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第二章 スタートライン
病院に通い始めてしばらく経った頃、
家で一人でいることに、強い息苦しさを感じるようになった。
家族の思い出が詰まったこの部屋に、自分ひとりでいる。
それはどこか、当たり前だった場所から外れてしまった感覚だった。
自分の家なのに、自分の居場所ではないような、そんな違和感。
家にいたくなかった。
そんな時に出会ったのが、ジムだった。
24時間営業。
運動ができて、シャワーも浴びられる。
今の自分にとって、もっとも合理的で、逃げ場にもなる場所だった。
それからの毎日は、妙にしっくりきた。
夕方まで仕事をする。
帰宅して着替え、ジムへ向かう。
汗を流し、シャワーを浴びる。
帰って洗濯を回し、薬を飲んで眠る。
それが、自分のルーティンになった。
日々、少しずつ仕上がっていく肉体を見ることが、
ささやかな楽しみになった。
気まぐれで始めた脱毛も、なぜか前向きな気持ちにさせた。
外側を整えることで、内側も少し整っていくような感覚があった。
寂しい時もある。
泣く時もある。
落ち込む日だってある。
それでも、以前より確実に違うことがあった。
心に、ほんの少しだけ余裕が生まれていた。
ここが、僕のスタートラインだった。




