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異世界譚  作者: はくまい
1/1

プロローグ

「雷の使徒が脱走したぞー!」


「探せ!まだそう遠くには行ってないはずだ!!」


先程まで居た前線基地から怒号が聞こえる。

かなり遠くまで来たつもりだったが声が届くということはあまり離れた所ではなかったのだろう。


「早く…逃げなきゃ……」


足は動く。

恐怖でどうにかなってしまいそうな心とは裏腹に鍛え上げられた健脚は信じられないような速度で森を走破していく。


分からない。

何でこんな事になったのかも。

朧気に覚えているのはあの日のこと。

この世界に呼ばれ全てを失ったあの日のことだけ。





プロローグ





「唯、明日は寝坊できないいんだから早く寝ちゃいなさい」


「ん〜わかったー」


お母さんに生返事を返しながらも読んでいる雑誌を放すことはない。

そんな私を見かねてかお母さんに雑誌を取り上げられる。


「ちょっと。返してよ」


「はいはい、明日には返すわよ。だから今日はもう寝なさい」


「あと少しだけだからいいじゃーん」


「私は嫌よ? 明日の卒業式にいつもみたいに寝癖つけて行く娘を見るのは」


私こと朝倉唯は朝にすごく弱いのだ。

そこを突かれてしまうともはやぐうの音も出ない。


「むぅ。分かったわよ。今日はもう寝ますよー」


流石の私とて卒業写真まで寝癖でぐちゃぐちゃになった髪で写りたくない。

いそいそと自分の部屋に向かう。


明日は中学校の卒業式。

義務教育に別れを告げ、たぶんラブとかロマンスとかそんなものが溢れてる高校生活へとステップアップするのだ。

すでに偏差値という面では大変微妙だが家から徒歩15分という好立地の私立高校に合格している。

中学校を卒業してしまえばもはや入学するだけということもあり今から期待で胸が膨らむ。


「やばい…眠れない」


ベッドに潜り込んで卒業後のことを考えていたら眠れなくなってしまった。

気分は遠足前の小学生だ。

眠れないのなら仕方が無いとばかりに取り出したのは読みかけの小説。

ストーリーはハリウッドにでもありそうな崩壊を控えた地球でのラブストーリー。

残すところ数十ページ程なので読み終わる頃にはちょうどよい眠気が得られるはずだ。







「……何というか…やりきれないって感じ……」


いや、ラストのシーンは良かったのだ。

崩壊中の地球を背景に主人公が女性を抱きしめ「最期まで離さない」と呟くところなどは思わず涙しそうになった。

ただその抱きしめた相手が主人公に恋して最後まで傍にいた幼馴染ではなく物語の中盤から出てきた幼女でさえなければ。


幼馴染という言葉に幼稚園からの腐れ縁である木内浩介を思い浮かべる。

そういえば浩介も同じ高校への進学を決めていたはずで、恋愛物を読んだ直後ということもあってつい付き合うことになったとしたらという妄想を浮かべてしまう。


「〜〜っ!」


声にならない声を上げながら枕を抱きしめる。

今鏡を見れば自分の顔は真っ赤になっているだろう。


そうしてベッドの上を転がること数分。


「あ〜ぁ。なんか逆に眠気も覚めちゃった…」


ぼやきつつ時計を見る。

11時を過ぎたあたりだ。

そろそろ寝なければ明日の朝起きる自信が無くなってくる。

今度こそ寝ようと思い、部屋の電気を消した瞬間違和感を感じた。

真っ暗な部屋の中だから当たり前だが背後を振り返っても何も見えない。


「…おっかしいなぁ」


確かに感じた違和感を疑問に思っていると急に周りが薄明るくなった。


「え…?」


目に映るのは石造りの壁や柱。

足に感じる感触もいつの間にやら硬い感触に変わっている。

見える範囲だけでも小さな公園くらいの広さがあると分かる。

そして何より目を引くのが足元に書かれた幾何学模様だ。

光源らしきものも見当たらないのに薄明るい事にも気を引かれたがそれよりもこの幾何学模様のほうが何倍も気になった。


「なんだろ、これ?」


あまりに現実感の無い空間の所為か恐怖や混乱よりも好奇心の方が勝ったようだ。

しゃがんで模様に触れてみる。


「んー、チョークとかじゃないよね。ペンキっぽくもないし…」


しばらく模様に触れていると唐突に暗くてよく見えなかった奥の方から扉の開くような音とともに日の光が差し込んできた。


「うぐ。眩し」


あれ?今って夜じゃなかったっけ?などと悠長に思考を廻らせているとガチャガチャという音と一緒に大量の人に取り囲まれてしまった。

しかも取り囲む人々は皆甲冑に身を包み、身の丈の二倍はある槍を携えている。


「…なにこれ? 私コスプレ会場にでも迷い込んだのかな……?」


その槍や甲冑の放つ本物の金属の重厚感に遅まきながら恐怖を覚え冗談を口にするが、声が届いているはずの甲冑の群れは微動だにしない。

もしかして私誘拐されたの?

などと今更ながら混乱してきた。

きっと今の私の顔はとても愉快なことになっているだろう。

そうしている内に扉の方に新たな人物が現れたようで、またガチャガチャと音を立てながら甲冑の人たちは新たに現れた人と私の間に道を作る。

近寄ってきた人物は金髪碧眼の美青年だった。

無駄に美形な分どこぞの歌劇にでも出てきそうなほどひらひらした服を着ているのが残念だったが。


「……ふん。要らんな。適当に勇者にでもしておけ」


じろじろとこちらを眺めた挙句出たのはそんな台詞だった。

状況が上手く飲み込めないがおそらくこのひらひら君は攫ってきた挙句やっぱいらないみたいなことを言っていると考えていいのだろうか?


「勝手に出てきて何を偉そうにっ!」


つい言ってしまった私を責めないで欲しい。

だってすごくむかついたんだもん。

ひらひら君を見てみると一瞬驚いたかのように硬直した後、物凄く唇をつり上げて笑みを浮かべていた。


「くっくっく、くハッハッハ…」


ひとしきり笑い終えると急に真顔になり。


「そのゴミに使う術式は俺が用意する。それまでに準備を済ませておけ」


と言い放って扉から出て行ってしまった。

後に残されたのは私と甲冑の群れ。


「承知致しました」


甲冑の一人が槍を他の甲冑に任せ、腰から短い棒のような物を取り出し私に向けてくる。

その棒が何の意味を持っていたのかは分からなかったが「私」の意識は此処で途切れた。






―――第一術式起動


周りが騒がしい。


―――出力上昇、30…70、90安定しました


こっちは寝てるんだから少しは気を使って欲しい所だ。


―――内臓術式展開


あれ?なんで私は寝てるんだっけか?

今一思い出せない。


―――エクリアス共鳴……成功しました


今日は何の日だったっけ?


―――内臓術式の取り込み完了、安定化まで後10、9、8…


あぁ、卒業式だ。

騒しいのはお母さんかな?

流石に寝坊できないから起きなくちゃ。


―――2、1、安定しました。続いて第二術式起動。精神汚染を開始します。


このまどろみも捨て難いけど、寝癖と比べたら!


―――汚染完了。対象に覚醒術式を使用します







「おはよう。気分はどうだい?」


私が目を覚ますと目の前には知らないおじさんがいた。

いや、おじさんだけではなかった。私の周りには彫像のようにピクリとも動かない人が何人もいた。

少しばかり不明瞭な意識と相まって若干戸惑いながらも返事を返す。


「えと、おはようございます。気分は…あれ? なんだかすっきりしてます」


「そうかそうか、それはよかった。それと君は何者で何を成すべく此処にいるのかわかるね?」


このおじさんは何を聞いているのだろうか?

そんなことは決まりきっているのに。


「はい。わかりますよ?」


「うん、すまないがそれを答えてはくれないかい?」


意識がだんだんと明瞭になってゆく。


「いいですけど?私は―――」


一瞬言葉に詰まる。

眩暈がしたかの様な錯覚に囚われるがそれもまた一瞬。


「どうしたのかね?」


「いえ何も。私はウラノス神国教王リードリッヒ様の忠実な僕にして剣。我が神から授かった名はユイ・アサクラです」


ガチャリと、何かが嵌まるような音が聞こえた気がした。




ストレス解消に書いた物を投稿しているので基本的に亀更新になります

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