第1話:カウンターに来て下さい
注意:そんなに対したこと無いですが、一応流血します。
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございます」注:繰り返し
毎日愛想笑い振りまいて、喉が枯れるまで声出して、俺何やってんだろう?
全国色々な場所で見かける某コンビニ。
その中の一つ、俺は安い時給で必死に働いていた。
夕方6時から、夜11時までの5時間。がんもどきのように膨れたオーナーか、能面でのっぺりとした顔立ちの女性アルバイト北川さん。
そのどちらかと一緒に仕事をする。
オーナーと仕事をするよりは、北川さんと仕事をする方が楽しかった。
今日は北川さんとで、二人で話をしたりしながら仕事をしていた。
「あのお客さん絶対カツラだよ。何か浮いてるもん」
「ありゃ駄目ですね。タケコプター付けたら、カツラだけ先行っちゃいますね」
そんな下らない話をしていると、ごみを片付ける時間になったので、取り掛かることにした。
いつものように北川さんにレジを頼み、裏にあるごみから順に片付ける作業にはいった。
店内の客が少なくなったときを狙って、裏のごみを取りに行った。
裏には監視カメラの映像がモニター画面に映し出されていた。
4分割された画面は、レジ上の2台と、レジとは反対側の隅に1台ずつ、計4台あり、音声も録音していた。
机の上にはそれの他に、パソコンが置いてあり、オーナーはパソコンで仕事をする方が多かった。
「カウンターに来て下さい」
女性のデジタルな声が耳に響いた。
モニターの監視カメラの映像を見ると、北川さんが監視カメラに向かって手を振っていた。
レジに付いているタッチパネル式の画面には、商品が映し出される他にはたくさんの機能が付いている。
その中の
「呼び出し」ボタンを押すと、裏にいる店員に今のような声が届けられる。
「レジが混雑したり、分からないことがあったら、このボタンを押して読んでくれていいから」入った頃そう言われたのを覚えている。
燃えるごみ、燃えないごみの二つをごみ箱から袋ごと取り外し、新しい袋に付け替えた。
「カウンターに来て下さい」
モニターに目をやると客はおらず、北川さんも普通に立っていた。
分からないことでもあるのかな?そう思いごみの袋を両手に持ち立ち上がると、また声が聞こえた。
「カウンターに来て下さい」
どうしたんだろう?モニターを見ると北川さんは外を見つめたまま呼び出しボタンを押していた。
そのうちボタンを押す指はだんだん早くなり、声も狂ったように叫び出した。
「カウンターに来て下さい」
「カウンターに来て下さい」
「カウンターに来て下さい」
「カウンターに来て下さい」
「カウンターに来て下さい」
「カウンターに来て下さい」
「カウンターに来て下さい」
ピンポーンと客が店に入った音と共に北川さんが動き出した。
レジから少しずつ後退りはじめ、何かに怯えているように見えた。
後ろに後ろにと下がっていく北川さんは監視カメラに写らなくなった。
そして…。
「きゃああぁぁあぁ!!」
モニターからと実際に聞こえる声が二重になり俺の鼓膜に響いた。
何が起こったのか考えたくなかった。
胸が苦しくなり呼吸が早くなるのが分かった。
うまく唾も飲み込めなくて、口の端からだらだらと零していた。
寒くないのに体が震える。怖くて堪らない。穴という穴から水分。
汗、涙、鼻水、涎が一斉に。拭うに拭えない。
「カウンターに来て下さい」
誰かが押している。
俺がいることを知っている。怖くてモニターは見れなかった。
「カウンターに来て下さい」
また呼び出された。
恐る恐るモニターに目をやると、レジ周りが血で赤く染まっているのが分かる。
ギィッと裏のドアが開いた。突然の出来事に俺は近くのデッキブラシを手に取った。