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第七章 産声
酒を飲み歩くようになって、面白い出会いもあった。
そのひとつが、「産声」という名前のバーだ。
産声。
何かを変えるきっかけには、ちょうどいい名前だった。
そんな安易な理由で立ち寄った店が、不思議と自分にはしっくりきた。
落ち着いた雰囲気の店内。
よく冷えた美味しいビール。
そして、ふいに現れて話しかけてくるオーナー。
最初は、知らないおじさんが気さくに絡んでくるのかと思った。
それがオーナーだと知ったときは、正直驚いた。
今では、それも笑い話だ。
だが、この店の魅力はそれだけではない。
個性豊かな店員たち。
僕が行けば、たいてい居てくれる可愛い店員さん。
木の実の名前を持つ、気さくな女性。
少し危うさを抱えた、スリル満点の仲間候補。
イケメン金髪の爽やかさん。
小悪魔のような歌姫。
そして、どこかむっつりしながらも、いつも笑っているラガーマン。
気づけば、毎週通う常連になっていた。
通ううちに、顔見知りの客もできた。
自然とカウンター越しだけでなく、客同士で言葉を交わすようにもなった。
あの店を通じて、人の輪が少しずつ広がっている気がした。
最近は友達も誘うようになった。
あの場所は、ただ酒を飲む場所ではない。
自分の心を、そっと置いておける場所だ。
失ったあとに、芽吹いた居場所。
僕にとっての、もう一度の――産声。




