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7/10

優越感




 沙夜(幼馴染)視点

















 私には、幼馴染がいる。


 名前は佐伯悠斗。


 






 家が隣同士で、小学校の頃からずっと一緒だった。



 朝、カーテンを開ければ向こうの窓も同じタイミングで光を浴びる。

 太陽の光が差し込むその瞬間、互いの部屋の中が淡く明るくなるのを、私たちはなんとなく感じていた。

 登校時には玄関先で軽く会釈を交わし、休みの日には公園で笑い合う。


 そんな些細なやり取りのひとつひとつが、私の中で確かな安心感となり、心地よい日常になっていた。


 気が付けば、悠斗は私の世界の一部になっていた。彼の存在があるだけで、世界が少し優しく感じられる。そんな不思議な感覚だった。


 彼は真面目で、少し不器用なところがある。

 人に対して誠実で、誰かが困っていると手を差し伸べずにはいられない。

 けれど自分の感情は滅多に言葉にしないから、私にはその正直さが、わかりやすく、そして心地よかった。




 小さい頃は、私が泣きそうになるとそっと手を握ってくれたし、雨の日には傘を半分だけ差してくれて、自分だけ濡れても笑っていた。

 そんな悠斗を見て、私は自然に「守りたい」と思った。

 彼の優しさに触れるたび、胸の奥がじんわり温かくなる感覚。


 放課後の帰り道、手をつなぐのが当たり前で、何気ない会話で笑い合う時間が、私の一日の中で特別な瞬間になっていた。


 



 中学に入るころまでは、その関係は変わらなかった。

 


 放課後、一緒に帰る道での何気ない会話や、部活の帰りに交わす小さな笑顔。

 悠斗が私を見つめるたび、世界が少し温かくなるような感覚があった。

 何気ない一瞬の視線、言葉にならないやり取りさえも、私にとっては宝物だった。


 悠斗はいつも真剣に私の話を聞いてくれ、時には小さな冗談で笑わせてくれた。そんな彼の存在が、私の世界を形作っていた。





 けれど高校に入ると、少しずつ変わり始めた。



 視線の先が私だけではないことに気づいたとき、胸の奥で何かがきしむ音がした。

 悠斗は誰にでも優しい。クラスメイトにも、後輩にも、自然に笑顔を向ける。


 その光景を目にするたびに、胸の奥に小さなざわつきが広がるのを感じた。

 誰にでも平等に向けられるその優しさは、私にとっては少し痛みを伴うものだった。

 


 ――でも、これが現実なのだと、心のどこかで理解していた。









 最初のきっかけは、ほんの些細なことだった。


 ある日のこと。悠斗がクラスメイトに微笑みかけるのを見た。

 放課後、廊下ですれ違うときも、後輩に軽く声をかけて笑顔を見せる悠斗。

 私には、それが少し胸をざわつかせる光景だった。




 ――なんで、私だけじゃなくて……。




 その瞬間、嫉妬が胸の奥にじわりと広がった。

 幼い頃から、ずっと隣にいた悠斗。

 彼は私にとって、当たり前でなくてはならない存在だったのに、笑顔や優しさは私だけに向けられるものではなかった。


 誰にでも平等な彼の姿を見ると、心の奥でざわざわとした感情が湧き上がる。苛立ち、焦り、そしてどこか甘美な感情。


 その感情は、自然と行動に表れていた。

 放課後、ふとした言葉や態度で悠斗をぞんざいに扱う。


 「ちょっと、何…?」


 短く、ぶっきらぼうに、少し冷たい響きを意識して。



 悠斗の表情が少し曇ったのを見た瞬間、胸の奥に妙な高揚感が走る。


 落ち込む彼を見て、少しだけ私だけを意識してくれる ――その感覚が、私の中で小さな優越感を生み出した。




 それ以来、私は意識的に悠斗に冷たく接するようになった。

 

 朝の挨拶も短く、目を合わせる時間も最小限に。

 それでも悠斗は、どこかで私を追いかけるように目を向ける。


 そのたびに、胸の奥がじんわり熱くなる。落ち込む彼を見て、自分だけを見てくれることを確認できる瞬間。それが、私にとっての小さな満足だった。

 

 他の誰よりも私を気にかけてくれるようになった、悠斗をみて、


 高揚感と優越感が溜まっていくのが感じる…。



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