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<庭都魔術学園>は――――極東の魔術都市<庭都>に存在する、唯一の“魔術教育機関”である。


<魔術都市>とは――――“魔術師”と呼ばれる、“魔術”を行使する者たちが身を寄せる“都市”のことで、世界に“五つ”あるらしい。


 全ての<魔術都市>は、現実社会の裏側に存在し、その存在を完全に“秘匿”し“隠蔽”している。しかし秘匿し、隠蔽ているとは言え、<魔術都市>も、この<庭都魔術学園>も、現実社会のどこかには存在している。そのため、あらゆる魔術や、魔術的な方法をもって、一般社会に魔術世界の存在や情報が漏れないように、日夜、管理、監視、監督が続けられている。


<庭都>自体は、日本列島のどこかの“土地”につくられた<魔術都市>だが、その場所がどこであるのかは明確にされておらず、もちろん生徒には知らされていない。


 そして、<庭都>の外――――“外の世界”に出ることは、特別な許可がない限り許されておらず、人によっては一生をこの<庭都>の中で過ごさなければならない、なんて場合ケースも多く存在する。一度入ったが最後、二度と出られないなんて状況ケースは、この魔術世界では珍しくもない。


<庭都>は――――“東京二十三区”と呼ばれる地域と、ほぼ同じ面積を有しているみたいだが、魔術学園の生徒が足を踏み入れていい“区域エリア”は、ほとんどない。<庭都魔術学園>や、学生たちの住む三つの尞や、その他教育機関のある<学生特区>と、その他“数区”のみ。


 その曰くありげな<庭都魔術学園>の設立については、かなりの時代を遡り、江戸時代の末期にまで至る――――


 それまで、この“日本”という国では、“魔術”を――――


“呪術”、“陰陽術”、“道教”、“密教”などという“名”を用いて使用していた。


 そして現在の魔術の定義とは――――

 

――――“人の手では、叶えることができない御業。神秘や奇蹟を行使すること”と、定義している。


 その“定義”に当てはめれば、“呪術”や“陰陽術”なども立派な魔術の一体系になるという理屈である。


 江戸と呼ばれる時代の末期――――日本という国が開国を巡って争う混乱の最中、“とある魔術師”がこの国に流れつき、その魔術師の手によって、この国に伝わる“神秘”や“奇蹟”を行使する“術”は総括、編纂され、そして体系化、技術化されて纏められた。


その過程で、この魔術都市<庭都>がつくられ、そして纏められたその魔術を後世に伝え、発展させるために、学び舎たるこの<庭都魔術学園>が設立された。 


そして、この<庭都>ができて、“早百五十年”以上の月日が流れた現在――――


「――――魔術は飛躍的に発展し続け、<エーテル素子>の発見、及び<エーテル式>への変換など、枚挙にいとまがありません。現代魔術の発展には、<けい>の称号を持つ、現代魔術の雄――――」


 僕は“魔術史学”の講義を聴くことを諦めて、そして考えることをやめた。


「…………意味が分からねー。魔術を使うのに、魔術の歴史を学んでどうするんだ? それに、この庭都の歴史とか必要ないだろ?」


 魔術史学の講師は、色白のやつれた顔、覇気のない声で、僕を置いていくように授業を続ける――――


「現代魔術とは、つまるところ“情報体”である<エーテル素子>を書きかえ、“事象”や“現象”を<エーテル式>によって上書きすることにあります。これにより、<マナ>の枯渇した現代でも、魔術師は魔術を安定的に使用することが可能となります」


「……………………?」


 僕は講義室を見回した。


 巨大な階段型の教室――――そのあちこちに魔術師の卵たちが、いずれ芽吹くその時を夢見て、一様に真剣な面持ちで講義を受けている。僕一人だけが、取り残されて退屈をしているみたいだった。


 庭都魔術学園高等部の授業は、自分で必要だと思う魔術の授業を選択し、自分に合った魔術を学んでいくという“単位取得性”になっている。百を超える授業の中から、自分に見合う授業を選択し、魔術を習得するための“授業要綱カリキュラム”を自身で作成する。そして次の学年に上がり、晴れて卒業を果たすためは、それに見合うだけの“単位”を取得しなければいけない。


または、進級や卒業に見合うだけの“研究成果”の発表という裏道もあるらしい。


 僕は、師である龍驤琴乃に――――“実践的な魔術を使う授業を受けるな”と、きつく申しつけられているので、このような“座学”のみの授業ばかりを選ばざるをえず、すでに退屈しっぱなしだった。


“悪魔学”を筆頭に、“魔術史学”、“薬術薬草学”、“天文学”、“占星術学”、“神学”、“哲学”、“一般教養”などなど…………下らない授業のオンパレードに、僕の頭の中は破裂しそうだった。唯一の楽しみは、体を動かせる“体育”の授業くらいだ。


 あと昼食が食べられる昼休み。


「…………むーん」


 僕は唇と鼻の間に鉛筆を乗せながら、龍驤琴乃の言葉を思い出す。


『いい? 魔術師が自分の学んでいる魔術をひけらかすなんて、愚の骨頂もいいところよ。魔術とは、秘すれば花。その本質、そして深奥とは――――秘匿にこそある。他の魔術師が使っているような魔術をありがたがって使うような魔術師は、下の下、二流どころか三流もいいところよ。競い合うことも含めて、この学園の全てが下らないわ』


 僕は、<庭都魔術学園>を根底から覆すような発言に耳を疑い、ならば、「なぜ、あんたはこの学園の講師なんかをやっているんだ」と思ったが、そもそも<異端審問官>が本職の彼女に、そんなことは言うだけ無駄っだ。


「…………そうは言っても、それって独学だけでどんどん自分の魔術を編みだせる魔術師だけに当てはまる言葉だよな? 僕なんて……ろくな魔術一つ使えないのに」


 そう呟いて、僕は自分の右目を眼帯の上から抑えた。


 じくと痛む右目――――これだけが、僕の唯一の魔術とも言ってよかった。


 果てしない犠牲と代償の末の結果、目を覆い、耳を塞がんばかりの惨劇と悪夢の対価が、こんな右目一つだなんて、ものすごく下らない気がした。


 そう考えれば、全てが下らなく感じる。


 この魔術史学の授業も、草臥れたハンカチみたいな教師も、庭都魔術学園も、庭都も、異端審問会も、僕自身も、この右目も、全てがくそ下らなく、どうでもいいものに思えた。

 

――――ただ一つ、僕の“夢”をのぞいて。

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