翔の友達 ?
翔が授業を受けている間、ボクは学校探索に出かけていた。学校って面白い! こんなに楽しい所なら、毎日通っても良いと思う。
授業中の静かな教室にこっそり入ると、流石に先生に怒られて追い出されるけど、休み時間になると、生徒達は興味津々でボクに近寄って来る。女子生徒達は、『かわい〜!』って、ボクの頭を撫で撫でしてくれるんだ。ボクってモテるよねぇ。ボクは、ちょっとだけいい気になって、喉をゴロゴロさせ、女の子達にすり寄って甘えた。
昼休みのお弁当の時間には、みんなからおすそ分けして貰って、ボクのお腹はすぐにいっぱいになった。女の子達に撫で撫でされる時より、幸せ気分! 満腹になった後は、眠くなって校庭の木陰でお昼寝タイム。そよそよ吹く風が気持ちよくて、ボクはしばらくぐっすり眠っていたよ。
気持ち良かった。猫に生まれて、ほんと良かったなぁ。
夕方、翔が校舎から出てくるまで、ボクは校庭をのんびりと散歩していた。
帰りも、翔は大輝と一緒だった。大輝は自転車を押しながら、翔と並んで歩いて行く。ボクは二人の方へ駆けて行くと、勢いよくジャンプして自転車の前籠に飛び乗った。
「わっ、フランソワだ。今までどこ行ってたの?」
のんびりと学校見物にね。ボクはそう言うつもりで、大輝に向かってミャ〜と鳴いた。
「いいなぁ、フランソワは自由で。僕も猫になりたいや」
猫はいいよ、気ままで。校庭十周が堪えたみたいで、翔はどことなく疲れていた。
「なんだその猫、ずっと学校にいたのか?」
ボク達が歩いていると、後から隆輔の声がした。
「先輩、今日はよく会いますね」
「これから『香田芸能』に行かなきゃなんないからな。今日は学校から直行さ」
『香田芸能』? 隆輔がモデルのバイトしてる芸能事務所かな?
「僕も直行です。先輩も自転車に乗って行きますか?」
「は? やだよ。モデルの俺が自転車通勤なんか出来るか」
「でも、電車で行く方が遠回りになっちゃいますよ」
「いいんだよ。俺はいつも電車通学なんだからな」
隆輔の家も朝日ヶ丘商店街なら、確かに遠回りだね。駅に行く間に、家に着きそうな気もするんだけど……。
「あ、フランソワ、大ちゃんは『香田芸能』で事務のバイトやってるんだ。香田芸能は大ちゃんの伯父さんが経営してるんだ」
翔はボクを見て言う。
「いちいち猫に説明すんな」
隆輔は白い目で翔を見る。
「や、でも先輩。フランソワは、人間の言葉が解る猫ですから。ちゃんと説明しといた方が良いかもしれませんよ」
「解る訳ねぇだろ! フランソワって……こいつはフランス人か?」
それを言うなら、フランス猫。でも、ボクは日本猫だけどね。
「フランス旅行帰りのおばあちゃんが名付けたんだよ」
翔がボクの代わりに答える。隆輔は軽くため息をつくと、翔と大輝に手を振った。
「じゃぁな」
校門を出たところで、隆輔はボク達と別れ、駅の方へと向かって行った。
「絶対、自転車飛ばす方が早いんだけどね」
モデル気取りで颯爽と歩いて行く隆輔の背中を見ながら、大輝は呟いた。
「翔ちゃんも事務所寄って帰る?」
隆輔が角を曲がって姿を消すと、大輝は翔に聞いた。
「う〜ん、『香田芸能』や『モダン食堂』や『美容室みるく』もフランソワに紹介したいけど、今日は母さんに店番頼まれてるんだ」
そう言うと、翔は籠の中のボクに目をやる。
「フランソワはどうする? 大ちゃんと一緒に行ってみるか?」
どうしようかなぁ? 『食堂』という響きに魅力を感じるし、『みるく』っていうのも美味しそうだなぁ。ボクはしばらく考える。
でも、今日は学校でいっぱい御馳走にありつけたし、まだお腹空いてないんだよね。ボクは自転車の前籠に前足をかけて、どうしようかと迷った末、ピョンと弾みをつけて籠から飛び降りた。『香田芸能』はまたの機会に行くとしよう。
「お前も家に帰るのか?」
翔の足元に寄って行ったボクに、翔が聞いた。そうするよ、という代わりに、ボクはミャーと鳴いて返事する。その様子を大輝はジッと見つめていた。
「やっぱ、スゴイよ翔ちゃん、フランソワは、人間の言葉ちゃんと解ってる」
「フランソワの言葉も解れば便利だよな。オウムみたいに猫も喋らないかなぁ?」
「確かに便利かも。でも、ちょっと恐い気もする……」
まあね、猫って頭良いから、喋る猫が現れたら人間を支配しちゃうかもね。心の中でクククと笑いながら、ボクは大輝を見つめ返した。
「それじゃ」
大輝は、少し慌てて自転車のペダルを踏む。ボクの目、ちょっと恐かったかな? なにしろ、隆輔の怖がる黒猫ですから。先に帰って行く大輝の後を、ボクと翔もゆっくりと歩いていく。心配しなくても、今のとこボクは、気ままな飼い猫で生きてくつもりだよ。翔の家族や友達も気に入ったし、朝日ヶ丘商店街や学校も楽しそうだ。
家までの道のり、翔は商店街のご近所さんについて、丁寧にボクに説明してくれた。このクリーニング屋さんは──とか、ここの魚屋さんは──とか。一軒一軒お店の名前と働いてる人の名前まで教えてくれた。もちろんボクは翔の言うこと分かるんだけど、すれ違っていく行く人達は、翔のこと変な目で見ていたよ。
翔は全然気にしてないみたいだったけど、『猫に話し掛ける少年』って、朝日ヶ丘商店街では、有名になっちゃうかもね。そしたらボクは、人間の言葉が解る猫って有名になれるね!




