第78話 チョコアイス
柚月がパクパクと美味しそうにパエリアを食べる様子を確認すると、透子は静かにキッチンへと向かった。洗い物は少なく、フライパンと調理に使った器具を手早く片づけていく。
料理後のキッチンは手早く整えられ、すぐに元の清潔な状態へと戻った。
そんな中、リビングから弾むような声が聞こえてくる。
「アイスアイス〜♪」
透子がリビングに顔を出すと、柚月が両手を広げて待っていた。
「冷凍庫の袋をお持ちしたらよろしいですか?」
「それです、それです!お願いしますっ」
冷凍庫を開け、透子は自分の用意したアイスと、柚月が用意していた袋のアイスを取り出す。手に取った瞬間、透子はふと首をかしげた。
少し嫌な予感を胸に、二つの袋をテーブルに並べる。
「じゃあ、どっちから出しますか?」
柚月がワクワクした表情で聞くと、透子は微笑みながら提案する。
「せーので、同時に出してみませんか?」
「いいですね、せーの!」
合図に合わせて袋を開けた瞬間、二人の手元に現れたのは、まったく同じアイスだった。
「……えっ? 板チョコア〇ス?」
柚月がぽかんとした表情で透子を見る。
「持った時に、なんとなくそんな気がしたんです」
透子が苦笑い混じりに言うと、柚月はその場に崩れ落ちそうな勢いで肩を落とした。
「ま、マジか〜……」
「まさか、お互い新しい発見を期待しての交換が、同じアイスになるとは思いませんでしたね」
呆れたように、でもどこか楽しそうに透子が言う。
「数あるチョコアイスの中から、ピンポイントで同じの選ぶなんて……ある意味すごいですよね」
「うーん……そーですねぇ〜……」
テンション低めにうなだれていた柚月だが、突然顔を上げて叫ぶ。
「でもこれって……運命っ!? 二人の好みがぴったりってことで!」
勢いよく声を張り上げたものの、その直後に再びしょんぼりと肩を落とす。
「……でもなー、せっかくなら違うの食べて感想言い合いたかった……」
「お気持ちは、よくわかります」
透子も同じ気持ちなのだろう、苦笑しながら同意する。
板チョコアイスを一口、口に運ぶ柚月。その表情が一気に和らぎ、にっこりと笑う。
「でも、やっぱり美味しいですね~。チョコの厚みとバニラのバランス、最高です」
そんな様子を横目に見ながら、透子もひと口。うなずくように微笑んだ。
「他に何か迷ったのありました?」
アイスの甘さが口に広がるなか、柚月が尋ねる。
透子は少し首をかしげてから、手に持ったアイスを見つめる。
「提案したときに浮かんだのがこれだったので、それ以外だと……サーテ〇ーワンのチョコミントですかね」
「春野さん、チョコミント好きなんですか?」
興味津々な表情で身を乗り出してくる柚月に、透子はちょっと照れくさそうに笑った。
「はい。よく歯磨き粉って言われますけど……美味しいですよ」
「わかります! 私もチョコミント好きですっ」
柚月はうれしそうにうなずきながら、少しだけ声を張る。
「そもそもですよ、歯磨き粉に使われてるってことは――それだけ世界に認められてる味ってことじゃないですか!」
その言葉に透子は小さく吹き出した。
「力、入ってますね」
「だって……食べてると美鈴がいつもまた歯磨き粉食べてる~ってバカにするんですもん」
唇を尖らせた柚月の顔は、どこかふてくされたような、それでいて可愛らしい雰囲気があった。




