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「ここ、いいかな?」
翌日の昼休み。
庭都魔術学園内――――食堂のテラス席の一角を独り占めにしていた人物に尋ねると、その人物は不機嫌そうに僕を睨みつけた。
「――――昨日、あれだけ痛い目を見ておいて、よくもぬけぬけと私の前にその間抜け面をさらせたわね? もしかして、一日経つと昨日のことを忘れちゃうほど記憶力が欠如しているのかしら?」
迦具夜今日子が辛辣な言葉を投げつける。
その表情、その言葉、その雰囲気の全てが、僕なんか“お呼びじゃない”と言っていた。
「まぁ、そう言うなよ。この学園に知り合いって呼べる生徒は、迦具夜しかいないんだからさ。それに昨日のことなら、僕は気にしてないぜ。痛い目は見たけど、コテンパンって訳じゃないしね」
僕は器の大きさを見せつけるように言ってやった。
そして、さらに器の大きさを見せつけるべく、丸テーブルの上に“献上品”をお供えする。
「食堂で買ってきたんだ。コーヒー牛乳。迦具夜にあげるよ」
「はぁ? どういうつもりよ?」
「実は迦具夜に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「ああ、僕は魔術に関して無知だからさ、迦具夜に教えてもらいたいことがあるんだ。風の噂で聞いたんだけど、迦具夜ってかなり成績が優秀で、いろいろな魔術に精通しているんだろ?」
「何で私がそんなこと? 龍驤先生にでも教えてもらいなさいよ」
「いや、コトノさんに聞くのは………………」
僕が言いづらそうにすると、迦具夜は何かを悟ったように瞳を細めた。
そして突然に立ち上がり、僕をギロリと睨み付ける。
彼女は、僕が食堂で買ってきた菓子パン――――チョココロネを、握った拳を勢いよく振り下ろして叩き潰した。まるで象が蟻を踏み潰すみたいに。
「――――――――なッ、」
僕が唖然としていると、迦具夜が冷たい視線で僕を貫くいた。
相当の魔力を放出しているようで、間近で魔力に当てられた僕は、すでに気分が悪くなりはじめていた。そして右目がじくと疼いた。
「次、私に話しかけたら―――――――その場で殺すわ」
そう言い残して、彼女がテラス席を去って行く。
僕は呆然と叩き潰されたチョココロネを眺めた。そしてテラス席の丸テーブルから、献上したコーヒー牛乳がなくなっていることを知り、溜息を吐いた。
「…………何も、こんなことをしなくたっていいだろ?」
温かな陽光が差し込むテラス席の一角を独り占めして、僕はぐちゃぐちゃに潰された内臓みたいなパンを一人食べた。
甘く、ほろ苦かった。




