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第79話 お茶会は仕事

 アイスを食べ終えた透子は、そっと立ち上がってキッチンへ向かい、手際よく食器を片づけていく。さっと水を流しながらスポンジで汚れを落とし、洗った食器を丁寧に伏せて並べると、キッチンの中はすっきりと整っていた。


 その静かな空間に、柚月の明るい声が届く。


「春野さーん、次どうしましょうか〜?」


 透子は水気を切った手をタオルで拭きながらリビングの方を振り返る。


「お題決め、なかなか難しいですね」


「うん、ね。チョコ縛りもそろそろ限界近いし、いっそお菓子って括りでもいいのかな〜とか思ってます」


 透子は少し考え込みながら、流しの縁に手を添える。


「お仕事もありますし、隔週にしてみても……」


「だめです!」


 柚月がすかさず否定する。


「このちょっとしたお茶会が、毎週の癒しなんですから!」


 透子は驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑顔になった。


「でも、勤務中ではありますから……」


「だから! 最近片付けてるんですよ、ちゃんと!」


 胸を張る柚月の言葉に、透子はうなずいた。


「確かに、片付けていただいて助かっていますが、本来ならその時間を使って――」


「一緒にお茶するのも、仕事って前にも言いました!」


 言葉を遮り、きっぱりと言い切る柚月を見て、透子は思わず小さく吹き出してしまう。


「わかりました。お茶会お付き合いします」


「やったー! じゃあ、次は普通にスーパーとか寄って気になったものを買ってきましょ。お茶会ができればそれでいいんです!」


「わかりました。あと、片付けが習慣化していくといいですね」


 透子が穏やかに言うと、柚月は小さくうなずいた。


「最近、ゴミはすぐに捨てるとか、机に物を置かないようにとか、ちょっと意識してますよ」


「それだけでも大きな進歩です。片付いた部屋に慣れると、自然と散らかしたくなくなりますから」


「でもね、ペットボトルのラベル剥がして洗って乾かして……ってなると、無理〜ってなっちゃうんです」


 肩をすくめた柚月に、透子は優しく微笑む。


「それも、少しずつで大丈夫です。無理なく、できることから」


  時間になり、透子は片づけを終えて立ち上がる。


「それでは、今日はこの辺で失礼します」


 リビングに顔を出して声をかけると、柚月が手を振りながら笑顔で返した。


「気をつけて帰ってくださいね!」


「ありがとうございます。まだ明るいですし、大丈夫です」


 軽く頭を下げ、玄関を出た透子は、エントランスを抜けて外に出る。夕暮れにはまだ早い午後の光があたりを包み、空には薄い雲が浮かんでいた。


 ちょうど下校時間だったのか、小学生たちが元気に走りながら「こんにちはー!」と声をかけてくる。


 透子も思わず笑顔で「こんにちは」と返した。


 その後ろから歩いてきた中年の男性にも同じように挨拶され、「こんにちは」と軽く会釈を返す。


 賑やかな声と明るい日差しに背中を押されるように、透子の足取りは自然と軽くなる。


 そんな心地よさを感じながら、彼女は会社へと戻っていった。

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