーターの中心に身体全体が焦げ、真っ黒な姿になりながらも、人間の原型は留めているタールがいた。

 しかし、身体はピクリとも動いておらず最早立ち上がることも不可能だろう。どうやって笑ったのか疑問に思うほどだ。

 タールはしかし笑い続ける。そんなタールを見て何をするか分からない…まだ何かあるにかも知れない。と思うのも当然だろう。

 秋葉達はタールがその何かをする前に捕まえなければならないと判断し、すぐさまタールのもとに向かった。

 近付いていく内、タールの身体に異変が起こっている事に気付いた。タールの身体の黒く焦げた皮がまるで脱皮するかのように、剥がれていっていくのだ。

 そんなタールを見て、間違いなく何かあると、確信した秋葉達は、 急ぎタールの元へ向かう。

 後少し…後少しでタールに手が届く…。そんな距離で。タールの身体が突如膨れ上がり、魔力波動を広範囲に散らす爆発を起こした。

 ヴェルクが瞬時に人一人分の結界を秋葉達一人一人に張ることで防御することに成功したが、それぞれ別方向に、地面を転がりながら吹き飛ばされる。

 急ぎ体勢を整え、タールの方に再び向かい、タールを見て…秋葉達は絶句した。

 タールが変わり果てた姿になっていたからだ。身体全体が元の姿の三倍ほど大きくなっており肌の色が青く、筋肉が盛り上がり、背中からは無数の腕と脚が生え、四つん這いの体勢で秋葉達を見ていた。

 「………ター………ル………。」

呆然と、秋葉が呟く。元とはいえ、友人のこんな変わり果てた姿を見れば、こんな反応になってしまうのも無理もないことだろう。過去の関わりがない、ティードとエクスすら、驚いているのだから。

 しかし、誰に言ったわけではない秋葉のその言葉に返すものがいた。

 「ああ…俺だよ…。」

やけに声が高く、機械の声かと思ってしまったが、その声は間違いなく、秋葉達の見ている先、前方にいる『何か』が発している声だと、口の動きと音の発生元からわかった。

 「…タール…なの?」

「ああ。そうだ。俺が喋っている。見て、聞いて、わかんないかな?」

「………。」

秋葉達はどう返したら良いかわからず、黙っているとあのやたらと高い機械音で。あの良く聞いた笑い声が鼓膜に響いた。

 「アハハハハハハハ!まぁ、無理もないわな。こうも姿が変わったんじゃ、わかんないのも当然だな!」

「貴方…それは一体…どういう…。」

疑いようもなく、間違いなく。目の前の奇怪な怪物の正体がタールだとわかり、そうだとわかっても簡単にその状況を理解し、飲み込むことができなかった。

 状況の整理、動揺を抑えるためにも質問をし、時間を稼ぐことを考え、質問をした。…とは言ってもどうして、どうやってあんな怪物の姿になったのかを知りたいという気持ちがない訳ではないが…。

「単純さ。デルクに俺の身体を上書きし、転体するための装置をかしてもらっててな…。それを使ったにすぎん。最もまだ試作だからかこんな姿になってしまっているが…。ククク…。力が…力が溢れてしかたない…。これが転体か!」

 「元には…元の姿には…戻れるの?」

「さぁな…。つってもこんなに溢れるほどの力が生まれてくるような素晴らしいこの身体を…捨てる馬鹿なんざこの世にいねぇよ!!!」

 タールがそう叫んだ途端、地響きのように地面が揺れ、叫んだことによって生じた風圧が秋葉達を襲った。

 秋葉達は風圧で飛んできた砂埃等が目に入らないように腕で顔を覆いつつ、魔力感知でタールの様子を見る。

 しかし、タールがさっきまでいた場所に魔力反応がなかった。

 秋葉達はすぐさま魔力感知の範囲を広げ、風圧がぶつかってくる中、タールを探す。

 そうしていると、タールが秋葉の感知の範囲に入り、魔力感知の能力で瞑っている目でも視界に映った。タールはエクスの後ろにいた。背中にある無数の腕と脚を右腕にまとめ、束にして、エクスにそれを振るおうとしていた。

 「エクス!!!」

 秋葉はすぐさまエクスの名前を呼ぶことで、警告をする。風圧のせいで、声は届いていないだろうし、腕で顔を覆っているから見えないかもしれない。それでも…!

 「…え…?」

エクスは気付いた。自分の後ろからタールが攻撃をしてこようとしていることに。それでも対処という対処ができなかった。あまりにも。その動きがエクスの予想を越えて、速かったからだ。

 タールの腕がまともに防御できていないエクスの横腹を捉えた。

 瞬間、辺りに魔力波動が爆発するかのように広がり、螺旋の魔力波動が地面を、空気を切り刻みながら、エクスに当たったまま突き進んでいった。

 魔力波動によって先程までの秋葉達の方に来ていた風圧は掻き消された。

 これで腕で顔を覆うことによる視界の悪さを腕を退くことができたため、解放することができた。

 しかし、開けた視界で見れたものは、凄絶な景色。

 地面は螺旋の魔力波動が通りすぎた巨大な跡があり、岩々は切り刻まれ爆発によるクレーター出来ていたりと、景色が一変している。

 「エ………!!!」

エクスの無事が気になり、エクスの名前を呼ぼうとしたとき、ヴェルクの横で、魔力波動による螺旋を束にしている腕脚に纏いながら、それをヴェルクに振ろうとしているタールが目に入った。

 ヴェルクも気付いたようだがタールの動きが速すぎる。結界を張ることで防御するなんて間に合う訳もなく。なすすべなくヴェルクはその腕脚の一撃をくらい、魔力波動が辺りに飛び散る爆発がおき、魔力波動による螺旋がヴェルクを引きずりながら遠くまで突き進んでいった。

 「ヴェルク!!!」

 見えなくなるほど遠くまで吹き飛ばされたヴェルクとエクスが心配になり、大丈夫かどうかの確認だけでもしたい。が。その気持ちをグッと抑え、タールを探す。

 やはりとでも言うべきかタールはさっきヴェルクに攻撃をしたときの位置にいなかった。

 すぐにタールの位置を探るため、魔力感知に集中しながらティードを探す。

 エクス、ヴェルクと狙われ、残ったのはティードと秋葉のみ。ならば、早めにティードと合流し一緒になって固まった方が、タールが瞬間的に攻撃してきても、対処できる可能性が高い。

 そう考えながら探しているとタールの魔力を感知した。同時、爆発と共に、ティードが螺旋の魔力波動によって吹き飛ばされていくのが見えた。

 「ティード!!!」

叫び一歩踏み出した秋葉の前に、腕脚を束にし、魔力波動を纏わせているタールが現れる。

 タールのその一撃が秋葉に届く…ことはなく、気付いたら、タールは上空に出ていた。

 「は?」

驚くのも束の間タールは身体中を魔力鎖で縛られ地上に叩き付けられる。

 一瞬、何が起きたか理解できなかったタールだがすぐに理解した。瞬間、笑みが漏れる。

 「秋葉め…。残り少ない魔力を仲間のために使うのではなく、自分を守るために残していやがったな…!ククク…恐ろしいほど冷静な思考能力だ…その場で全員が生き残る最も可能性が高い策をすぐに導きだしやがる…。あの仲間思いの秋葉が、自分が生き残ることを優先するとはねぇ…。いや…。仲間を思うゆえに…かな。どちらにせよロジックがより厄介になってやがる…。」

 しかし、冷静に思考しているのは秋葉だけではない。タールは鎖を引きちぎりながら現状を判断するため思考する。

 (秋葉の魔力は、魔力鎖による龍顕現…なんて化け物じみた技を発動したからにはもうほとんど残っていない…と勝手に思い込んでいたが…どうやらまだ攻撃できるだけの魔力が残っているっぽいな…。、それで鎖顕現の時に出現するワープホールを使って、予め身体にそれを張っておくことで俺の攻撃の速度に対応できたというわけだ。つっても…。仲間を守るために使いたい…。というのが秋葉の本音だと考えていい。だとすれば…。仲間を守るために使うことができないほどの魔力しか残っていないと考えることもできる…。まだかくし球がある可能性もなくはないが…ククク…。ま、いいか。この予想通りじゃなかったにしても…。じっくりゆっくり…。楽しめばいいだけだしなぁ。)

 目線をあげると秋葉がいなくなっていた。どうやらどこかに隠れたようだ。

 「わかっちゃいたが…やっぱ一番厄介なのは秋葉か…。残しておいて良かった。やはりメインは最後が一番だ!」

喜びながら魔物のようなおよそこの世の生物とは思えない声で咆哮をあげるタールを遠くの岩の影から見る秋葉。

 ワープをうまく調整することでタールがいる場所の景色をワープホールを使い見ることができた。タールの様子を注意深く見ながら秋葉は思案する。

 ティード達を助けることは魔力鎖を展開して放てばできたかもしれない。しかし、タールの動きが速すぎた。できるかどうか分からない事に魔力を使ってしまえば残り少ない魔力が尽きるのが早くなる。そうなれば全滅の可能性は格段に上がってしまう。それだけは防がなければならない。

 秋葉は心の中で…そして口で小さな声で「ごめんなさい」と言い、タールに意識を集中した。

 全滅はなんとか免れることはできた…。しかし、状況は依然、詰みに近い。秋葉の魔力はほとんど残っておらず、仲間達は見えないほど遠くに飛ばされ安否不明。アーミーや真澄達が助けに来ていないことからも戦っているかはたまた動けない状態なのか…。どちらにせよ助っ人には期待できない。

 ティード達皆の安否の確認だけでもしたい。だけど今それをしていたらその隙を突かれる可能性がでてくる。

 岩石平山という岩以外何もないようなこの場所おいて隠れ場所等ないに等しい。秋葉が今隠れているこの場所も見つかるのも時間の問題だろう。

 タールの能力も…いやあの転体というのも厄介だ。

 普通、魔力を身体がまるっきり変化するほどあげてしまえば当然いろんな所に影響を及ぼし、理性的な思考を保つことは不可能で、魔力の溢れるばかりに暴れるのが関の山だろう。

 が、転体は『存在を根本から別生物に変える』ため、思考することができる。さっき会話ができていたのはそんな恐ろしい特徴を持っているからだと考えた。

 そして暴走するほどの魔力は元から自分が持っていたものとして扱われるから、自由に不自由なく扱うことができる。

 考えれば考えるほど、弱点がないに等しいものだということがわかってくるだけで何の打開策も頭に浮かび上がってこない。

 諦めそうになる気持ちをかぶりを振って抑え、思考を秋葉は止めず、必死に考える。

 そんな思考時間は長くとることはできなかった。ついぞ、何の策もうまれることなく、タールに見つかってしまう。

 タールが上空から降ってきて、秋葉の近くに着地する。瞬間、地面に亀裂が走り、着地した際の衝撃による風圧が辺りを吹き飛ばした。

 秋葉もその風圧に巻き込まれ、二、三度地面を転がりながらも体勢をなんとか整え、ワープホールを使い、遠くの岩場に隠れた後、どうするかを考える。

 打開策は確かに浮かばなかったが…しかし、策がないわけではない。ただどうしても賭けになってしまうため、この一手をうって勝てるという保証がない。だから他の策を考えていたのだが、なにも浮かばない以上、この策を使うしかない。

タールに元の人間の姿に戻れるのかと聞いたとき、「さぁな。」と答えていたことから、難しいことなのは予想できる。それでも…。

 咆哮と共に波動が撒き散らされ、辺りの岩場を切り刻みながら、タールが秋葉の方に向かってくる。

 やはりタールがあんな姿になっても魔力感知ができている以上、隠れても意味がないようだ。

 覚悟を決め、向かってくるタールの前に現れ、構えをとる。

 残り少ない魔力でこの怪物…タールを倒す方法はただひとつ。『元の姿に戻すこと』。

 グダグダ考えていても仕方ない。勝つしかないのだから。策があるなら、それを実行するのみ。

 あの時とは違う。まだ、皆の命はなくなったと決まった訳じゃない。勝って、皆で帰る。やることは…ただそれだけ!

 秋葉はワープホールを展開し、そこから鎖を出し、タールと対峙する。

 『皆で帰る。』そのただひとつの未来のために。

 

 

 

 





 


 

 




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