1.地団駄踏男の絶望
地団駄踏男・四十二歳はどこにでもいる普通のサラーリマンだ。
営業成績がズバ抜けて良いという訳でもなく、社内のOLにモテる訳でもない。ゆういつの楽しみは、帰りに買って食べるコンビニ弁当。
そんな冴えない親父は、この度リストラされた。
理由はズバリ不況である。
不条理な社会の荒波に飲み込まれたのだ。
踏男は、サラーリマン生活二十二年目にして、苦境に立たされた。
そんな踏男は、初めて大好きだったコンビニ弁当に箸をつけずに寝てしまった。
翌日、目が覚めた踏男はハローワークに来ていた。パソコンで求人情報を探すものの、資格を何一つ持っていない踏男にとっては、ただの苦行であり、目が疲れるだけだった。
「はぁ……」
溜め息ばかりが漏れる。こんな事なら、もっと頑張って営業ノルマを達成していれば良かったと後悔していた踏男。
そんな踏男に待っていたのは、またしても残酷な現実であった。
求人が回ってこないのである。
この時期は丁度、高校生や大学生の就職活動時期と重なり、企業が若い人を優先して採用しているのだ。
無論、四十代の親父を相手にする企業など無かった。
専門職とならば話は別だが、踏男が勤めていた会社は、営業中心の弱小企業。
消しゴムや鉛筆を売っていた親父が、難関大学、資格お化けの若者に勝てる訳がない。
一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月、と時間だけが過ぎていく……。
月日は流れて、八月十四日。
遂に金が底を尽きた。元々、月の給料は酒とパチンコに消えて、貯金など無いも同然だった。
そんな踏男が、今までどうやって過ごしてきたのかというと、名前を売ったのだ。
暴力団関係者に名前を売って、生きていくだけの金を手に入れた。勿論これは違法である。
いつ警察が玄関のドアが叩いてくるか分からない状態になってしまった。
こうなった以上、踏男の精神が崩壊していくのも時間の問題だった。
「死のう」
思い立ったら即行動。踏男のただ一つの長所だ。
全財産の1000円をインターネットカフェに注ぎ込み、簡単に死ねる方法を探した。
「お!」
踏男の目に止まったのは電車だ。電車なら、後遺症も痛みも無く、一瞬で死ねると記述されている。
これなら安心だと思った踏男は、駅に向かった。
しかし、ここで予想だにしない事態に陥る。
切符を買う金が無いのだ。
入りたくても入れない改札口を見つめて、うなだれる踏男。
こうなると、手段は一つしかない。
「借金か」
その前に、尿意が襲ってきたので、トイレに駆け込んだ。
「ふぅ……」
ここで踏男は、小便を神の水だと偽り、金を騙しとる手段を思いついたのだが、悩んだ末に止めた。「俺には詐欺の才能すら無いだろう」と思い、諦めたのだ。
「俺はもう死ぬんだ」
尿を出し終わり、手洗い場に向かった。
その時だ。
突如、トイレが爆発したのだ。
地団駄踏男は奇しくも、その爆発で絶命した。
しかし、踏切は死ぬ寸前に思う。
「痛みを感じずに死にたかった」と。
この日の事件は全国ニュースで話題になった。
『男子トイレが爆発し、男性一人が死亡』