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創れないもの

作者: youyo112
掲載日:2026/02/26

もし、何でも創れる力を手に入れたら。


飢えも、寒さも、争いも。

指先ひとつで消せるとしたら。


それは救いだろうか。


それとも

ゆっくりと、自分を削る刃だろうか。


この物語の主人公ノアは、《万物創造》という絶対的な力を持つ。


しかし、この世界には法則がある。


無からは生まれない。

代償なき奇跡は存在しない。


物質は創れる。

だが、信頼は創れない。

記憶は創れない。

時間は創れない。


そして彼女はやがて気づく。


本当に価値があるものほど、

“創造”という近道を拒むのだと。


これは万能の物語ではない。


選択の物語だ

創れないもの


私は、何でも創れる。


石も、鉄も、家も、剣も、パンも。


指を鳴らせば、そこに在る。


だから村の人たちは私を“奇跡の子”と呼ぶ。


でも。


創れないものが三つある。


 信頼。

 記憶。

 時間。


そして最近、もう一つ増えた。


 ——私の感覚。


________________________


名前はノア。

転生者らしいけど、前世の記憶はぼんやりしている。


ある日突然、頭の中に声が響いた。


《スキル:万物創造 取得》


最初は戸惑った。


でも空腹のとき、パンを創った。


寒い夜、毛布を創った。


崩れかけた家を、一瞬で直した。


みんなが笑った。


それだけで、十分だった。


________________________


代償に気づいたのは三年後。


村に盗賊が来た夜。


私は壁を創り、武器を創り、防壁を重ねた。


村は守れた。


でも。


翌朝、私は“甘さ”を感じられなかった。


朝食の蜂蜜が、ただの粘度に変わっていた。


味覚の一部が消えている。


そのとき理解した。


創造は、無から生まれない。


私の“何か”と引き換えだ。


________________________


それでも私は創った。


橋が壊れれば橋を。


干ばつが来れば水路を。


便利であることは、期待を呼ぶ。


「ノアがいれば大丈夫」


その言葉が、少し重くなっていく。


ある日、幼なじみのユンが言った。


「なんで、そんなに全部やるの?」


「できるから」


即答した。


でも彼は首を振る。


「それ、俺たちの“ありがとう”奪ってる」


意味がわからなかった。


創れば解決する。

困らない。

それでいいはずだ。


________________________


冬。


疫病が流行った。


私は薬を創ろうとした。


材料も、理論も、理解している。


でも。


最後の一滴が、形にならない。


なぜ?


何度やっても完成しない。


そこで気づいた。


薬は創れても、

“治るまでの時間”は創れない。


“寄り添う記憶”も創れない。


私は初めて、創らない選択をした。


薬の素材だけ用意して、

あとは村の人と一緒に看病した。


夜通しで手を握る。


汗を拭く。


ただ、そばにいる。


数日後、子供は目を開けた。


「ノア、ありがとう」


その声を聞いた瞬間、

胸の奥が温かくなる。


味が戻った。


少しだけ。


________________________


私はようやく理解した。


万物創造は万能じゃない。


信頼は、積み重ねでしか生まれない。

記憶は、共有しなければ意味がない。

時間は、共に過ごすことで価値になる。


創らないことも、選択だ。


夕暮れ。


ユンが隣に座る。


「今日は何も創らないの?」


「うん。今は、これで足りる」


空を見上げる。


夕焼けは創れない。


でも、この景色を覚えておくことはできる。


自分の心で。


________________________


私はまだ何でも創れる。


でも。


大事なものは、

創らないほうがいいと知った。



力とは、可能性の総量ではない。


何を“しないか”を決められること。

それが成熟だ。


ノアは多くを創り、多くを失いかけた。


だが彼女が守ったのは、世界そのものではない。


隣に座る誰かと過ごす時間。

看病の夜。

戻ってきた味覚。


創れないものは、不便だ。


だが不便だからこそ、価値がある。


もしこの物語の続きを描くなら、

彼女は再び大きな選択を迫られるだろう。


創るか。

創らないか。


そして最後に問われる。


彼女自身は——

創られた存在なのか、それとも。


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