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追放令嬢と逃亡王子の王国再建計画  作者: スパイシーシェフ
第2部:反逆の狼煙は西側に上がる
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第29話:木剣、オルコット慟哭、迫り来る弟の底知れぬ闇

「アルベルト殿、騎士団の訓練に参加してみないか?」


 不意に背後から声を掛けられた。

 アルベルトが振り返ると、そこにはガレルが立っていた。

 視線の先、街道の彼方には、レグスへと帰還するメリーたちの馬車が小さくなり、やがて朝霧の奥へと消えていくところだった。


「ああ。今朝はいつもの鍛錬ができなかったからな。体を動かしたいと思っていたところだ」


 アルベルトは右肩を大きく回した。

 見送りのために中断していた日課を取り戻すかのように、関節がごりと低い音を立てる。

 ガレルに促されるまま、その巨躯についていくと、行き着いた先は騎士団の訓練所だった。

 土煙の匂いと、男たちの熱気が鼻腔をくすぐる。

 すでに何人かの団員が、黙々と準備運動に精を出していた。


「おはようございます! ガレル様」


 一人の団員が気付き、声を張り上げる。

 それに呼応するように、周囲の者たちも直立し、敬礼を送る。


「ああ、おはよう。本日はアルベルト殿下も参加される。みっともないところを見せるなよ」


 ガレルは破顔し、部下たちに愛想よく応じた。

 その口調には、上官としての威厳と、同じ戦場を駆ける仲間としての親愛が同居している。


「「「はい!」」」


 団員たちの視線が一斉にアルベルトに向けられる。

 好奇心、あるいは値踏みするような光が混じっていたが、彼らの礼儀正しさは崩れない。

 アルベルトは軽く片手を挙げて応え、彼らの輪に加わった。


 訓練は過酷なものだった。

 装具を身に着けたままでの長距離疾走。

 足場が悪く、起伏の激しい練兵場の外周を、隊列を乱さずに走り続ける。

 乱れた呼吸を整える間もなく、次は素振りの反復だ。

 重厚な訓練用の木剣を、号令に合わせて振り下ろす。

 百、二百と回数を重ねるごとに、腕の筋肉が悲鳴を上げ、鉛のように重くなっていく。

 だが、その負荷が心地よい。


 ようやく休憩の号令がかかり、団員たちが肩で息をしながら地面に座り込む。

 アルベルトも汗を拭いながら呼吸を整えていると、ガレルが訓練用の木剣を持って歩み寄ってきた。


「どうだ? 一本やらないか?」


 彼は無造作に、片手剣を象った木剣をアルベルトに投げてよこした。

 自身の手には、巨大な両手剣の木剣が握られている。


「よし、やろう」


 アルベルトは木剣を受け取り、立ち上がった。

 訓練所の中央、開けた場所へと二人で向かう。

 その動きに気付いた団員たちが、ざわめきと共に視線を寄せてくる。


「おい。ガレル様とアルベルト殿下が立ち会うのか?」

「辺境伯領最強のガレル様とアルベルト殿下が試合?」

「殿下は強いのか?」

「殿下は王国騎士団最強の剣士だったという噂もあるぞ?」


 好奇と期待が入り混じった囁きが、波紋のように広がっていく。

 ガレルは両手剣をゆったりと構え、アルベルトを見据えた。


「出陣を前に怪我をさせるわけにもいかん。ほどほどにな」


「心配いらない。本気で来い」


 アルベルトの言葉に、ガレルの目がスッと細まった。

 空気が凍り付くような、鋭利な殺気が放たれる。

 ガレルは右上段に剣を振りかぶった。

 袈裟斬りの構えだ。

 その巨体から繰り出される一撃は、たとえ木剣であろうとも、まともに受ければ骨を砕く威力があるだろう。

 その構えを受けて、アルベルトは右中段、やや低めに構えた。


「……」


 周囲の団員たちが息をのむ気配が伝わる。

 余興の類ではない。

 互いに一歩も引かぬ、真剣勝負の空気が場を支配していた。


「来い!」


 アルベルトが短く叫ぶ。

 ガレルがすぅっと息を吸い込み、カッと目を見開いた。


「ハアッ!」


 裂帛の気合と共に、構えの通り右上段からの袈裟斬りが奔る。

 アルベルトは半歩下がってその豪剣を躱した。

 回避と同時に、前へ踏み込もうと重心を移動させる。


 その瞬間だった。

 通り過ぎたはずのガレルの剣が、地面で跳ね返ったかのような軌道で舞い戻ってきた。

 体重が前にかかったアルベルトには躱しようがない。

 1段目の袈裟斬りをフェイントに使った、高速の踏み込みと切り返しによる逆袈裟斬りだ。

 

(取った!)


 ガレルの表情に、勝利を確信する色が浮かぶ。

 だが、アルベルトは止まらなかった。

 逆袈裟斬りよりも早い踏み込みで、ガレルの右手側をすり抜ける。

 すれ違いざま、右中段に構えた剣をガレルの脇腹に打ちつける。

 そして、完全に背後を取ったアルベルトの木剣が、ガレルの後頭部を軽く小突いた。


「……」


 ガレルが動きを止め、言葉を失う。


「……」


 同じく、固唾を飲んで見守っていた騎士団員たちも沈黙し、言葉を失った。


「どうした? もう終わりか?」


 アルベルトは構えを解き、余裕のある声をかけた。


「……驚いたな。これが王国騎士団最強の剣か……」


 ガレルがゆっくりと振り返り、信じられないものを見るような目でアルベルトを見た。


「まだやれるだろう?」


「ああ、続けよう」


 ガレルは気を取り直し、再び剣を構えた。

 それからは一方的だった。

 何本打ち合っても、ガレルの剣はアルベルトに掠りもしなかった。

 躱され、受け流され、体勢を崩され、木剣で頭を小突かれる。

 何度やっただろうか。

 ガレルは棒立ちになり、空を見上げた。


「……参った。さすがにもう動けん」


 アルベルトは歩み寄り、ガレルの胸当てを拳で軽く叩いた。


「いい試合だった。またやろう」


「いい試合なもんか、……終始子供扱いだった」


 ガレルが苦笑交じりにぼやく。

 その瞬間、静まり返っていた訓練所が爆発したような歓声に包まれた。


「うおー!」「スゲー!」「アルベルト殿下!」


 興奮冷めやらぬ騎士団員たちが駆け寄ってくる。

 彼らの目にあった値踏みするような色は消え、純粋な尊敬と熱狂が宿っていた。


「私も手合わせいいですか?」「オレも!」「オレが先だ!」


 やる気に満ち溢れた男たちが、我先にと名乗りを上げる。

 その熱意は心地よいものだった。


「ああ、いいぞ。どんどん来い」


 アルベルトは彼らの挑戦を受け入れた。

 結局、昼休憩を挟み、夕方までずっと訓練をしていた。


 夕日が長く影を落とす頃、アルベルトはガレルと共に辺境伯邸への帰路についた。

 汗で重くなったシャツを脱ぎ、恒例の上半身裸の状態で歩く。

 風が火照った体に心地よい。


「キャー!」


 邸に入った途端、すれ違った侍女たちの黄色い喚声が上がる。

 その騒ぎを聞きつけたのか、アンナマリーが足早に近づいてくる。


「アルベルト様! そのようなお姿を私以外に見せることは許しません!」


 彼女は眉を吊り上げ、アルベルトの体を隠すように立ちはだかった。


「……あ、ああ。すまない。すぐに汗を流してくる」


 アルベルトは苦笑しつつ、詫びを入れる。


「私もご一緒します」


「……え?」


 訓練で疲れた体に鞭打って、まだ頑張らないといけないらしい。


     ──────


 辺境伯邸の一室には、夕闇と共に静謐な空気が満ちていた。

 激しい鍛錬を終え、アルベルトは革張りのソファに深く身を沈めていた。

 その傍ら、あるいは体の一部であるかのように、アンナマリーが寄り添っている。

 彼女はアルベルトの腕に自身のそれを絡め、陶酔したような表情で肩に頬を寄せていた。


 そこへ、不躾なノックの音と共に扉が開かれた。


「アルベルト殿、少しいいか?」


 入室してきたのはオルコット辺境伯だった。

 彼は部屋の惨状――主に娘の様子――を見て、わずかに眉根を寄せた。


「ああ、かまわない」


 アルベルトは動じることなく応じたが、オルコットは首を横に振った。


「いや、かまうじゃろう。アルベルト殿から離れなさい、アンナ」


 父親としての威厳を込めた低い声だった。

 しかし、アンナマリーはアルベルトの腕をさらに強く抱きしめ、露骨に顔を背けた。


「私のことはおかまいなく」


 取り付く島もない拒絶。

 オルコットは大きな溜息を吐き、諦めたように肩をすくめた。


「……まあ良い。例の剣のことじゃ。先日言い忘れておったと思ってな」


「まあ、お父様もそういうお年頃ですからね」


 アンナマリーが間髪入れずに混ぜっ返す。


「まだボケておらんわ! 話の腰を折るな」


 声を荒らげる父に対し、娘はすんとすました顔で視線を逸らした。

 アルベルトは苦笑を噛み殺しつつ、デスクに立てかけられた一振りの剣に視線をやった。


「剣の由来か? 先日言った通り、特に興味はないんだが」


「まあ、そう言わずに聞いてくれ。簡単に言うと、あの剣はワシ、オルコット辺境伯から国王ヴォルガンへの進献の品だったんじゃ」


 オルコットは忌々しげに、あるいは懐かしむように剣を見つめた。


「第二王子派に与したわけではないが、新王の即位に何の祝いもしないわけにはいかんじゃろうと思ってな。領内一の鍛冶屋に依頼したんじゃ」


「それを盗賊に奪われた、と」


「まあ、奪われた経緯はこの際どうでも良い。ヴォルガン国王に渡るはずじゃった剣を、アルベルト・アステリア第一王子が持っておった。数奇な運命を感じた、というのはちょいと感傷的かの」


 オルコットは遠い目をして呟いた。

 アルベルトは口元を歪め、乾いた笑いを漏らした。


「それを運んできたのがメリーか。ずいぶんと血生臭い運命の女神だな」


「メリーちゃんは不思議な子じゃな。レグスの復興、西側大穀倉地帯構想やアルベルト殿の王位簒奪、全く無関係な立場でありつつ、全ての中心におる」


「……俺に、王国の再建をやらせたいんだろう。信じられないような発想と、恐ろしいまでの手腕を、これでもかと見せつけられているよ」


「それもな……。何が彼女をそこまで駆り立てるのかわからんのよな。そのきっかけや理由、何か知っておるか?」


 オルコットが真剣な眼差しを向けてくる。

 アンナマリーもまた、口を挟まずに静かに聞き入っていた。

 アルベルトは視線を天井に向け、記憶の糸を手繰り寄せた。


「……レグスに到着した日、メリーはこう言ったんだ」


 アルベルトは静かに語り始めた。


「奪われた椅子を取り戻しに行く気概は残っているか? と。……きっと、その時から考えていたんだろうな」


「ふむ。アルベルト殿は何と答えたんじゃ?」


「まだ自信がない。……と答えた。情けないよな」


 自嘲気味に笑う。

 当時の自分は、失意の底にあり、再起など考えられなかった。


「ああ……。罪作りな方ですね、アルベルト様は……」


 不意に、アンナマリーが額を押さえて呻いた。


「え?」


 唐突な反応に、アルベルトは目を瞬かせた。

 アンナマリーが顔を上げ、厳しい表情でアルベルトを睨みつける。


「その時は『まだ』だったんでしょう? 『いずれは』と気を持たせた。こう言えばわかりますか?」


 鋭い指摘が胸に突き刺さる。

 完全に否定していれば、彼女は別の道を歩んだかもしれない。

 だが、あやふやな保留は、可能性という名の鎖となって彼女を縛り付けた。


「その時に決めた……。決め切ったんじゃろうな……」


 オルコットが天井を仰ぎ、重い溜息を吐いた。


「そんな……」


 アルベルトは呆然と呟いた。


「よい。アルベルト殿のせいではない。気に病む必要はなかろう」


 オルコットは慰めるように言ったが、その表情は晴れなかった。


「だが、メリーちゃんの終着点はどこなんじゃろうな。アルベルト殿を国王にすれば終わり、と考えてよいのか?」


 彼の中には、まだ拭いきれない疑問が残っているようだった。


「……終着点か。いつかそんな話をしたことがある」


 アルベルトは、いつかの夕陽を見ながらメリーと話をした時のことを説明した。


 ――一歩ずつでも進んでいけば、いつかは届く。そこに辿り着くのは私じゃなくてもいい、次の世代でも。……確か、そう言っていた。


 ――ゆっくりでいい、確かな『プラス』を積み上げていきましょう。……これはメリーが行動で証明している通りだ。


 ――アルの行く先、いつかその道の終焉にたどり着いたら、レグスに帰ってきなさい。……そう約束した。


「ああ……」


 アンナマリーがその場にくずおれる。


「何という……取り返しのつかん事を……」


 オルコットもまた、膝から力が抜けたように床に手をついた。

 二人の常軌を逸した反応に、アルベルトは戸惑った。


「どうしたんだ? オルコット卿」


「当時10歳かそこらじゃろう、メリーちゃんは。王国が、ワシら大人が情けないばかりに、あんな子供にすべてを背負わせてしまったのか……」


 オルコットの声が震えていた。

 床を見つめる瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……」


 アルベルトの背筋に冷たいものが走った。

 彼らが何に戦慄し、何に絶望しているのか、その輪郭が徐々に明瞭になっていく。


「メリーちゃんは、アルベルト殿に全てを賭けたんじゃ。人生の全てを捧げて、アルベルト殿の踏み台になろうとしておる。そして、その結末を自分の目で見ることができなくてもかなわない、とまで割り切っておる……」


 オルコットの慟哭が部屋に響く。

 自身の幸福も未来もすべてを投げ打って、ただただアルベルトに希望を託した少女。

 その重すぎる献身に、大の男が泣き崩れている。


「……」


 言葉が出なかった。


「子爵は知っておったんじゃな……。そうでなければ、あの変わりようは説明がつかん。彼はすべてを飲み込んだ上で、メリーちゃんと運命を共にしておる。それに比べ、ワシは……」


 叩きつけられた拳の鈍い音が、静まり返った部屋に空虚に響いた。

 オルコットの目からは、堪えきれない悔恨が滴り落ちて床を濡らしていく。


「ワシは覚悟が足らんかった。西側辺境復興の恩義に報いようなどと、甘いことを考えておった。そんなことでは、彼女の戦場に立つことすら許されん……」


 アンナマリーは顔を覆ったまま、縋るような嗚咽を漏らしていた。

 指の間から溢れる涙は、彼女が抱く無力感そのものだった。


「あの子は……報われない、救われる気もない……どうして……」


 部屋を支配するのは、重苦しい沈黙と絶え間ない啜り泣きだ。


 どれほどの時間が、その残酷な静寂の中に消えていっただろうか。

 ふと、アルベルトが顔を上げた。

 その瞳には、先ほどまでの困惑に代わり、確信めいた光が宿っている。


「……メリーが言いそうなことを思いついた。あの時と同じだ。ヴォルガンを討つことはゴールじゃない、スタート地点にすぎない。メリーは必ずそう言う。今の俺にはわかる」


 アルベルトは強く拳を握り締めた。


「メリーちゃんのゴールはワシには想像もつかん。じゃが、ワシは彼女をスタート地点に送り届けよう。必ずだ」


 オルコットが顔を上げ、赤い目をしたままアルベルトを見据えた。

 そこには、一人の武人としての壮絶な決意が宿っていた。

 アルベルトもまた、深く頷いた。

 その瞳には、静かで、しかし決して揺らぐことのない強い光が宿っていた。


     ──────


 翌日、オルコット辺境伯邸の前には、予定外の帰還者を出迎えるオルコットたちの姿があった。

 馬車から降り立ったのは、メリー、フェリシア、そして『海鳥』の赤毛の娘だった。


「どうしたんじゃ? 戻りは明日じゃなかったのか?」


 オルコットが目を丸くして尋ねる。


「それどころじゃないのよ」


 メリーは短く切り捨て、背後の女性を顎で示した。


「こちらの女性は誰じゃ?」


「初めまして、辺境伯様。元ギルガルド伯爵の長女フェリシアと申します。此度は急ぎ報告することがあり、参りました」


 フェリシアは優雅な礼を見せたが、その表情は硬い。


「ギルガルド伯爵家の長女? 元?」


「そこはいいのよ。早く用件に入らせなさい」


 疑問を口にしようとするオルコットを、メリーが遮った。


「おお、そうか。ひとまず中に入ってくれ。話を聞こう」


「騎士団の訓練所に連れて行ってちょうだい。そこで話す必要があるわ」


「……?」


 事態が飲み込めないまま、オルコットは首を傾げた。

 だが、メリーの真剣な眼差しに気圧され、言われるがままに案内を始めた。


     ******


 訓練所では、今日もアルベルトとガレルが騎士団に混ざり、激しい打ち込みを行っていた。

 そこへ、オルコットに連れられたメリーたちが足早に入ってくる。


「メリー?」


 アルベルトは木剣を止め、汗を拭った。


「父上。何かあったのか?」


 ガレルも訝しげに眉を寄せる。


「説明は後よ。今すぐ訓練用の打ち込み台を用意しなさい。騎士団の鎧を着せたやつよ」


 メリーは挨拶もそこそこに、矢継ぎ早に指示を飛ばした。


「なんだ?」

「なんだなんだ?」


 騎士団員たちは顔を見合わせ、よくわからないまま指示に従う。

 急遽、訓練場の中央に、フルプレートの鎧を着せた頑丈な打ち込み台が設置された。


「ギルガルド伯爵領には化け物がいるという話よ。私と似た能力らしいわ。私がこれからやる事をよく見なさい」


 メリーは打ち込み台の前に立った。

 その距離は、槍の間合いよりもさらに遠い。


 彼女が右手を振るった。

 瞬間、大気が圧倒的な熱量を受け、空気が爆ぜるような凄まじい音が響いた。

 横薙ぎに払われた右手の先から、蒼紫の炎が剣のように噴き出す。

 炎の刃は空間を焼き焦がしながら伸び、遠く離れた打ち込み台を通過した。

 抵抗など存在しなかったかのように、鎧ごと土台の丸太が上下にずれる。

 ドサリ、と重い音を立てて上半分が地に落ち、残ったのは焼け焦げた土台だけだった。


「わかる? これと同じようなことができる敵がいるのよ」


 メリーの真剣な声が、そこにいた全員に染み渡る。

 静まり返る訓練所に、フェリシアの静かな声が続く。


「炎の色は違うけど、できることは弟もほぼ同じね。間合いも大体同じくらいだと思うわ」


「このまま出撃すれば、アレと同じように全員一刀両断よ」


 メリーは無残な姿になった打ち込み台を指差した。

 騎士団員たちは、青ざめた顔でそれを見つめている。


「あれが……」

「初めて見た……」

「噂の『紫の死神』か……」


 畏怖の混じった囁きが漏れる。

 それを耳にした瞬間、メリーの眉がぴくりと跳ねた。


「その、お尻がムズムズするような二つ名はどうでもいいわ。アル、ガレル、対策を練りなさい。すぐに」


 出撃までの時間は残り少ない。

 アルベルトとガレルは、真っ二つにされた鋼鉄の鎧を見つめ、険しい表情で沈黙した。


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