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第76話 買い出し

 田中宅での業務を終えた透子は、外に出るとやわらかな陽射しに目を細めた。今日はこのあと、午後から柚月宅への訪問が控えている。


  透子は電車を乗り継いで柚月宅へ向かう前に、途中の公園に立ち寄った。ベンチに腰掛け、バッグから取り出したのは、自分で作ってきたおにぎり。鮭と昆布の二種類で、忙しい日でも手軽に食べられるようにと用意してきたものだ。


 木漏れ日が心地よく、近くでは子どもたちの笑い声が響いている。そんな穏やかな昼下がりの空気の中で、透子はおにぎりを頬張りながらひとときの休息を取った。


 おにぎりを食べ終え、飲み物で一息ついたあと、透子は再び足を動かした。柚月宅近くのスーパーへと向かう。今日の献立は、フライパンで作るパエリア。手間は少なく、それでいて華やかさもある一品だ。


 カゴの中に次々と材料を入れていく。冷凍コーナーに立ち寄り、シーフードミックスを手に取る。


(時間に余裕があるわけじゃないし、冷凍を使えば時短になる。味も悪くないし)


 食材が揃ったところで、透子の足は自然とアイスコーナーへ向かっていた。目当ての品は、決まっていた。


(あった)


 棚の一角に、目当ての「板チョコア〇ス」が並んでいるのを見つけると、透子の表情がふわりと和らぐ。


 厚めのチョコレートでコーティングされたアイス。中にはなめらかなバニラが詰まっていて、チョコとバニラのバランスが絶妙な一本。チョコレートアイスのお題を決めたとき、真っ先に頭に浮かんだのがこれだった。


(チョコレートの比率が多くて、満足感があるんですよね。高山さん、気に入ってくれるといいけど)


 アイスをカゴに入れると、透子はレジに向かう。普段はセルフレジを利用することが多いが、今日は有人レジが空いていたため、そちらへ向かった。


「いらっしゃいませー」


 対応してくれたのは、ほがらかな印象のおばちゃん店員だった。


 透子は、カゴを台に乗せながら、丁寧にお願いをする。


「あの、すみません。このアイスだけ、レシートを別にしていただけますか?」


「はいはい、もちろん大丈夫ですよ」


 柚月と一緒に食べるとはいえ、顧客の買い物と一緒に買うわけにはいかない。


 持ってきたマイバックへつめてもらい、二枚のレシートを受け取って一礼。


「ありがとうございます」


「お気をつけてね」


 おばちゃん店員に見送られ、スーパーを出て、柚月宅へ向かう。


(パエリア気に入ってもらえるでしょうか)


 新しい料理に挑戦するわけではないが、人に出すとなると、やはり緊張もある。けれど、柚月がどんな反応をしてくれるかと思うと、自然と足取りは軽くなる。


(さて、今日も一日、がんばりましょう)


 そう心の中で呟きながら、透子は目的地に向かって歩き続けた。

ちょっとペース落ちて週2、3話の更新予定です。

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