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fault  作者: 少年ガーリー
2/6

彼女との交際が始まりました。

僕は彼女のことを『波』と呼ぶことにしました。

しばらくすると、彼女は僕のことを『ケイくん』から『慶』と呼ぶようになっていました。


「どうですかケイくん、彼女とのキャンパスライフは」


昼飯を食べる中、篤は僕に聞いてきました。にやにやと笑っていて胸くそ悪い奴だなと思いながら眉間にしわを寄せ、とりあえず返事をしました。


「まぁ居ないよりは楽しいんじゃないの?」

「遠まわしに俺のことバカにしてんだろ」

「お前は楽しそうじゃん。モテるし」

「つまんねーよ。俺なんかに惚れる女は頭どうかしてる。話にならん」

「同感」

「ひで」


篤はモテる。僕たちは大学の門を出てから一緒に帰ったことはほとんどない。なぜなら篤は大学で過ごす時間以外は大抵女と一緒にいるからである。僕は門で待ちかまえる篤の女を何度も見たことがあるが、その顔は頻繁に変わっていた。


「今の彼女、結構長い方なんじゃないの?」

「あー、メールとかあんましてこねーし、楽なんだよ。」

「ふーん。」

「でもそろそろ飽きてきた。他から声かかってるし、次いくかな」

「まるで玩具だな」

「え?」

「お前の彼女にふりがな付けるとしたら『オモチャ』だよ。子供の頃新しい

玩具買ってもらったらしばらくそればっか持ってるくせに飽きたらまた新しいの買ってもらったりしてなかった?」

「…お前、すげーわ」

「え?」

「俺さ、特に罪悪感も感じずにこんなことやっててそれが何でかわかんなかったんだよ。でも今ようやくわかったわ、俺あいつらのこと人だと思えてねーんだわ。玩具…うわ、すっげーしっくりくる。こわ」

「…正真正銘、最低だよ。お前」

「お前は?」

「は?」

「お前の彼女のふりがなは?」

「…」

「まーわかったら、教えてくれや。今日は俺サークル行かねぇから」

「玩具で遊ぶのか?」

「いや、今日は捨てる日」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


篤は授業が終わると、すぐに女の元へ行ってしまった。僕は部室に向かいながら、篤に問われたことについてずっと頭を悩ませていた。自分の彼女のふりがなについて悩む男なんて果たしてこの世に何人居るだろうか?悩みが悩みを呼ぶ中、僕は部室にたどり着いてしまった。あの事件以来、あまり居心地がいいとは言えないがいじめに合う訳でもないので、とりあえずここに来ているのは、暇だからという理由と、就職の時に役立つのと、彼女が気負わないようにするためである。

リーダー的な存在のあの女とその取り巻き達は、今日も元気にくだらない話をしていた。その中に、彼女もいた。


「波ちゃん、来たよ」

「え?あ、うん」


小声で言ってるつもりだろうが全部聞こえてしまっていた。どうやら僕たちの関係はバレているらしく、今の今まで恋バナというやつでもしていたんだろう。


「おはよう」

「うん。おはよう」


僕はそれ以上自分から話すことはなかった。楽しそうに会話なんかしてみろ、クスクス笑いながらあいつらが無意味に喜ぶだけじゃないか。

少し沈黙の後、彼女が口を開いた。


「帰り、買い物に付きあって欲しいの」

「ん、わかった」


僕が返事をすると、彼女はみんなのところに帰っていった。その時僕の目には変なものが見えた気がした。彼女が何かを越えて向こうに行ったように見えたのだ。そこには境界が確かに合って、同じ空間にいるはずなのに、全く別の次元の世界に彼女が行ってしまったように思えたのだ。

僕はその日から自分の居る場所を日陰として、あいつらの居る場所を日向と呼ぶことにした。


「帰ろうか」

「うん」


彼女は僕に声をかけ、一緒に街を目指すことにした。


「ごめんね、やっぱり雰囲気でバレちゃったみたいで」

「だろうね。急に話すようになったらみんなそう思うよ」

「うん。あれ?お友達じゃない?」

「あ、本当だ。」


少し先の道に篤が居た。ぼーっと佇んでいて、女の姿はなかった。


「声かける?」

「かけないよ。めんどくさい」

「でもこのまま行くと会っちゃうよ?」

「小腹もすいたし、とりあえずこの喫茶店入ろう」

「りょーかい!」


その場の思いつきで逃げ込む形で入った喫茶店には、もっと逃げたくなるようなことが待ちかまえていた。

そこはゴミ捨て場だったのだ。


「わ…あの女の人すごい泣いてる…」


店内は騒然としていて、コップの割れた破片が床に飛び散っていた。店員さんが困りながら彼女を慰めていた。

泣いていたのは、篤の玩具だった。捨てられたのだ。


「ど…どうする?」


彼女が僕に聞いてきた。僕は後悔していた。何も知りたくなかったのだ。何も知らないからこそ言えたのだ。彼女のふりがなは『オモチャ』だなどと。僕も篤と同じだった。いやそれ以上にたちの悪いのは自分ではないかと、自分で自分を呪った。僕こそ篤の彼女を人間だなんて1ミリも思っておらず、あの阿呆に教えてはいけないことを教えてしまったのだ。


「慶?大丈夫?顔色悪くなって…」


僕は急に怖くなって彼女の手を持って店を出ました。篤はもう、いなくなっていました。


「慶?あの…」


僕は早歩きで人ゴミを避けるように暗い道へと歩いていきました。彼女の声が聞こえたような気がしましたが、その時の僕にそれを気にする余裕はありませんでした。

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