第85話 チョコレートたい焼き
柚月がご飯を食べ終え、柚月がそわそわと立ち上がった。
毎週恒例になった、チョコ交換会の時間だ。
柚月は、冷凍庫のいちばん奥からサーテ〇ワンのロゴが入った小さな紙袋を取り出した。
「じゃーん!チョコミント!先週、話してたら食べたくなっちゃって。どうせ食べるなら春野さんと一緒がいいなって思って、買ってきました!」
「そうなんですね。やっぱり話題に出ると食べたくなりますよね。それなら私のを先に食べた方がいいかもしれません」
透子はカバンから小さな袋を取り出す。袋の中には、魚のシルエットが並んでいた。
「たい焼きですか?」
「はい。実家の近くにあるたい焼き屋さんのたい焼きです。焼きたても絶品なんですが、冷凍でも販売してるんです。いろんな餡があって、その中にチョコレート入りがあったので、今日はそれを持ってきました」
柚月は目を丸くする。
「たい焼きを取り寄せって、そんなことできるんですね!」
「引っ越す前に食べに行って店員さんと話してたら『冷凍で発送できますよ』と教えてくれたんです。時々まとめて送ってもらうようになりました。常温解凍で、冷たいまま食べても、アイスみたいで美味しいんですけど、今日は正統派で行きましょう」
透子はそう言うと、レンジとトースターを借りて温めに向かう。
レンジでふわっと温めたあと、トースターで軽く焼き直すと、皮がこんがりと色づき、ほんのり甘い香りがリビングに広がった。
「熱々のうちにどうぞ。頭から行く派ですか? 尻尾から行く派ですか?」
「私はいつも頭からですね。餡が先に来ないと寂しいので」
「奇遇ですね、私もです」
ふたりは顔を見合わせて笑い、同時にたい焼きの頭へかぶりついた。
パリッ。
続いて、モチッとした皮の中から温かいチョコレートがとろりと溢れる。
柚月が声を上げた。
「おいしい! 外はパリッとしてるのに、中がモチっとしててチョコがとろける!」
「チョコ餡じゃなく、本物のチョコレートが入ってるのがポイントです」
「たい焼きってカスタードとか粒あんしか食べない派だったんですけど、これもあり!」
透子も一口かみしめ、満足そうに目を細める。表面の香ばしさと、ほどよく溶けたチョコレートが舌の上で混ざり合い、じんわりとした幸福感が広がった。
「頭から食べる人、やっぱり多いんですかね?」
「どうでしょう。尻尾派もいますし、背びれから割る派もいるみたいですよ」
「そんな派閥が……深い!」
たい焼きトークに花が咲き、あっという間に皿の上は紙袋と包み紙だけになった。
そして、次はチョコミントアイス。
ふたりでフタを外すと、ミントグリーンが鮮やかに現れる。
「お先にどうぞ」
「いえいえ、一緒に行きましょう!」
固くてスプーンがなかなか入らない。
「この固さがっ……ねっ!」
なんとかすくって、口に運ぶと、ミントの清涼感が舌に広がる。
「……やっぱりこれですよね」
「ええ、間違いありません」
ふたりは頷き合い、再びスプーンを動かす。熱々のたい焼きのあとだからこそ、ミントの冷たさがいっそう際立つ。
柚月は満足げに息をつき、スプーンをくるくると回してから口に運んだ。
「たい焼きで温を、チョコミントで涼の完璧なコースですね」
ふたりの前に、空の皿とカップが並ぶ。その光景はなんでもない午後を、少しだけ特別に彩っていた。




