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翔の友達 ?

 自転車置き場から歩いていく翔と大輝。ボクは二人の後をついていく。もうとっくに始業のベルは鳴り終わっているから、他に生徒達の姿はなかった。

 いいのかなぁ? こんなにのんびりと……。ゆっくり歩いていく二人の姿を見ながら、ボクは少しだけ心配する。

「あっ、隆輔先輩!」

 正面玄関から入ろうとした時、大輝が立ち止まった。大輝の視線の先に、一人の男子生徒の姿があった。ひょろりと背の高いその生徒は、チラリとこちらに目を向けると、悠々と歩いてくる。

「おはようございます! 先輩、もう授業始まってますよ。いいんすか?」

 大輝は、自分たちのことは棚に上げて、彼に言う。

「ばっか、俺はモデルだぜ。芸能人。俺の遅刻は先生公認の遅刻さ」

 隆輔という少年は、翔と大輝を馬鹿にしたような顔で見ながら、顔に垂れた長い前髪を片手でかき上げる。モデルって芸能人なの?

「特別に俺だけ『茶髪』を認めてくれりゃいいんだけどな。毎朝、スプレーで黒く染めるの時間かかんだよ」

「はぁ、隆先輩もなかなか大変だね。そう言えば、この前の『朝日ヶ丘商店街の広告』にパジャマ着て載ってたよね。あの写真は髪が薄茶色だったな」

 翔は隆輔の真っ黒な髪を見ながら言った。

「あの写真は気に入らねぇ。なんで俺がスーパーで売ってるような安物のパジャマなんか着なきゃいけねぇんだ」

「でも、よく似合ってたよ」

 翔は屈託のない笑顔を隆輔に向ける。大輝の先輩ってことは、翔にとっても先輩のはずだけど、翔は彼にタメ口だ。

「翔ちゃん、フランソワに隆輔先輩を紹介しなくていいの?」

 足元で隆輔を見上げていたボクを見て、大輝が尋ねた。

「フランソワ? なんだそれ?」

「翔ちゃんの猫ですよ。ほら、先輩の足元にいる」

「は?……」

 視線を落とした隆輔の足を、ボクは挨拶代わりに片手でチョンチョンと叩く。

「ゲッ、黒猫……」

 招き猫みたいに片手あげて、瞳をうるうるさせて隆輔を見上げたんだけど、彼はもろに嫌な顔をした。隆輔は猫嫌い? ボクのブリっ子が通用しなかった。

「フランソワ、彼は一年先輩の海棠隆輔君だよ。僕や大ちゃんと同じく朝日ヶ丘商店街に住んでいるんだ。僕ら三人、幼稚園時代からの幼なじみってわけ。家はコロッケ屋さんやってて、隆輔先輩は朝日ヶ丘商店街にある芸能事務所でモデルのバイトやってるんだ」

「なんで猫に自己紹介なんか……」

 隆輔は、軽く足を振ってボクの手を払い、怪訝な顔で翔を見る。

「なんでも、人間の言葉が分かる猫らしいっすよ」

 大輝が真顔で答えた。

「馬鹿みてぇ……」

 いや、隆輔君。それが本当に分かっちゃうんだよね。ボクはもう一度隆輔の前に走り寄る。

「わっ! 黒猫が横切った! 朝から黒猫が横切るなんて縁起わりぃ」

 そう言うと、隆輔はボクを避けるようにしながら、足早に玄関に歩いて行く。

「隆輔先輩って案外恐がりなんだな。迷信を信じるなんて」

 学校に入って行く隆輔の後ろ姿を見ながら、翔は笑った。

「おっと……翔ちゃん、僕らもソロソロ教室に入った方が良いよ。さすがの大河原先生も来る頃だ」

 腕時計に目をやり、大輝が言った。

「そうだね」

 翔は大きく伸びをする。

「朝から生物なんて嫌だな」

 二人がようやく教室に向かおうと歩き出した時、体操服を着た男子生徒達が、校庭の方へ駆け出してきた。生徒達の後からピピーと笛を吹きながら先生が駆けてくる。

 体育の授業のようだね。

「……あれ? 松平先生だ。あれって僕らのクラスじゃ……」

 何気なく校庭に目を向けた大輝は、立ち止まって彼らを凝視する。

「本当だ……」

 翔も体操着姿の生徒達を見つめる。

「あ、生物って二時間目だったよ。一時間目は体育だった……」

「え?……」

 と、目を丸くして顔を見合わせる二人の姿に、体育の先生が気付いたみたい。

「香田! 榎本!」

 先生の大声がグランドから響く。 

「やばっ、よりによって担任の授業に遅刻なんて!」

 大輝の顔は蒼白になる。二人は大慌てで教室に向かってダッシュする。ボクも一緒に学校の中に入って走って行った。

「後で校庭十周して来い!」

 学校の廊下を走るボク達の後から、松平先生の良く通る声が追いかけてくる。

「松平先生冗談きつい……」

 いや、冗談じゃなくて真剣に怒ってたよ。翔は廊下を全力で走るだけで息が上がってる。

 時間割の確認はちゃんとしなくちゃね。少しだけ二人の事を気の毒に思いつつ、自業自得かもね、と思うボクだった。  





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