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第80話 同僚からの信頼

 柚月宅を出た透子は、夕方前には会社へと戻ってきた。今日はもう外回りの業務はなく、事務所でのデスクワークが残っているだけだった。


 透子の所属する家事代行会社では、訪問先の報告書作成や備品管理、次回依頼に向けた準備、社内共有資料の更新といった業務も多く、現場に出ていない時でもやることは尽きない。


 透子のデスクは几帳面に整えられていて、清掃記録やチェックリスト、書類フォルダが整然と並び、まさに信頼される現場担当そのものの雰囲気だった。


 そんな時だった。


「春野さん」


 ふと顔を上げると、同僚の椎名が立っていた。つい先日、体調不良で数日休んでいた彼女だった。


「あっ、椎名さん。もう大丈夫なんですか?」


「うん、もう元気元気。この前は代わりに休日出勤してくれて本当に助かりました」


 そう言って椎名は、紙袋を差し出した。


「これ、ちょっとしたお礼。お菓子の詰め合わせだけど、良かったら」


「お気遣いなく。でも、ありがとうございます。嬉しいです」


 透子はにこやかに受け取り、丁寧にお辞儀した。


「そういえばね、この前白石さん宅に行ってきたんだけど、臨時で入った人、すごく丁寧で感じがよかったって話してたよ」


「それは嬉しいですね。あの方、少し繊細な印象でしたから」


「うん。でもね、チーフが春野さんにお願いしたって言ってて、それなら安心できるなって思ってたんだ」


「え……そうですか?」


「春野さん、仕事すごく丁寧じゃん。報告書とか見ても無駄がなくて、的確。現場での立ち振る舞いも、周りから安心されてるの分かるよ」


 思いがけないほどの褒め言葉に、透子は思わず姿勢を正した。


「ありがとうございます。プロとして意識はしていますけど、そう言っていただけるのは光栄です」


「うん、本当に。私、見習いたいなって思ってるよ」


 そんなやり取りのあと、椎名はぽつりと話を続けた。


「それにね、寡黙な方だなって感じだったけど……話してみると意外と色々話す人なんだよね」


「そうなんですね」


「うん、ただ普通の話だと頷いたりするだけで全然喋らないんだよね。ただ趣味の話になると止まらないくらい語るの」


 椎名は苦笑いしながら話す。


「趣味のお話だと、そうなる方、結構いらっしゃいますね」


「部屋の棚にキャラクターの絵がいっぱい並んでたでしょ? あれ、アクリルスタンドっていうんだけど、あれ全部、Vtuberって言うネットの配信者のキャラなんだって」


「確かにたくさん置いてありましたね」


 透子はあえて詳しいとは言わず、相槌だけで応じた。まさか自分が、そのVtuberと深く関わっているとは言えない。


「私、アニメは結構好きで見るから話についていけたんだけど、Vtuberってのは新鮮でね。色々勧められて、最近見始めてるんだ〜」


(どのVtuberを見てるんだろう。まさか柚葉? いや、まさか。でも気になる……聞きたい、けど聞けない)


 話しながら、椎名はふと自分に気づいたように笑った。


「あれ? 私、今ちょっと白石さんに似てきたかも。語りすぎてた?」


「いいえ。好きなものの話って、自然と熱がこもりますから。皆さん同じですよ」


 透子が微笑みながらそう言うと、椎名も照れたように笑ってうなずいた。


「春野さんって、話をちゃんと受け止めてくれるから安心して喋っちゃうんだよね」


「そう言っていただけると、嬉しいです」


 その言葉に、透子の口元がほんのりと綻んだ。静かな午後、職場に小さな優しさが灯っていた。


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