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「誰が友よ? あんたと友人関係になるなんて、死んでもごめんよ」
僕が一人ごちると、どこからともなく声が響いた。
僕の目の前に、不吉を体現したかのような黒鳥――――“烏”が一羽現れて、不機嫌な声を上げた。
「迦具夜の“使い魔”か?」
「そうよ」
「使い魔を通して会話できるのか?」
「…………当たり前でしょう。こんなの使い魔を使役する上で下の下も良いところよ」
「何にしても助かったよ。ほんと、世話になりっぱなしだな? この借りはいつか返すよ」
「返してもらわなくて結構よ。そもそも、助けたつもりもないし」
烏から、棘のある怜悧な声が響いた
「もう忘れたのかしら――――あなたの破滅させるのは、この私だって言ったでしょう? こんなところで死なれたら、私が困るのよ」
「まぁ、そういことにしておくよ。ありがとう」
「さぁ、下らないお喋りはお終いよ。後は、自分の力で生き延びてみなさい? 無事に生きて戻ったら、今夜以上の悪夢を――――私がプレゼントしてあげるから」
そう言い残して、烏は夜の闇に飛翔した。
「悪夢なら、十分間に合っているんだけどな…………」
烏が夜の闇に消えると、まるで糸が切れたようにマリアティアが地面に倒れた。
「――――――――マリアティア?」
僕が慌てて駆け寄ると、マリアティアはゆっくりと顔を上げ、優しく微笑んでみせた。
「大丈夫です。少し体の調子が悪いみたいです」
<聖骸化>――――聖人となる奇蹟者が死の淵に起こす最後の奇蹟が始まるのかと、僕は訝った。
「大丈夫。僕が必ず何とかする…………マリアティアは安心して眠っていろよ。マリアティアが目を覚ましたら、全てが無事に終わっていて……何もかも、うまくいっているさ」
僕はマリアティアを負ぶって、背中越しに言った。
それは、自分自身に言い聞かせるような言葉だった。
マリアティアの体はとても軽かった。
その羽のような軽さに――――僕は傷ついた。
その軽さを、僕は許すことができなった。
それは、耐えることができない軽さだった。
「私は、何も心配していません。ヨハンを信じていますから」
そう言いながら、マリアティアが僕の首に自身の赤い聖骸布を巻いてくれた。
「首元が寒そうですよ。それに、ヨハンは大丈夫です。あなたは祝福されています。きっと私の想いが――――私の愛が、あなたを守ります」
「祝福に、愛って…………大袈裟だな」
僕にもっとも相応しくないだろう言葉を受けて、僕は思いきりに駆け出した。
大地を強く踏みしめながら。
その大袈裟な言葉は、こそばゆく、おもはゆく、あたたかかった。
僕の胸を、心を、魂を締め付けるほどに――――
心の中で、僕は言った。
「――――――――――ああ、きっと守るさ。僕の魂の全てを賭けて」




