2.地団駄踏男の解放
「仕方ない」と決め込むのはまだ早い。
地団駄踏男は目が覚めると、牢獄に居た。
「確か俺……死んだよな」
トイレの爆発に巻き込まれて、何者かに爆殺されたのだ。肉片が飛び散り、引き裂かれる様な痛みが全身を襲ったので、鮮明に覚えている。
「そうか」
踏男は気づいてしまった。自分が世紀の大発見をした事を……。
「あの世か」
天国か地獄は分からない。ただ、自分はあの世にいるのだと悟った。現世でこの体験を本に書けば、大ベストセラー作家として大儲け出来るだろうと踏男は思った。
ただ、目の前の鉄格子を見る限り、天国では無いという事が容易に想像が出来る。
「そうだよなー」
現世で散々法律を違反したのだ。地獄に来て当然だと思う踏男であった。
その時だった。看守が鉄格子の鍵を開けて、牢屋の中に入って来たのだ。
「やっとお前も出所か」
「へ?」
「20年間も拷問に耐えたのはお前だけだよ」
「社会という名の拷問でありますか?」
「何を言っとるのだ。さっさと外に出ろ」
手錠を外され、訳が分からないまま牢屋から放り出された踏男。
「もう殺人なんかするなよ」
看守の奇妙な物言いに寒気がした踏男は、取り合えず街の散策に乗り出した。
中世ヨーロッパに近い街並であるが、それにしては文化が発達しすぎている。
そして、魔法使いとおぼしき人物が至る所にいた。彼らは、フードを深く被り、背丈ほどのある杖を持って移動している。
今風に例えると『いかにも系魔法使い』だ。
「ファンタジーだな」
どうやら自分は魔法の世界に迷い込んだらしい。そう思った踏男は、宿屋を探した。ファンタジーには宿屋が付き物だと言う事は、無知の踏男でも分かるのだ。
しばらく歩いていると、『宿屋ザンドール』という看板を発見。踏男は木製のドアを開けて、宿屋の中に入って行った。
「いらっしゃい」
踏男は、厳ついゲルマン系の髭親父に声をかけられた。
「あのー」
おそるおそる口を開いた踏男。
「どうかしたかい?」
「つかぬことをお聞きしますが、ここは何処ですか?」
「宿屋だよ」
「そうじゃなくて……この街は?」
「あんた頭でも打ったのかい?」
「はい。そんな感じです」
「じゃあ、教えてやるよ。ここはゼフィランサスという街だ」
ゼフィランサス。少なくとも、踏男には聞き覚えの無い街だった。
「………………」
「用件はそれだけかい?」
「はい、ありがとうございました」
踏男は店を後にした。
名前も知らない街で不安になる一方、全てから解放されて第2の人生を歩む充実感もある踏男であった。