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気付くと人気のない公園に着いていました。
彼女は何も言わず、僕と一緒に佇んでいました。
「…ごめん」
僕は正気に戻り、一言謝って公園のブランコに座りました。
「…うん。いいよ」
そう言って、彼女は僕の隣のブランコに座りました。しばらくどちらも、何も喋ることなく、沈黙が続きました。僕はその間、自分を追い詰めるようなことばかり考えていました。
篤はなんと言って、あの人に別れを告げたのだろう。まさか僕が言ったとおり、玩具だと、飽きたから捨てるのだと、そこまではっきり言っていないにしても、そのようなことをあの人に言ったのではないかと思うと、怖ろしくて仕方ありませんでした。
「怖いね」
その時、ドキリとしました。彼女がそう言ったのです。
「何…が?」
心を読まれたのかと一瞬思いましたが、そんなはずはないと僕は彼女に聞きました。
「勝手な想像だけど、たぶんフラれちゃったんだろうなぁ…と思って」
女の勘は怖ろしいです。しかし僕は知らないふりをしました。
「それがなぜ怖い?」
「すごくすごく好きだったんだよ、彼のこと。なのにフラれたの。それで彼女はあんな風になったの。居場所を奪われて、ショックを受けて…」
「もういいよ」
遠まわしに僕が責められているようでした。
「人を好きになるのは、怖いことだ…」
僕はその言葉に驚きました。それは篤であり、僕であると思いました。僕たちは怖いのです、人を好きになり、そして裏切られることが、この上なく『怖い』と感じているのです。
今篤が別れを告げたあの人に、今一度ふりがなをつけるとしたら間違いなく『勇者』です。僕は尊敬に値する人物であったと思い、いや、もしかしたらやっぱりただの『阿呆』か?などとも思いながら、心の中をさまざまな考えが駆け巡りました。
ふと、ある考えが過ぎりました。
人を好きになるのが怖いなどという人間が、なぜ、自分を恋人の位置につけたのか。
裏切られることを恐れているような人間が、なぜ、それを承諾したのか。
全く持って不可解。
その時僕は気付きました。僕はどうやら彼女のことを『愛しい』などと感じていることに。はっきりと断言は出来ませんがこの得体の知れぬ感情は、おそらくそういったものなのでしょう。
『愛しい』を知った僕は、また恐怖に襲われました。今この日陰に居る彼女は、またいつ日向に行ってしまうのかと、そしていつ帰ってくるのかと、いつ僕のことが要らなくなるのかと、急に今のこの関係が怖ろしくなってしまいました。
その日から、僕は彼女を避けるようになりました。