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昭和の終わりの通学路 — 僕たちの小さな大冒険

作者: 北風 頑太
掲載日:2026/07/26

昭和が終わろうとしていた頃、私の通う小学校がある地方都市は、ゆっくりと住宅化が進んでいた。新しく建ち並ぶ住宅と、昔から残る田んぼの土の匂いがグラデーションのように混ざり合っていた時代だ。


朝の登校は、近所の子供たちが男女別に集まっての集団登校だった。一年生から六年生までが整然と並び、上級生が班長となって歩く。横断旗を持った地域の大人の目に見守られながら整然と学校を目指す時間は、どこか少し緊張感の漂う「公」の時間だった。


しかし、放課後は一転して完全な自由の世界だった。親しい友達と並んで帰る下校路は、日々の小さな冒険の舞台だ。


その最大の目的地であり相棒だったのが、通学路の傍らを流れる用水路、通称「ドブ川」である。当時はすでに下水道の整備が進み、かつてのような濁りや臭いは消えていた。田んぼへの用水や雨水がサラサラと流れる澄んだ水路だったが、私たちは親しみを込めて、やっぱりそれを「ドブ川」と呼び続けていた。


小学三年生くらいになると、このドブ川は男子にとって最高の挑戦場となった。助走をつければギリギリ飛び越えられるかどうかという絶妙な川幅。跳び越えられるか否かは度胸と成長のバロメーターで、放課後になると「いけるか?」「跳んでみろよ!」と、競うように助走をつけてジャンプした。無事に渡りきれば誇らしく、失敗して足をドボッと滑らせれば、靴の中に水を入れたまま苦笑いする。四年生、五年生と高学年になるにつれ、助走なしでもひょいと跳び越えられるようになり、自分の成長とともに川の幅が小さくなっていくのが、少し誇らしくも寂しかった。


水面をのぞき込めば、ザリガニやオタマジャクシ、メダカなどの小魚が影を落として泳いでいた。落ち葉や笹の葉を流して誰の葉っぱが一番遠くまで行くか競い合う「葉っぱレース」も定番だった。水草やコンクリートの出っ張りに引っかかるたびに、道端の枝切れで突きつつ、どこまでも追いかけた。


時には川に沿ってどこまでもさかのぼったり下ったりして、見たこともないほど遠くまで寄り道をした。下りつづけた先で、ドブ川が大きな本流の川へと合流する場所にたどり着いたときの、あの冒険家のような達成感と少しの恐怖は今でも忘れられない。気づけば夕空がオレンジ色から群青色へと変わり、カラスの鳴き声と夕焼け小焼けのチャイムに背中を押されるようにして、慌てて家に走り帰るのだった。


下校の道連れも気まぐれだった。いつもは家が近い友達と帰るのに、たまにはまったく方向の違う友達についていくこともあった。かなり遠回りをして友達の家まで送り届け、そこから見たこともない路地を通って自宅へ急ぐ。ある日は真反対の方向の友達と一緒に帰り、彼と別れたあと、また学校の前を通って自分の家に帰るという笑えないコントのようなこともした。もはや寄り道というより、ただ友達の帰宅に付き添っただけなのだが、当時は「ただ友達と話しながら歩く」というその時間だけで十分に満たされていた。


一人で帰る日も、特別なゲームが待っていた。私はある日、学校から自宅までの「最短歩数」を割り出すプロジェクトを思いついた。

まずは集団登校で通う大通りではなく、住宅街の網の目のような細い路地を歩き回って最短ルートを探す。しかしいざ計測を始めると、途中で歩数が分からなくなってしまう。そこで区間ごとに目印を決めて分割計測し、その数値を「自由帳」に細かく記録することにした。一日では計測しきれず、何日もかけて挑戦した。時には最短ルートの路地に車が駐車していて通れず、翌日やり直しになることもあった。

数日間の苦労の末、ついに我が家までの最短歩数を弾き出したが——情けないことに、それが何歩だったのかは今ではまったく覚えていない。


何の変哲もない、ただの住宅街の路地。大人の決めた時間やルールから解き放たれ、自分の足で自分の世界を歩いていたあの下校路は、なぜあんなに楽しかったのだろう。


今、かつての通学路を思い出せば、あの懐かしい「ドブ川」には次々とコンクリートの蓋がされ、整然とした暗渠や歩道へと姿を変えていっている。


だが、あのコンクリートの蓋の下には、今もサラサラと澄んだ水が流れているはずだ。そしてその上には、自由帳を抱え、足元を見つめながら一歩一歩を踏みしめていたあの頃の私たちの声が、今も変わらず響いているような気がしてならない。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


昭和の空気を懐かしんでいただけましたら、【評価】や【ブックマーク】をいただけますと、執筆の大きな励みになります! また別の作品でお会いしましょう。

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