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僕の物語― それでも、前へ ―  作者: シロイルカ
第三幕 ネバーエンディングストーリー
26/27

幕間 仲間

最近、よく喋る後輩がいる。

境遇は、どこか自分とよく似ていた。

数年前に結婚し、子どもが生まれ、

そして――妻に不倫され、離婚した。

もともと明るく、よく笑うやつだった。

けれど、その出来事を境に、日に日に元気がなくなっていった。

笑ってはいる。

でもその奥に、どうしようもない疲れが滲んでいた。

人生に、どこか見切りをつけてしまったような顔だった。

きっと、もう限界だったんだと思う。

僕は、何度か心療内科に行くことを勧めた。

最初は渋っていたが、何度目かの時、ようやく彼は通院を始めた。

薬をもらうようになってから、

彼に小さな変化が起きた。

少しずつ、笑う回数が増えた。

ただ――その笑いは、どこか不思議だった。

時おり、少し狂気じみたことを、

まるで世間話のように軽く口にするようになった。

「もし全部壊してやったらどうなるんすかね」

そんなことを、天気の話でもするみたいに笑って言う。

普通なら、少し怖いはずの言葉。

でも彼は、それを“やらない”と分かっている。

分別があるから、踏み越えない。

だからこそ思った。

彼は壊れたんじゃない。

壊れそうになった先で、バランスを取り直したんだと。

良識のある狂人。

分別のある変人。

そんな言葉が、妙にしっくりきた。

そして気づいた。

――それは、どこか今の自分と重なっていた。

だからだろう。

距離が縮まるのに、時間はかからなかった。

二人きりのときは、

少し頭のおかしい雑談で笑い合い、

時には、あの頃の辛い話をして、また笑った。

普通なら、笑える話じゃない。

でも僕たちは、笑った。

あの痛みを知っているからこそ、

笑える瞬間がある。

お互いに飲んでいる薬の種類まで、なぜか同じだった。

「お揃いっすね」

そんな軽口から、いつの間にかドラッグトークに花が咲く。

「あの薬、けっこう効きますよ」

「マジで?ちょっと先生に相談してみようかな」

周りから見れば、きっと異様だったと思う。

冷めた目で、あるいは少し心配するような目で見られていた。

でも僕らにとっては、それがただの日常だった。

そんなある日、彼と遠出する機会があった。

運転は僕。

助手席に後輩。

そして3列シートの真ん中に、若い男性職員が一人座っていた。

最近、彼女ができたばかりのやつだ。

正直、最悪のフォーメーションだったと思う。

両サイドに、離婚と不倫を経験した男が二人。

その真ん中に、まだ幸せの途中にいる男が一人。

逃げ場はない。

案の定、会話は自然とそっちの話になった。

助手席と運転席から、淡々と過去が語られていく。

バックミラー越しに見えた彼の表情は、

最初は少し引いていた。

無理もない。

聞きたい話ではなかったはずだ。

けれど――

しばらくすると、彼も口を開いた。

「でも…どうなんすかね、結局、女の人って…」

気づけば、会話に混ざっていた。

むしろ途中からは、一番前のめりになっていたかもしれない。

三人の会話は、妙に盛り上がった。

笑いながら、どこか歪んだ現実を語り合う。

普通じゃないはずの空間。

でもそのときの僕らには、それがやけに心地よかった。

そのときだった。

一台のコンパクトカーが、いいスピードで横を追い抜いていった。

一瞬見えた車内には、男女が乗っていた。

その瞬間、助手席の彼が何気なく言った。

「あー、きっと不倫っすね」

前触れのない一言。

車内に一瞬の静寂が落ちて――

次の瞬間、僕らは大笑いしていた。

話を聞けば、彼の元妻も、

似たような車で不倫していたらしい。

どうしようもない現実なのに、

なぜか笑えてしまった。

――いや、違う。

笑うしかなかったのかもしれない。

でも、その時間は確かに温かかった。

ああ――

こうやって人は、

壊れたままでも、誰かと並んで笑うことができる。

そしてきっと、そんな時間に救われている。

友達とは違う。

同僚とも、また違う関係。

きっと、こういう関係というのを人は「仲間」と言うんだろう。

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