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三島が語ったこと

作者: ある日本人

三島はこう言った。彼はもういないけど、彼の言葉は今も私の心にある。

三島は声を高くして私一人にこう言った。

「今や人間は自らその目標を定めるときが来た。だが、我々が何もせず、白痴の如く呆然としていれば、我々が豊かに肥やしてきた田畑は痩せ細り、土壌は貧しくなり、我々は我々の住む場所さえ失い、いつしか、どこの誰とも知れぬ者共の奴隷として家畜同然の扱いを受けるだろう。人間は一人では利口な賢人のように見えるが、集団では愚かな生き物だと昔の人は言った。だが、一方では人間は考える葦であると言い、人間の団結こそが最大の武器であると言った。我々が真に愚かならば、我々は我々の田畑を豊かにはしえない。だが、我々は我々の田畑を豊かにし、我々は我々の幸福を誰から与えられることもなく、互いの団結と理性によって、これらの幸福を享受してきたのだ!我々には全てがある。我々を団結に誘う賢明な君主がいる。我々は豊かな国土を持っている。我々は他の宗教を信仰するものと打ち解けることができる宗教を信仰している。我々は先祖から多くの有形無形の遺産を授かっている。我々はこの世で理想の国を作るにあたり、必要な全てを我々の先祖と我々の歴史から授かり、これを継承し、そして、それを基軸として今を生きているではないか!ならば、我々は我々よりも遥かに貧しいものたちの奴隷には決してならないだろう。そう、日本人は奴隷には決してならないのだ。」

三島がそう言うが、聞いているのは私だけだ。この三島はそれさえも些末なこととして、更に多くを雄弁に語ってみせた。

「我々が我々の未来を豊かにし、我々の子供や孫たち、あるいは我々の生まれ故郷や祖国に、我々が授かり、我々が更なる努力を対価に当然のものとして獲得してきたものを悠久の彼方まで継承させる方法を私は知っている!我々はその方法を我々の先祖の偉大な勇気の中に既に見出だしているのだ!我々が我々の豊かさを継承する唯一の方法は我々が我々の意志によって、我々の行くべき道を命の限り、思慮深く、されども、勇敢に歩むことによって、我々の自由と幸福は我々の子孫に継承させられるのである。」

三島はそのことをはっきりと言い切った。私一人に三島がそう言った。私と言う一人の聴者に三島はそう語ったのだ。彼は言う。今の私は祖先の努力と歴史と言う過去があって、初めて成立するものなのだと。そして、それを伝えていくのも私の役割なのだと。そうであるならば、私たちは奴隷には決してなってはならないのだと。

そんな三島は今度は悲痛な面持ちでこんなことを語り始めた。

「しかし、悲しいかな。我々の中には我々の自由と幸福を怨み妬み、祖先より受け継いだ誇るべきものすらも気に食わぬと宣い、ついには自分の子孫を苦境に追いやる行為に幸福を見出だそうとする売国奴がいる。彼らは家族への愛も郷愁もそれらから来る祖国への親しみでさえも、悪と断じて、このどのような国でも当たり前に信じられていることを全て否定しようとするのだ!共産主義!社会主義!あぁ、なんということか!祖先より受け継いだ遺産を忘却の彼方に追いやったこうした者共はその道には重大な欠陥があることに気付こうとしない。いや、気付きたくないのだ!我々が受け継いだ誇るべきものの中には確かに我々が反省すべきものもあるだろう!だが、それも含めて我々はそれを善き遺産として、我々に降りかかる困難へ立ち向かうための善き叡智として我々を守護する楯であることを怨望に取り憑かれた哀れな共産主義者や社会主義者などは忘却の彼方に追いやり、また、我々や我々の子孫にもそうするように、あるときはテロリズムによって、あるときは詐術を用いて、脅迫強要してくるのだ!その心の貧しさとは筆舌し難く、私はこうした人々に軽蔑の念よりも先に哀れみの情を発してしまう!我々の祖先への敬意も子孫への愛情も、何もかもをも怨み妬み否定し、否定を脅迫強要する破滅主義者よ!努々、忘れることなかれ!我々は我々が自らの意志によって、自らの道を決める限り、我々は我々の過去を忘れはしない!ましてや、祖先や家族を侮辱することはなく、故郷を軽蔑することもあり得ず、祖国に憎悪を抱くことは決してないのだ!我々は奴隷にあらず!憎悪怨望を信仰する者たちに我々は屈することなどないのだ。むしろ、我々は胸を張り、この卑しき者たちに一言はっきりと言わなくてはならない。愛情を忘れ、怨み妬むことしか出来ない亡者は意志無き奴隷よりも卑しい、と。」

三島はそう訴えた。愛国心などのことは私はあまり良く考えたことがなかったが、家族への愛情や郷愁が国への親しみになるのは何となく納得いった気がする。結局、それらはその国に帰属しているのだから。

三島はそれからこう語った。

「太陽を見てみるが良い。太陽は我々の行くべき道を常に示してくれる。我々の国の旗は太陽を模している!我々の国軍の旗もまた太陽を示し、その太陽は国に光を照らすことを示しているではないか!太陽の旗を貶める者たちがいるが、そんな怨望に取り憑かれた亡者は既に日陰に住む亡霊であり、その光を浴びることを嫌っているに過ぎないのだ。太陽の旗は全てに分け隔てなく光を与える。ならば、我々が行くべき道は他所の誰かを害し、抑圧し、奴隷にし、搾取する道ではなく、多くの人と交際し、友好を保ち、己の意志を示し、共生していく道なのである。太陽の旗に抑圧や搾取や迫害などを思い浮かべるものは自身の欲望を怨望によって、その太陽の旗に投影しているに過ぎないのだ。それを非難して悦に入って、自慰に耽ることでしか、それらの亡者は幸せではいられないのだ。それのなんと恥ずかしいことか。彼らは彼らの思想や信仰の都合上、性善説を唱えはするが、彼ら自身は彼ら自身の怨望や欲望にまみれており、それらの負の感情の奴隷に過ぎない。彼らには意志などないのだ。あるのは怨望や欲望への忠誠心だけなのである。だが、我々にあの太陽の旗が国旗として、軍旗としてあるのは我々が一国の国として、多様にある国と共生していく意志の表れであることを我々は心に刻まねばならない!」

三島は熱くそのことを語った。私は国旗の意味を良く考えはしないが、三島の話は在り方を語っていた。

三島は少し間をおき、それから、誠実に語った。

「最後に覚えていて欲しい。我々は今や自分の意志で自らの目標を定めることが出来るようになった。それは我々が道標のない荒漠たる荒野に立たされているとも言える。しかし、君は一人ではない。君には家族がおり、先祖がおり、国がある。君には祖先から継承された歴史がある。君がどこかに恥じ入る道理は何処にもないし、誰かに非難されたからと言って卑屈になる道理もない。また、野蛮な国のようにどこかを悪意を持って害することもなければ、欲望や怨望に取り憑かれた亡者の悪意に屈するほど君は軽い存在ではないのだ。君は君が受け継いだ誇るべきものと君が持つ理性と良心に基づいて、祖先に敬意を払い、家族を愛し、故郷を大切にし、祖国に親しみを持って欲しい。そして、それを当たり前のものとして欲しい。どこにでもあるごくごく平凡なものとして、ね。君が君の意志で君の行く道を決め、君の意志でそれを歩むならば、君が受け継いだものは君と常に共にある。君は荒野の中にあって、一人にはならないのだ。それは大きな力となり、君に何事かを成し遂げる力を与える。それを忘れないで欲しい。僕は、僕の意志で僕の進む道を行った。そのことに後悔はない。僕は僕の意志で何事かを成したのだから。」

三島はそう言って、桜並木を歩いて行った。堂々とした姿勢で悠然と行った。その背中には後悔などはなかった。

私はそれをただ遠くから見ていることしか出来なかった。

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