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fault  作者: 少年ガーリー
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今夜、僕はフラれるかもしれません。


彼女から連絡がありました。最近あまり…会えていませんでした。

お互い仕事で忙しく、休みもあまり合わなかったので、ついに愛想をつかされたのかもしれません。明日も仕事であるにも関わらず、今日僕は呼び出しをくらいました。何にせよ、重大な話をされることに違いはないでしょう。

僕は仕事を終え、車で待ち合わせ場所に向かいました。

その道中、妙に冷静で落ち着いた気持ちになってしまい、死でも近い者のように彼女と出会った頃のことを走馬灯のように思い出していました。いえ、ある意味僕はこれから死ぬのかもしれない。だからおかしいことではないのかもしれません。きちんと整理して彼女に会いたいのです。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


彼女との出会いは大学のサークルでした。彼女と僕は共に天文サークルに入っており、その日は星を見に行くという企画に参加するかしないかで、この企画を任された彼女はサークルの人間に参加不参加を聞いていくというめんどうな作業をしていました。


「星見るのはいいけどなぁ…団体行動ダルくね?」

「うん」


共にこのサークルに入った友人の篤がそう言いました。僕もそう思っていたので、その時はそれに賛成しました。

彼女は決して明るくてリーダー的な存在、というわけではなかったけれど、誰とでも話が出来て仕事もそつなくこなす。といったようなイメージでした。飛び抜けて容姿がキレイな訳ではなく、かといって不細工でもなく、親しみのある可愛さを持っている、そんな地味めの子でした。

そんな彼女はもちろん僕よりは社交的で、彼女とは話せないでもないが自分とは違う人間、そう感じていました。

ですがその日、僕は彼女と少しだけ距離を縮めたのです。


「吉川けいじくん!」


彼女が少し大きな声で僕の名前を呼びました。その瞬間、みんな1度静かになった後、笑い出したのです。彼女はびっくりしてみんなを見回していました。


「え?え?何??」

「波ちゃーん、天然出たねー。」

「え?」

「吉川君の下の名前よしはるだよー?みんなよっしーとかよしよしって呼んでるじゃん。」

「え!?私てっきり名字から取ってるのかと…」


全員笑っていた。彼女も笑っていた。たった1人、僕だけが笑っていなかった。僕はその時、何故か空気を読まなかった。


「間違ってない。」

「え?」


数人の者がそう言って俺の方を見た。


「僕の名前は、『吉川慶治(ヨシカワケイジ)』だから間違ってないよ、月野さん。」


僕がそう言うと、サークルの中でリーダー的な存在の女がツッコんできた。


「ちょっと待って、よっしー最初あだ名決める時何にも言ってなかったじゃん!」 

「うん。なんでもよかったから。」

「はー?」


本当は『どうでもよかった』んだが、それはさすがに酷過ぎると思って『なんでもよかった』に変えて発言した。が、それもこの女にはお気にめさなかったようだった。

だが気分を害する程度で済んだようで、女が教室を後にすると他のみんなも何となく帰っていった。我ながらめんどくさいことをしてしまったと少し後悔した。

そんな中、友人の篤と月野さんだけがその場に残っていた。


「お前キャラ変わった?」


篤が沈黙を破った。


「…お前も悪いんだぞ?僕の名前呼ぶくせにサークルの時だけ呼ばないでやんの」

「よっしー気に入ってんのかと思って」

「気に入るかよバーカ」


篤は友達だが、心を許せる友人というわけではない。それは篤も一緒で、都合のいい友達同士だとお互いわかっている、そんな腐った関係がとても楽でよかったのだ。


「なんかごめんね…えっと…」


気まずそうに月野さんは口を開いた。しかし自分が喋る言葉を最後まで考えていなかったのだろう、言葉を詰まらせてしまった。それを面白いと思ったのか、篤は教室の出口に向かいながら僕に言った。


「じゃあな、ケイ。あ、月野さん、俺それ不参加でよろしく」

「あ、はい…。」


そう言って、篤は先に帰ってしまった。遠まわしに『コイツはケイって呼べばいいんだぞ』と言わんばかりにはっきり発音して帰りやがったのです。


「ケイくん…て、呼べばいいのかな?」

「あ…うん。(しっかり誘導されてるな)」

「すごいね」

「え?」

「あんなに空気読めない人久しぶりに見た!」

「…ははは、誰のせいだか」

「あ…ごめんなさい…」

「嘘々。結構うっとうしいと思ってたからさ、助かったよ。」

「ほんと?…じゃあさ、星を見る会参加してくれる?」

「(じゃあってなんだよ何も繋がってねぇだろ)…なんで?」

「…なんでも。」

「…べつにいいけど。」

「やった!ありがとう!!じゃあ今週の土曜日ね!」


そういって彼女は参加者リストを顧問の先生に届けに行ってしまった。

僕はなぜ断ることが出来なかったのか、その後考えたが彼女の顔が浮かんで思考が停止した。なぜ思考が停止したのかもわからないまま、僕はその日を迎えてしまった。

こういうイベントに参加する奴というのは決まって元気で明るい奴、あるいはそれになりきれてない微妙な立居地の奴が来るように出来ていると僕は思っていて、僕のような人間は絶対行かないものなのだ。

しかし、今回はなぜかサボることなくちゃんと来ている自分がいた。月野さん以外の人間は、嫌な目で僕を見ていた。早速帰りたくなった。


「ケイくん、来てくれてありがとね。」

「はぁ…」

「気まずいと思うから私と歩こうね」

「そりゃあどうも…(じゃあ呼ぶなって…)」


みんなそれぞれ気の合う者同士で歩き、星の見える丘を目指した。

僕は女性が苦手というわけではなかったが、何を話していいかはよくわからなかったので、あまり積極的に話すことはしなかった。彼女もあまり会話が得意なわけでもないようだった。当たり障りのない会話をちょこちょこする程度で沈黙の方が断然多かったように思えた。


「もうそろそろ着くね」

「うん」


彼女の言葉にうなずき、僕はその後何も喋ることなくひたすら歩いた。彼女も何も喋らなかった。だが、目的地にたどり着いて立ち止まった僕たちは、なぜかいきなり会話が弾んだ。星がキレイだったからではない、彼女が僕が話したくなるような会話を始めたからだ。


「みんな星をキレイだと思ってるんだね。」

「え?」

「きっと…ただそれだけなんだね」

「何?どういうこと?」

「『星がキレイ!』『ほんとだ!すごいね!』そうやって素直に感動するの。ただ、それだけ。」

「…月野さんは?そうじゃないの?僕は少なくとも、月野さんもそういう人だと思ってるけど…」


僕はそう言いながらふと彼女の顔を見ると、そこには涙を流す彼女の姿があった。

彼女はこう言った。


「私は…悲しい。なんだかとっても、切なくなるの、みんなみたいになりたいのに、なれない」

「…少しだけ、僕と似てるね。僕も切ない気持ちによくなるんだ。けど…アイツらみたいになりたいとは

思わないよ。なんか、バカみたいだからね。」

「…私のことも、バカだと思う?」

「少し…ね、でも、嫌いじゃない」

「…なんで?」

「…僕のこと、見つけてくれたから…」


その時、ずっと思考が止まっていた問題の答えが、いきなり自分の口から出てきたのです。

僕は嬉しかったのです。あの時、ただ、名前を呼んでくれたそれだけのことが、とてつもなく嬉しかったのです。だから彼女を突き放すことが出来なかったのだと、この時ようやくわかりました。


「…思った。」

「え?」

「私も思ったよ。『見つけた』って…」


その言葉を聞いた時、僕は意味がわからないはずなのに、また嬉しくて泣きそうになりました。

僕が黙っていると、彼女は僕に言いました。


「ケイくん、私と付き合って」


僕はびっくりしたけど、迷いはなく、割とすぐ返事を返しました。


「わかった…」


これが、僕たちの始まりでした。



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