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第60話 公平なメニュー

 翌日。透子は午後一番で名取美鈴の部屋を訪れた。ドアを開けると、美鈴はいつものようにラフな格好で迎えてくれる。


「いらっしゃい。今日もよろしくね、春野さん」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 透子は今日のメニューの準備に取りかかる。まずは豆腐の水切りから始め、しっかりとキッチンペーパーで包んで重しを載せる。次に玉ねぎとしめじを炒めながら、ホワイトソース用のバターと小麦粉を丁寧に混ぜていく。


 手際よくソースを仕上げ、下ごしらえした豆腐と炒めた具材を合わせ、耐熱皿に盛りつけて上からチーズをたっぷりとかける。オーブンに入れ、タイマーをセットすると、部屋中に芳ばしい香りが広がり始めた。


「今日のメニューは、豆腐グラタンです。昨日、高山様にもお出ししたもので、チーズをたっぷり使いつつ、豆腐で軽やかに仕上げてあります」


「聞いた聞いた、ヘルシー系。女子力高いやつだ」


 キッチンからただよう香ばしい匂いに、美鈴が鼻をくすぐられたようにくんくんと空気を吸い込む。


「美味しそうな匂い……春野さんが作ると、なんでも期待値上がるんだよなぁ」


「ありがとうございます。熱いうちにどうぞ」


 焼きあがったグラタンを取り出し、リビングのテーブルに運ぶ。美鈴が一口食べると、口元がゆるみ、目を細めた。


「うん、これ……チーズのコクがしっかりあって、でも豆腐だから重くない。確かにチーズ好きのゆずなら喜びそう」


「ええ、名取様からチーズがお好きだと教えていただけたおかげです」


 テーブルに手を置いたまま、美鈴が少し表情を改めて口を開いた。


「実はちょっと提案があるんだけどさ」


「はい?」


「この前、ゆずが『いじわるしないで』って言ってたでしょ」


「はい、伺いました」


「あれ、メニューが違うと、そっちのほうがいいとか羨ましいとか言い出すのよ。あいつ、そういうとこあるからさ」


「なるほど、たしかに」


「それに、ゆずとはちょくちょく連絡取ってるし、メニューが違うと比較しちゃうこともあると思うんだよね。だから、基本的に同じメニューにしてくれると助かるなって」


「了解しました。同じメニューであれば私もメニュー考える時間が減って助かります」


「だよね。もちろん、私がどうしてもこれ食べたいってときは言うし、そのときは別メニューでお願いしたいけどさ」


「はい、作れるものであれば柔軟に対応いたしますので、遠慮なくお申し付けください」


 美鈴は軽く肩をすくめ、にやりと笑った。


「で、自分が毎回後になるのは……まあ、ゆずが春野さん紹介してくれた手前、我慢してやる。順番くらい、気にしない気にしない」


「ありがとうございます。では、同じメニューを基準に調整してまいります」


 透子の丁寧な返答に、美鈴も満足げに頷く。


「もしかしたら柚月と相談して、食べたいメニューとかジャンル伝えるかもしれない」


「いいですね。それなら私もメニューを考えやすくなりますし、お二人のご希望に沿える形で工夫させていただきます」


「ほんと頼りになるなぁ。私、春野さんに頼んで正解だったよ」


 その言葉に、透子は姿勢を正して静かに頭を下げた。


「そう言っていただけるのが、何よりの励みになります」


(推しとの関係だけじゃなく、こうして周囲との信頼関係が築けているのも、嬉しいことだ)


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