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「ヨハン、あなたは…………バカです」

 

 マリアティアは、僕をじいっと見つめ、唇を尖らせた。


「あなたは生き残ることができました。それに、私の奇蹟で…………あなたの悪魔を祓ってあげられたんです。あなたは救われるはずだった。それなのに――――バカです。バカ。バカ」

 

 あの後、コトノさんの魔法陣から解放されたマリアティア――――

 

 コトノさんが書き換えた迦具夜の工房アトリエの魔法陣は、肉体から精神だけを切り離すというもの――――つまり、僕が声も出せず、体も動かせずに、自分自身を俯瞰していると感じた状態とまるで同じことが、マリアティアの身にも起きていた。


 そして、龍驤琴乃との間に交わされた会話を全て聞いていたマリアティアは――――その結果、僕を救うことが適わないと知った。それどころか、自分自身マリアティアのせいで、さらに僕を危険な目に遭わせてしまうという事実に、少女は心から嘆き悲しんでいた。


「本当に、ヨハンはバカです」

 

 繰り返される、心許無い“バカ”と言う単語が、夜の闇に虚しく立ち消える。


「……………まぁ、そんなふうに言うなよ」


「でも…………」

 

 僕はマリアティアを宥めるように言って、夜の闇を駆けた。

 包帯の巻かれた左手でマリアティアの手を握り、二人揃って月のない夜を駆ける。

 

 目的の場所は決まっている。


<禁止の森(ベル・フォレスト)>の奥で待ち受ける、魔術師――――ガラアーベント・メイザース。

 

 僕は新品卸したての“黒の外套”を着込み、新品の黒革のブーツを履いている――――外套の下に着込んだ黒の制服も、白いシャツも、黒のスラックスも、下着に至るまで、全て新品卸したてで、おまけに<魔術付与(エンチャント)>の施された一級品だった。


 これらは全て、龍驤琴乃が用意してくれたものだった。


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