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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛について

天秤

作者: 杉村 衣水

閲覧ありがとうございます

俺の心の均衡は、いつも彼によって崩される。

少しの砂粒で傾くそれは、木崎が日々荒らして行く。


あの日から、木崎は俺に構う事が多くなったように思う。

他の女の影も見えないから、一体彼はどうしたのかと不安になった。

良い事のはずなのに、それが逆に俺を怯えさせる。


いつか足りなくなる。

俺の感情だけではきっと物足りなくなるのに、それが解るのに、俺だけに向けられる言葉が嬉しい。


どうか、このまま愛してはくれないだろうか。


「二見」


口唇を合わせる合間に彼が名前を呼んだ。

それだけでもうどうしたら良いのか解らなくなる。

苦しい。

俺はなんでこいつなんか好きなんだろう。

もっと、きっと他が居るのに。

そう思うのに、俺はもう木崎以外に目がいかない。

そんな自分が憎らしい。


今まで校内で話すなんて余り無かった事なのに、この頃は毎朝俺が教室に入るのを目ざとく見つけては必ず「おはよう」と声を掛けてくる。

授業で解らない事が有れば訊いてくるし、昼も一緒に食べようと誘ってくる。

周りの目から見れば、なんで木崎が俺なんかに絡んでいるのかさぞ不思議な事だろう。


理科棟はひっそりとしていて、授業の時以外は人気が無い。

昼休憩に木崎は俺の腕を引っ張り、地学室に押し込んだ。

口唇がぶつかって、こいつは何を浮かれているんだろうと苛立つ。


「っは、二見」


どうして俺は抵抗しないんだろう。


彼が俺の背中に腕を回してきつく抱きしめられる。

ごつごつした骨が背骨に当たった。


「……木崎、最近彼女と居ないな」


「え? うん、そーだね。振られたし」


触れ合って少し満足したのか、彼は床に座り込んで、隣に腰を下ろした俺の指先を撫でる。


「振られた? お前が?」


「振られた。……ていうか、俺振った事無いよ。毎回告白されて、毎回振られんの」


「は?」


「彼女達の期待に応えられないみたいで。求められるから答えているだけなのに、それじゃあ満足出来ないらしい」


「………」


「優しくしてるだけじゃ駄目なのかな。応えるだけじゃ足りないのかな」


「……愛してるのに愛されないのは、しんどいだろ」


同じなのかも知れない。

木崎を好きだと言う女共と俺は、同じなのかも知れない。

いや、木崎から離れていける彼女達の方が、賢いのかも知れない。

馬鹿にして悪かった。俺はきっと愚か者だ。


お前なんか、好きになるんじゃ無かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドキッとするような、印象的な言葉、その思い。 “どうか、このまま愛してはくれないだろうか。” そして最後の一文があまりに切なくて、胸に残ります。 [一言] 読ませていただきました。 …
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