プロローグ
所々血の描写があったり、戦闘シーンとかあったりします。弱いですが見ようによってはグロなので注意。
しとしと。
雨は降り止まず、濡れた身体に冷たさが染みてくる。
しとしと。
もはや立っているのか座っているのかさえ、分からないほどに。
屋根から落ちた雫が、一定の間隔で傘を叩く。
雫は止まらず、ビニールの上っ面をするすると、止まることなく滑り落ちた。
ゆっくりと、後ろを振り向く。
いつまでも一緒だと誓った友が、今は物言わず、黙って蹲っていた。
もしかしたら、友は今一度、自分の名を呼んでくれるのではないか。
そう期待していたところもあって、少しばかり落胆する。
幻と思いたかった。
しかし、その命を断ったのは紛れもなく自分。
血が染みて黒くなった白いシャツは、それが幻なんかではないことをはっきりとさせた。
ぬるぬるする紅い血にまみれた傘を放り出して、コンクリートの床に横たわる。
背中の下の固い感覚に、少しだけ「生きている」実感を覚えた。
鉄筋がむき出しの天井に蛇のように走るコードと、ぷらぷらと、頼りなくぶら下がった電灯。
電灯の周りには蛾や小さな虫が集まっている。
ここはどこだろう。
そんなことは、今はどうでも良かった。
どうしてこんなことになったのか。
いつまでも一緒だと誓った友は、もういなくなってしまった。
それも、自分の手で。
彼女は魔物の子。
人間たちから蔑まれ、虐げられる運命にあった子。
それ故に、人間の村にいた彼女は、魔物であることを隠さねばならなかった。
人間として世話をされ、人間と同じ教育を受けて育つ。
いつしか彼女は、自分が魔物だということを忘れていった。
老いないことに気付いた、その時まで。
そうだ。
子供のころのあの日、共に誓いを立てた友は、私が魔物だと知ると、持っていた刃物を私に向けた。
本能だ。襲われた瞬間の、とっさの行動だったのだ。
いつまでもばれなければ、ずっと一緒に暮らせたかも知れない。
しかし、そんな保障はどこにもなかった。
現に、魔物の寿命は、人間よりもずっと長いのだから。
もう、この村にはいられない。
魔物の村へ向かうのだ。
それが、本能が彼女にさせた行動だった。
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