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「なかなか、いい“工房アトリエ”ね――――幾層にも張った結界にトラップ|の数々。ずいぶん楽しませてもらえたわ。当の本人はすでにこの工房アトリエを放棄してしまったみたいだけど、私に攻略されたぐらいで破棄してしまうのには、もったいない出来よ」

 

 マリアティアが眠っている部屋に戻ると、龍驤琴乃が待ち受けていた。


 舞踏会に出席するかのような大仰な黒のドレス姿で、ソファーの上に腰を下ろして長い足を組んだ様は――――まるでこの部屋の女主人のようだった。


 長い黒髪を複雑に結い上げて白い項を見せた様は妖艶で、混沌に満ちた黒真珠の双眸が、包み込むように僕を見つめ――――赤い唇を、不吉を暗示する三日月の形にしてみせた。


「それにしても、ずいぶんと奇妙な“演劇オペラ”に参加して、羽目を外しているみたいね――――ヨハン君? そんなに楽しい“夜会パーティ”なら、私も同席させてくれればよかったのに」

 

 龍驤琴乃は魔法陣の描かれた舌を妖しげに動かして、楽しそうに言ってみせた。匂い立つような笑みを浮かべていたが――――彼女がまるで笑っていないことを、僕は知っていた。


「それに、とびきりの不幸トラブルまで抱え込んじゃったのね? 聖夜の贈り物クリスマス・プレゼントには―――――――まだ早すぎるような気がするけれど」

 

 そう言うと、龍驤琴乃は自分の足元に仰向けに眠っているマリアティアを見つめた。

先ほどまで“淡い緑色”の光に包まれていたマリアティアが、今は流した血のように“赤い魔法陣”の中で眠りついている。


 赤は――――龍驤琴乃が好む色だった。


「安心してちょうだ。迦具夜さんの魔法陣よりも心地良くなるように、少し手を加えただけだから。それとヨハン君、ごくろうさま」


「…………ごくろうさま?」

 

 意味が分からず、琴乃さんの言葉を繰り返した。


「後は、私が処理をしておくということよ。ヨハン君は、これ以上、<メイザースの魔術儀礼オペラ>に関わらなくていい――――そう言っているのよ」


「それじゃあ、マリアティアは?」

 

 僕が声を上げると、コトノさんが魂を射抜くような視線で僕を貫いた。

その瞬間、部屋の温度が急に下がったような気がした――――それなのに、僕は大量の汗をかいていた。


「ヨハン君、あなたは何も分かっていないのよ。それにヨハン君は、私の言う通りに動いていればいいの。あなたは、私の所有物ものなんだから――――私の言う通りに動きなさい」

 

 まるで言葉に魔力を宿したような――――有無を言わせない、拘束力のある言葉だった。


「だから、この件も私に任せておけばいいのよ。あなたの身の安全は、私が保障してあげる。その変わり、この可愛らしい聖人は、メイザースの所有物ものになる。それで、全て解決おわりよ。あなたが眠っている間に――――そのような暗黙の了解とりきめが行われたの。終わりよければ全てよしよ」

 

 彼女が判決を告げるように、二の句を告げさせぬように言った。

 しかし、僕は黙ってはいられなかった。


「取り決めって、どういうことですか? もしかして、最初から全部知っていて――――」


「私が最初から知っていた? 何を言っているのかしら――――私は、私の可愛いヨハン君がこれ以上傷つかないように、わざわざ<メイザースの魔術儀礼オペラ>に介入してあげたのよ」


「その“オペラ”っていうのは――――<魔術儀礼>っていうのは、何なんですか?」


「――――少しだけ、お勉強の時間にしましょうか?」


 コトノさんは面倒くさそう言って、先を続けた。


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