表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/91

第73話 スパイスと昔話

 洗い物を終えた透子が蛇口を止めた頃、ちょうど食べ終えた美鈴が皿を手にキッチンへやって来た。


「ごちそうさまでした。ほんと美味しかったです」


 笑顔のまま皿を差し出す美鈴は、まだ余韻が残っているようだった。


「スパイスだけでここまで美味しくなるとか、ちょっと反則ですね」


「いろんな調味料を入れて漬け込むのも楽しいですが、このスパイスのおかげで手軽に美味しくできるようになりました」


 透子が皿を受け取り、軽くすすぎながら答える。


「アウトドアスパイスって、最近種類もたくさん出てるよね。スーパーとかでも見かけるようになったし、いろいろ試してみるのも楽しそう」


「一番のおすすめは、ほり〇しですが、他のスパイスもそれぞれ個性があって美味しいですよ」


「よし、今度スーパー行ったときにスパイス売り場じっくり見てみます!」


 ふと、美鈴が思い出したように言った。


「そういえば春野さんって、もともと料理得意だったんですか?」


 透子は少しだけ手を止め、懐かしそうに笑った。


「実は、得意というより、必要に迫られて始めた感じなんです。私、父方の祖父母と一緒に住んでいた時期があって……その祖父がとても厳しい人で」


「へえ……どんな感じだったんですか?」


「看護師の母が夜勤の日でも、ご飯は嫁が作るもんだっていう考えの人で。母がどんなに疲れていても、ご飯は当然のように待っているような人でした」


「うわぁ……大変そう」


「ええ、でも、そんな中で少しでも母の力になれたらと思って、小さい頃から台所に立つようになったんです。最初はお米を研ぐとか、野菜を洗うくらいでしたけど、徐々に包丁も握らせてもらえるようになって」


「それって、すごく健気……」


「でも、ありがたかったのは、母がその頑張りをちゃんと見てくれていたことです。褒めてくれましたし、教えてくれましたし。だから今でも料理は、母との繋がりを思い出せる、大切な時間なんです」


「なんだか……すごくあったかい話ですね」


「それに、こうして誰かにご飯を作って、美味しいって言ってもらえるのが本当に嬉しくて。だから、あの頃があったから今があるって思ってるんです」


「春野さんって……本当に優しい人ですね」


「いえいえ。結果的にこうして仕事にも活かせれてますし、悪くはなかったなって」


 透子の表情には、過去に対するネガティブな色はまったくなかった。


「なんだか春野さんらしいなあ」


 美鈴はふっと笑い、お茶を一口すする。


「春野さんって、なんか安心感あるんですよね。こうやって一緒にいると、肩の力が抜けるというか」


「そんなふうに言っていただけると、こちらも嬉しいです」


「さて、次は何お願いしようかな。もう一度唐揚げでもいいくらいだけど……次は違う料理も食べてみたいし」


「もちろん、ご希望があれば何でも。ジャンル問わず、言ってください」


「じゃあ、今度はちょっと洋食系いってみようかな」


「承知しました。何がいいか、また思いついたら教えてくださいね」


 スパイスの余韻と、ほのぼのとした会話の流れの中、午後の穏やかな時間が過ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ