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 僕は、言われるままに閉じていた右目を見開いた。


 眩いばかりに輝くマリアティアの魂が、見たこともないような幾重にも重なった極大の光芒となって――――僕の右目に飛び込んできた。


 光に目が眩んだように、右目が猛烈な痛みと熱を発して――――思わず右目を閉じた。


「ほう、それが<ベリアルの魔眼>か? 美しい。そして、素晴らしい悪魔だ」


 魔術師が感心したように言う。

 

 僕は彼の口車に乗ってまんまと右目を開いてしまったような気がしたが、確かにマリアティアは生きていた。


 魂は、この場所に存在していた。


 僕がマリアティアの血だと思っていたのは、彼女が纏っていた赤い衣だった。

無数の槍で貫かれた際に破れて、血が零れた痕のように見えていただけだった。


「それと、この<使い魔>は返しておこう。珍しい使い魔を連れているようだな――――ノエル」

 

 巨躯の魔術師が言うと、闇の中から黒いローブ姿の魔術師がもう一人現れた。


 気配一つ感じさせなかった魔術師――――ノエルは、深々とフードを被っていた。そのため顔や表情を確認することはできなかったが、ガラアーベント・メイザースに比べるとかなり小柄で、その体躯は親と子ほど離れていた。

 

 フードの魔術師の両手には、小さな黒猫の姿があった。


「――――セミラッ」


「――――ヨハンッ」


 セミラが反応して声を上げた。どうやら無事みたいだった。


 僕は、直ぐに駆けだしてセミラの元に向かいたかったが、目の前の魔術師の放つ重圧(プレッシャー)が、それを許さなかった。


「ノエル、使い魔を解放しろ」


 どういうわけか、魔術師はあっさりとセミラを解放した。

セミラを解放すると、ノエルと呼ばれた魔術師は、再び闇の中に消えて気配すら感じなくなった。


「…………ヨハン、ごめんにゃ。セミラ、ヨハンの役に立たずに……捕まっちゃったにゃ」


 僕の手の中に還ってきたセミラが、深く落ち込んだ様子で謝罪を口にした。


「――――何言ってるんだよ? セミラのおかげでここまでたどり着けたんだ。大手柄だよ。今夜は大トロだぞ」


「ほんとうにゃ? でも――――」


 僕の肩に乗ったセミラが、小さな体をぶるぶると奮わせてガラアーベント・メイザースのほうを見つめた。


 言いたいことは分かっていた。

 

 メイザースの魔術師が二人――――正直、どうにかなるとは思えなかった。

そんな僕の胸の内を読んだように、魔術師が頷く。


「ノエルのことなら心配せずともいい。儀式を円滑に行うための補佐役(アシスタント)を求めたに過ぎない。この<魔術儀礼>は、私一人を以て行われている。つまり、私を排除すれば、この<魔術儀礼>はそれ以上前に進まないということだ」

 

 ようするに、敵は自分だけだと言っているのだろう。

 

 それが、この“魔術儀式”の特性なのか、それとも、ガラアーベント・メイザース以外には、この魔術儀式を成功させることができないのか、ただ単に僕を侮って言っているのかは、判別がつかなかった。

 

 そして、魔術師たちが何度も言う――――


<魔術儀礼>というものが“魔術儀式”と何が違うのかも、僕にはまるで分からなかった。

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