翔の友達 ?
「行って来ま〜す!」
八時二十分。翔はお店の方に声をかけて、横の勝手口から家を出る。お姉ちゃんの茉莉子さんも妹の桃ちゃんも、もうとっくに出かけていた。
──翔はのんびりしてるなぁ……学校、間に合うんだろうか?
ボク、黒猫のフランソワは、ちょっと心配になる。翔のおばあちゃん、京子さんに名付けて貰った名前、フランソワ……。このお洒落な名前に、ボクはまだ馴染んでいない。もし、ボクがフランスに住んでいるのなら、ピッタリくると思うんだ。パリのセーヌ川のほとりをお散歩するような黒猫ならね。でも、ここは日本の東京、人情味溢れる下町の商店街。ちょっと名前が浮いているかも。
ま、そのうち馴染んでくるかな? そんなことを考えながら、ボクは翔の後について、勝手口を出ていく。
「あれ? お前も学校行くのか?」
朝日ヶ丘商店街の通りを歩きながら、翔はようやくボクの姿に気が付いた。『帰れ』って言われるのかと思ったけど、翔はボクをチラリと見ただけで、そのまま先を歩いていく。じゃ、ついて行っちゃうよ。『猫侵入禁止』の学校じゃないなら、大丈夫だよね。
翔が急いでいる風もなく、いつもののんびりペースで歩いていると、後からリンリン! と大きなベルの音がして、キキキーッ! とタイヤの軋む音が聞こえた。誰? ボクをひかないでおくれよ。ボクは後を振り向く。
「翔ちゃん! 乗ってけよ。後五分で学校始まるよ」
ボクの頭上から元気な声が響く。そこには、翔と同じ制服を着た少年が、自転車に乗っていた。
「もうそんな時間?」
焦る風でもなく、翔は腕時計に目をやる。
「チャリを飛ばせば三分で行けるけど、歩きなら間に合わないだろうね」
「そうかな?」
「いいから、早く、早く」
男の子にせかされて、翔は彼の乗る自転車の後に腰をかけた。それと同時に、少年は勢いよく自転車を漕ぎ出す。
「あっ、待って、フランソワがいた」
「フランソワ!?」
少年は急ブレーキをかけ、前につんのめりそうになる。
「誰だ、それ?」
彼は、キョロキョロと辺りを見回す。ボクです! 榎本フランソワです。ボクはミャーミャー鳴きながら、少年に呼びかける。翔が、ボクのことを忘れないでくれていたことが嬉しい。
「もしかして、この猫のこと?……」
少年はやっとボクに気付き、不思議そうな顔で、じっとボクの顔を見つめる。
「そうだよ。僕んちの猫になったんだ」
「へぇ……フランソワねぇ」
ボクは勢いをつけ、自転車の前籠に飛び乗った。
「わっ、何? この猫も学校連れて行くのか?」
「うん、なんか行きたそうだったから」
「はぁ……」
翔ののんびりペースに引き込まれそうになった少年は、我に返って腕時計を見る。
「やば! 後一分しかないや! 超特急で行くからな、落ちないよう気を付けて」
そう言うが早いか、少年は猛スピードで自転車を漕ぎ出した。ビュンビュンと風を切って自転車を走らせる。ボクは必死で籠に爪を立てしがみついた。何か恐いけど、スリルがあって気持ちいいね!
キーンコーンカーン、自転車置き場に到着すると同時に、始業のベルが聞こえてきた。少年のお陰でギリギリセーフってとこかな? 彼は素早く自転車を飛び降りて、自転車を立てかける。ボクも籠からジャンプして、地面に着地した。
「あ、紹介するの忘れてた」
少年が急いで教室に走って行こうとした時、ふと翔が言う。彼は立ち止まって振り返る。
「何?」
翔は少年じゃなくて、ボクの方を見下ろしていた。
「フランソワ、彼は僕の幼なじみで同級生の香田大輝君だよ」
「……」
猫のボクに話し掛けてる翔を見て、大輝は目を丸くする。
「翔ちゃん、その猫、言葉通じるの?……」
「さぁ、人間の言葉は話せないけどね。言ってる事は分かるような気がする」
「へぇ〜……って、今はそれどこじゃないよ!」
またもや翔のペースにはまりそうになった大輝は、慌ててダッシュする。
「あ、大ちゃん、慌てなくて大丈夫だよ。一時間目生物だから、大河原先生、いつも教室に来るの遅いし」
「えっ? 生物? そうだったっけ?」
翔の言葉に、大輝はピタッと立ち止まった。なんだ、翔も何も考えてないようで考えてるんだ。……でも、遅刻は遅刻だよね。急いだ方が良いんじゃないかい? とボクは心配する。
「なら、いいか、ゆっくりで」
少し疑問を抱きながらも、大輝は翔の言うことに納得したみたい。
「香田大輝です。宜しく!」
大輝は、人間の言葉が分かる猫だっていう翔の言葉を信じ、ボクの方にかがんで元気に挨拶した。それは、当たってるよ。大輝君、なかなか言い奴だね。翔とはタイプが違うようで、似ているのかも?
ボクは出来るだけ笑顔になるよう努力しながら、『宜しく』という代わりにミャ〜と愛想良く鳴いた。
久しぶりに香田大輝君に会えて、なんだか嬉しかったです。(^^)ただ今執筆休止中ですが、楓 詩絵莉の「☆アイドル☆」に大輝は登場しています。次回、隆輔も登場予定です。




