第三章 ビギニング
日々のルーティンが固まり、
気持ちの整理も少しずつつき始めた頃だった。
ポストに一通の封書が入っていた。
差出人は、京都市の弁護士事務所。
――ようやく来たか。
以前から、妻から何らかのアクションはあるだろうと思っていた。
だが、実際にそれが形になって届くと、胸の奥が重く沈んだ。
封を切る。
中身は、想像以上に酷い内容だった。
妻は離婚を求め、財産分与と養育費の手続きを進めたいという。
そこまでは理解できる。
問題は、離婚理由だった。
理由は――僕のDV。
頭が真っ白になった。
僕は、妻に暴力など振るっていない。
少なくとも、自分の認識では一度もない。
妻の不倫が理由ではないらしい。
DVが原因で、行政に保護され、警察にも守られ、
母子シェルターのような場所にいるという。
何が何だか分からなくなった。
すぐに妻側の弁護士に電話をかけた。
「妻の不倫が原因で離婚するのではないのですか?」
そう尋ねても、返ってくる言葉は同じだった。
「離婚理由は、ご主人からのDVです。」
一点張りだった。
僕の要望は一つだけだった。
子供と電話でいいから話をさせてほしい。
とにかく、安否を確認したい。
それだけだった。
だが、答えは「無理です」。
同じ日本語を話しているはずなのに、
言葉が通じない。
理解が交わらない。
奇妙な感覚だった。
その日は、改めて連絡を取る約束だけをして電話を切った。
受話器を置いたあと、しばらく動けなかった。
酷い話だと思った。
正義も、道理も、何もない。
世の中とは、こういうものなのかと。
乾いた笑いが出た。
実に滑稽だ。
実に愚かだ。
まるで質の悪い喜劇のようだとさえ思った。
だが、笑っていられる状況ではない。
この狂った物語から抜け出すには、
もう自分ひとりでは無理だ。
僕も、弁護士に頼らなければならない。
これは終わりではない。
ここからが、本当の始まりだ。
これが、僕のビギニングだった。




