第六章 友達と酒と涙
近所に、高校時代の同級生が住んでいる。
同じ部活で汗を流し、くだらないことで笑い合った仲だ。
今でも変わらず付き合いのある、数少ない親友の一人である。
ある日、久しぶりに連絡をしてみた。
「飲まないか?」
それだけの短いメッセージだった。
彼は酒に強くない。二杯で顔は真っ赤になる。それでも、僕が誘えば、どんな時でも顔を出してくれる。昔から、そういう男だった。
場所は四駅向こうの小さな飲み屋街。
最寄り駅で待ち合わせをすると、案の定、彼は遅刻してきた。
学生時代と何も変わらない。
その姿を見た瞬間、なぜか少しだけ心が軽くなった。
店は決めていなかった。
駅前のチェーン店にふらりと入る。
僕はビール。
彼は酎ハイ。
「乾杯。」
グラスが触れ合う音が、やけに澄んで聞こえた。
昔話に花が咲く。
今の生活や
仕事の話
くだらない失敗談。
冗談を言い合って、笑った。
久しぶりに、心から笑った気がした。
だからだろうか。
自然と、今の自分の境遇を話していた。
きっと彼は驚きながらも、
「元気出せよ」と笑ってくれると思っていた。
だが、違った。
彼は、泣いていた。
声を出さず、静かに、涙を流していた。
正直、予想外だった。
僕は努めて明るく振る舞った。
「大丈夫だ」と笑った。
だが彼は、ただ泣いていた。
大の男が、友達のために泣いている。
自分のことを思って、泣いてくれている。
その事実が、胸に深く沁みた。
僕は大きなものを失った。
だが、その喪失の中で、
失っていないものに気づいた。
大切にしなければならないもの。
友達だ。
こんなに近くに、
こんなにも本気で心配してくれる人がいる。
それだけで、
自分の人生もまだ捨てたものではないと思えた。
その日は朝まで飲んだ。
途中から記憶は曖昧だ。
だが、覚えていなくても分かることがある。
あの夜、僕は確かに一人ではなかった。
そして――
その日は、最高の夜だった。




