第六章 Xday(エックスデイ)
それは、普段と変わらないはずの日だった。
仕事をして、帰って、ジムに行って、洗濯をして、眠る。
ただそれだけの一日になるはずだった。
――しかし、違った。
担当の弁護士からの一本の連絡。
「調停の日が決まりました」
その一言で、心臓が強く脈打った。
ドクン、と音がした気がした。
ついに来たか。
ここまで長かった。
本当に、長かった。
ようやく話し合いができる。
そう思うと、安堵のようなものが胸に広がった。
けれど同時に、別の感情が押し寄せる。
――なんて不毛なんだ。
話すだけで、半年。
ただ話すために、半年。
その事実を噛みしめた瞬間、
体から、力が抜けていった。
魂が、少しずつ抜けていくような感覚だった。
その半年のあいだに、
家族の時間は、確実に失われていた。
卒園式。
入学式。
誕生日。
参観日。
春休み。
たった半年。
けれど、思い出を作るには十分すぎる時間だ。
次男のランドセル姿。
その入学式を、僕は見ることができない。
そう考えた瞬間、
もう一度、全身から力が抜けた。
本来なら、かけがえのない思い出になるはずだった時間。
それが、そうならない。
そのことが、たまらなく悲しかった。
辛くて、苦しくて、どうしようもなかった。
これが、第一回目の調停。
――あと、何度あるのだろう。
――何ヶ月、かかるのだろう。
そのあいだにも、
家族の時間は、また失われていく。
前に進んでいるはずなのに、
何かが、確実に削られている。
戻ってこないもの。
それは、時間であり、
本来そこにあったはずの思い出だった。
笑顔。
喜び。
何気ない日常。
そのすべてが、静かに消費されていく。
不毛だ。
この話し合いの先に、何があるのか。
どこに辿り着くのか。
まったく見えない。
すべてが終わったとき、
僕は泣いているのだろうか。
それとも、笑っているのだろうか。
――それとも、まったく別の顔になっているのか。
最近は、自分でも自分がわからなくなる。
見失っているつもりはない。
ただ、怖いのだ。
未来が、見えない。
かつては思い描いていた。
子どもたちが大人になり、巣立ち、
夫婦で静かに老後を過ごす未来。
孫ができたら、当たり前のように可愛がる。
そんな、ありふれた幸せ。
けれど、今は――
そのどれもが、想像できない。
子どもたちの未来も、
きっと大きく変わってしまった。
なりたかったものに、なれなくなっているかもしれない。
その夢を聞くことすら、今の僕にはできない。
それでも。
日にちは、決まった。
それが、Xdayになるのか。
Ddayになるのか。
それとも――審判の日になるのか。
わからない。
ただ一つ、確かなことがある。
その日は、もう決まっている。
そして今、
確実に、その時へ向かっている。
最近気持ちが沈みがちで暗い話が続くがしれません、楽しい章も作りたいと思うので皆さん応援お願いします。
誰かの支えになったり勇気を与えれるような物語になれたら幸いです。




