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「――――――――――――、えッ?」
再び目を開いた時、僕の体は自由に動き、声も発することができた。
重い枷から解放されたように。
「…………コトノさん…………どうして?」
呆然としたまま立ち上がって尋ねると、コトノさんは呆れたように僕を見て笑った。
「だってー、ここで私がヨハン君を処分しちゃうと、私の監督不行届けで始末書ものになっちゃうし、そもそもいろいろ面倒くさいでしょう? だから、<メイザースの魔術儀礼>に巻き込まれてってことにしたほうが――――いろいろ都合良いのよ。そもそも、メイザース側は、ヨハン君と聖人の両方を欲しがっているんだから。これで余計な借りもつくらなくて済むじゃない?」
「じゃあ、僕は―――――――」
「言ったでしょう? ヨハン君――――あなたは、三流以下の執行者にしかなれないって。あれは、あなたの才能や実力に対して言った言葉じゃなくて、あなたの心や魂に対しての評価よ」
「……………………」
「それに私、賭け事は大穴しか狙わないタイプなの。とくに人生なんて大博打では、尚更ね」
コトノさんが片目を瞑ってみせた。
「“死地”へ――――舞台に上がって来なさい。そして、できることなら、生きる可能性を掴みとって帰って来なさい――――誰でもない、あなた自身のために」
そう言った龍驤琴乃の表情は――――
僕の双眸には、どうしても魔術師の貌には見えなかった。
「この状況を打開する唯一の術は、<メイザースの魔術儀礼>を失敗させることよ――――つまり、分かるわね?」
「はい。ブッ飛ばしてきます」




